傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「プレシャス」

輝くのは誰だって舞台の上。

 

プレシャス(字幕版)

プレシャス(字幕版)

 


【あらすじ】

プレシャスは父親から性的虐待を受け、母親から虐げられている生活を送っていた。二度目の妊娠が発覚し、学校を追い出されてしまうが哀れんだ校長が「代替スクール」を紹介してくれる。クセのある級友とプレシャスを支援してくれる人達に囲まれて、彼女は少しずつ自信を取り戻していく。


【感想】

全体的にすごくひどいと思えるのは、プレシャスを演じるガボレイ・シディベの凄みなんだと思った。現実パートの絶望に打ちひしがれる顔と、妄想パートの明るくてキラキラ輝いている笑顔の落差が本当にすごい。表情だけでこれだけ人相が変わるものか、と思う。妄想パートだけ見たらすごく楽しそうな少女なのに、現実パートのクソっぷりはなんなんだ。


母親役のモニークも鬼気迫る演技というか、残酷なんだけど見せつけられるものを感じる。いくつかすごい長台詞があるんだけど、そこがもうすごい。ある意味この人も被害者なんだけど、だからと言ってプレシャスを虐待していた過去は消えない。途中まで完全に悪者だったのに、ラストで「この人もこの人で苦労したんだよな」と思うと、いたたまれない。でもやったことはチャラにならないんだよなぁ。


一番クソなのは父親なんだろうけど、おそらく彼もどこかで何かしらの「被害者」の要素を持っているんだろうなと思う。虐待はかくも連鎖していく。叩かれて育った子は人を叩くようになるし、思いやりを受けて育った子は他人を思いやるようになる。それだけだよね。


ただちょっとこの映画の「虐待」が相当リアルでびっくりした。叩く蹴る暴言をぶつける、だけでなく母親が娘に対して「嫉妬」した末の行動が果てしなく醜くてゲロ吐きそうになる。わざと太らせてブタと罵り、勉強は必要ないと家事をさせてこき使う。そのくせ生活保護のために祖母に丸投げしたプレシャスの子供を可愛がるフリをする。家から出ることもせず、ナンバーズとテレビだけの生活。そう言えば「レクイエム・フォー・ドリーム」でも年老いた母親がテレビに依存するという描写があったなぁ。


ただこの映画を見ても結末は基本的にクソだし「現実ハンパなくエグいな!」しかない。せめてもの救いが「あんたなんか知らねえよ」とプレシャスが母親を突き放すことができたくらい。マライア・キャリー目当てでこの映画を見た人は辛いだろうな。多分それが目的なんだろうけど。現実えげつないです。おわり。

 

感想「万引き家族」

拾った人、持ち主。落とした人、泣き虫。

 


【あらすじ】

柴田家は派遣で工事現場に出る治、クリーニング工場のパートの信代、風俗で働く亜紀、学校に行かず万引きをする祥太、年金で暮らす初代で亜紀以外は何らかの窃盗を繰り返し生きている。ある冬の日、治と祥太は集合住宅のベランダに締め出されている少女「ゆり」を「拾って」帰ってくる。虐待されていた「ゆり」はこの奇妙な家族で居場所を得ていく。


【感想】

ずっと見たかったのをやっと見ることができました。そんで期待通りすごく面白かったです。最初に野暮を言うなら、情報量がすごく多くて飲み込めない人もいるんじゃないかなぁということです。とにかく複雑な映画で、「賛否」というのはその辺に出たのかなぁと思いました。見るところが多すぎて、ちょっと疲れるのよねコレ。

 

でも本当によく出来た映画で、役者に演出構成全てが「こなれてる」というか、ある意味「あぁ是枝監督の絵だな」という匂いがついていて安心して見ていられる。ドキドキもないけど、ハラハラもない。淡々と崩壊に向かっていく。終着点についてもまだ生活が続く余韻が残る。何も始まってないから何も終わらない。すげぇ。

 

この映画を見ながら2つの作品を思い出しました。ひとつは「虐待されている子を拾って絆を作る」という観点で「チョコレートドーナツ」。もうひとつは「家族とは何か」というところで「菅井君と家族石」です。以下2つの作品の結末などについて触れていくのでネタバレが嫌な方は回れ右してください。

 

菅井君と家族石 The Perfect [DVD]

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「チョコレートドーナツ」は言わずと知れた名作で説明不要のところがあると思うけど、「菅井君と家族石」は結構マイナー作品だと思うので補足を。「鷹の爪シリーズ」でお馴染みのFROGMANが「鷹の爪」の前に制作したフラッシュアニメで、吉田くんとフィリップは実はこちらの作品で初登場したのを「鷹の爪」に流用されていて、初代「秘密結社鷹の爪」の第9話にも菅井君たちがゲスト出演している。

 

 

 

