傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「万引き家族」

拾った人、持ち主。落とした人、泣き虫。

 


【あらすじ】

柴田家は派遣で工事現場に出る治、クリーニング工場のパートの信代、風俗で働く亜紀、学校に行かず万引きをする祥太、年金で暮らす初代で亜紀以外は何らかの窃盗を繰り返し生きている。ある冬の日、治と祥太は集合住宅のベランダに締め出されている少女「ゆり」を「拾って」帰ってくる。虐待されていた「ゆり」はこの奇妙な家族で居場所を得ていく。


【感想】

ずっと見たかったのをやっと見ることができました。そんで期待通りすごく面白かったです。最初に野暮を言うなら、情報量がすごく多くて飲み込めない人もいるんじゃないかなぁということです。とにかく複雑な映画で、「賛否」というのはその辺に出たのかなぁと思いました。見るところが多すぎて、ちょっと疲れるのよねコレ。

 

でも本当によく出来た映画で、役者に演出構成全てが「こなれてる」というか、ある意味「あぁ是枝監督の絵だな」という匂いがついていて安心して見ていられる。ドキドキもないけど、ハラハラもない。淡々と崩壊に向かっていく。終着点についてもまだ生活が続く余韻が残る。何も始まってないから何も終わらない。すげぇ。

 

この映画を見ながら2つの作品を思い出しました。ひとつは「虐待されている子を拾って絆を作る」という観点で「チョコレートドーナツ」。もうひとつは「家族とは何か」というところで「菅井君と家族石」です。以下2つの作品の結末などについて触れていくのでネタバレが嫌な方は回れ右してください。

 

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「チョコレートドーナツ」は言わずと知れた名作で説明不要のところがあると思うけど、「菅井君と家族石」は結構マイナー作品だと思うので補足を。「鷹の爪シリーズ」でお馴染みのFROGMANが「鷹の爪」の前に制作したフラッシュアニメで、吉田くんとフィリップは実はこちらの作品で初登場したのを「鷹の爪」に流用されていて、初代「秘密結社鷹の爪」の第9話にも菅井君たちがゲスト出演している。

 

 

 

菅井君と家族石」は映画もあるけど、「万引き家族」の話をするならテレビシリーズを見た方がいい。まさに結末が「万引き家族」と同じで「家族だと思っていたけど実は全員血が繋がっていませんでした」というもの。あと貧困ゆえむちゃくちゃな生活を送っているのも似ている。彼らは万引きじゃなくて野生のクマとか雑草を食べてたけど。

 

「チョコレートドーナツ」も全員血の繋がりはないが絆が芽生えている。そして世間の無理解によって引き離されるというのも一緒。「チョコレートドーナツ」のほうは万引きなどしていないし現代から見れば不条理以外の何物でもないけれど。

 

万引き家族」に話を戻すと、ごちゃごちゃとした家に塩でおねしょを止めようというおばあちゃん、日雇い労働者の父親にクリーニング工場でネコババする母親、風俗で働く娘に盗みしか知らない息子。どこから見ても「こりゃダメでしょ」という家。

 

どこを切っても闇しか出てこないんだけど、個人的に1番気になったのは樹木希林演じるおばあちゃんの過去。年金と慰謝料で暮らしているというおばあちゃんの言う「慰謝料」は別れた夫の家族から貰っているお金だった。そこで亜紀はそこの家の娘だということが判明するのだけど、息子さんが「母が申し訳ないことをした」と謝るところが生々しくてすごく辛くなった。事情は詳しくは語られないけど、おそらく不倫関係からの略奪婚だったのではないだろうか。

 

そう考えると、樹木希林の置かれた状況と別れた夫の家の状況を比べてしまってすごく悲しい。経済力のある夫は離婚をしても豊かな暮らしができるけど、経済力のない妻はあっという間に貧困一直線だ。もし離婚をしなければ樹木希林はあの家にいたかもしれない。女性の貧困の一端がほんの少しだけ垣間見えた。決して言葉で説明していないけど、大きな問題をぶち込んでくる。恐ろしい。

 

亜紀といえば風俗店のシーンはあまりにも美しく、そして悲しかった。娼婦の聖性という言葉も思い出した。翔太の万引きが実はバレていたというシーンも辛い。そりゃあんな身なりの子が何も買わずに頻繁にやって来ていたらマークしちゃうよね。

 

夏におばあちゃんが死んだあたりから、ゆるやかに生活が変わっていく。翔太は万引きをすることに疑問を持つようになり、信代が仕事をクビになって(人員整理という名目だったけど、手癖の悪い従業員を何とかしたかったんだと思う)ますます家計は圧迫していく。

 

最終的に翔太がりん=樹里の万引きを庇ったことで全てが明るみに出てしまう。翔太を病院に残して夜逃げ同然で逃げ出そうとする一家を捉える警察。おばあちゃんの死体遺棄まで見つかって、前科のある治に変わって信代が全ての罪をかぶることに。

 

亜紀は家に帰され、結局身元のわからない翔太は養護施設へ行くことに。次の冬、翔太は信代から実の両親の手がかりを聞く。翔太は車上荒らしのついでに真夏のパチンコ屋の駐車場で拾われたのだ。その夜、何とか1人で暮らしている治と翔太は降ってきた雪で「親子同然」に遊ぶが、一緒にいればいるほどどうしようもない現実を突きつけられてしまう。リリーフランキーの「父ちゃん、おじさんに戻るよ」が悲しくて悲しくて、最後のバスのシーンは涙ものでした。

 

ラストの元に戻ってしまったりん=樹里も救いがないように見えて、あの家族で過ごした日々がりん=樹里の中で「家族と過ごした」経験として息づいているのがわかって絶望的なエンドだとは思いませんでした。まぁあの母親はぶっ飛ばしたいというか、児童相談所仕事してーとは思う。

 

全体的にこれでもかと是枝節が見え隠れして、そんで悲しい現実の中に家族の楽しい思い出があって、なんか見た後に「家族ってなんだろうな」と思うんです。完全に「菅井君と家族石」です。みんなで見よう菅井君と家族石。今見たらすごく荒いFlashアニメで辛いかもしれないけど、それでも楽しいから。個人的にじーちゃんが好き。おわり。