傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「プレシャス」

輝くのは誰だって舞台の上。

 

プレシャス(字幕版)

プレシャス(字幕版)

 


【あらすじ】

プレシャスは父親から性的虐待を受け、母親から虐げられている生活を送っていた。二度目の妊娠が発覚し、学校を追い出されてしまうが哀れんだ校長が「代替スクール」を紹介してくれる。クセのある級友とプレシャスを支援してくれる人達に囲まれて、彼女は少しずつ自信を取り戻していく。


【感想】

全体的にすごくひどいと思えるのは、プレシャスを演じるガボレイ・シディベの凄みなんだと思った。現実パートの絶望に打ちひしがれる顔と、妄想パートの明るくてキラキラ輝いている笑顔の落差が本当にすごい。表情だけでこれだけ人相が変わるものか、と思う。妄想パートだけ見たらすごく楽しそうな少女なのに、現実パートのクソっぷりはなんなんだ。


母親役のモニークも鬼気迫る演技というか、残酷なんだけど見せつけられるものを感じる。いくつかすごい長台詞があるんだけど、そこがもうすごい。ある意味この人も被害者なんだけど、だからと言ってプレシャスを虐待していた過去は消えない。途中まで完全に悪者だったのに、ラストで「この人もこの人で苦労したんだよな」と思うと、いたたまれない。でもやったことはチャラにならないんだよなぁ。


一番クソなのは父親なんだろうけど、おそらく彼もどこかで何かしらの「被害者」の要素を持っているんだろうなと思う。虐待はかくも連鎖していく。叩かれて育った子は人を叩くようになるし、思いやりを受けて育った子は他人を思いやるようになる。それだけだよね。


ただちょっとこの映画の「虐待」が相当リアルでびっくりした。叩く蹴る暴言をぶつける、だけでなく母親が娘に対して「嫉妬」した末の行動が果てしなく醜くてゲロ吐きそうになる。わざと太らせてブタと罵り、勉強は必要ないと家事をさせてこき使う。そのくせ生活保護のために祖母に丸投げしたプレシャスの子供を可愛がるフリをする。家から出ることもせず、ナンバーズとテレビだけの生活。そう言えば「レクイエム・フォー・ドリーム」でも年老いた母親がテレビに依存するという描写があったなぁ。


ただこの映画を見ても結末は基本的にクソだし「現実ハンパなくエグいな!」しかない。せめてもの救いが「あんたなんか知らねえよ」とプレシャスが母親を突き放すことができたくらい。マライア・キャリー目当てでこの映画を見た人は辛いだろうな。多分それが目的なんだろうけど。現実えげつないです。おわり。