菅井君と家族石」は映画もあるけど、「万引き家族」の話をするならテレビシリーズを見た方がいい。まさに結末が「万引き家族」と同じで「家族だと思っていたけど実は全員血が繋がっていませんでした」というもの。あと貧困ゆえむちゃくちゃな生活を送っているのも似ている。彼らは万引きじゃなくて野生のクマとか雑草を食べてたけど。

 

「チョコレートドーナツ」も全員血の繋がりはないが絆が芽生えている。そして世間の無理解によって引き離されるというのも一緒。「チョコレートドーナツ」のほうは万引きなどしていないし現代から見れば不条理以外の何物でもないけれど。

 

万引き家族」に話を戻すと、ごちゃごちゃとした家に塩でおねしょを止めようというおばあちゃん、日雇い労働者の父親にクリーニング工場でネコババする母親、風俗で働く娘に盗みしか知らない息子。どこから見ても「こりゃダメでしょ」という家。

 

どこを切っても闇しか出てこないんだけど、個人的に1番気になったのは樹木希林演じるおばあちゃんの過去。年金と慰謝料で暮らしているというおばあちゃんの言う「慰謝料」は別れた夫の家族から貰っているお金だった。そこで亜紀はそこの家の娘だということが判明するのだけど、息子さんが「母が申し訳ないことをした」と謝るところが生々しくてすごく辛くなった。事情は詳しくは語られないけど、おそらく不倫関係からの略奪婚だったのではないだろうか。

 

そう考えると、樹木希林の置かれた状況と別れた夫の家の状況を比べてしまってすごく悲しい。経済力のある夫は離婚をしても豊かな暮らしができるけど、経済力のない妻はあっという間に貧困一直線だ。もし離婚をしなければ樹木希林はあの家にいたかもしれない。女性の貧困の一端がほんの少しだけ垣間見えた。決して言葉で説明していないけど、大きな問題をぶち込んでくる。恐ろしい。

 

亜紀といえば風俗店のシーンはあまりにも美しく、そして悲しかった。娼婦の聖性という言葉も思い出した。翔太の万引きが実はバレていたというシーンも辛い。そりゃあんな身なりの子が何も買わずに頻繁にやって来ていたらマークしちゃうよね。

 

夏におばあちゃんが死んだあたりから、ゆるやかに生活が変わっていく。翔太は万引きをすることに疑問を持つようになり、信代が仕事をクビになって(人員整理という名目だったけど、手癖の悪い従業員を何とかしたかったんだと思う)ますます家計は圧迫していく。

 

最終的に翔太がりん=樹里の万引きを庇ったことで全てが明るみに出てしまう。翔太を病院に残して夜逃げ同然で逃げ出そうとする一家を捉える警察。おばあちゃんの死体遺棄まで見つかって、前科のある治に変わって信代が全ての罪をかぶることに。

 

亜紀は家に帰され、結局身元のわからない翔太は養護施設へ行くことに。次の冬、翔太は信代から実の両親の手がかりを聞く。翔太は車上荒らしのついでに真夏のパチンコ屋の駐車場で拾われたのだ。その夜、何とか1人で暮らしている治と翔太は降ってきた雪で「親子同然」に遊ぶが、一緒にいればいるほどどうしようもない現実を突きつけられてしまう。リリーフランキーの「父ちゃん、おじさんに戻るよ」が悲しくて悲しくて、最後のバスのシーンは涙ものでした。

 

ラストの元に戻ってしまったりん=樹里も救いがないように見えて、あの家族で過ごした日々がりん=樹里の中で「家族と過ごした」経験として息づいているのがわかって絶望的なエンドだとは思いませんでした。まぁあの母親はぶっ飛ばしたいというか、児童相談所仕事してーとは思う。

 

全体的にこれでもかと是枝節が見え隠れして、そんで悲しい現実の中に家族の楽しい思い出があって、なんか見た後に「家族ってなんだろうな」と思うんです。完全に「菅井君と家族石」です。みんなで見よう菅井君と家族石。今見たらすごく荒いFlashアニメで辛いかもしれないけど、それでも楽しいから。個人的にじーちゃんが好き。おわり。

感想「ハロウィン(2018)」

僕らのマイケル・マイヤーズが帰ってきた!

 


映画『ハロウィン』本予告編

【あらすじ】

前作『ハロウィン』の殺戮から40年。過去の事件を再検証する記者があのマイケル・マイヤーズに面会するが、彼は何も語らなかった。次にローリーの元へ向かうが、追い返されてしまう。そしてマイケルを移送する車が事故にあっているのが発見される。ハロウィンの夜、再びマイケル・マイヤーズは殺戮を繰り広げる。


【感想(ネタバレなし)】

みんな大好きハロウィンの完全新作とあってウキウキワクワクです。見に行ったのがGWど真ん中の映画の日だったせいか夕方からのホラーにも関わらず満席となかなかない体験をしました。

 

さて今作のハロウィンですが、これだけ見ても楽しめるようにはなっています。前作との繋がりも少しありますが、「昔やべぇ事件があったんだな」くらいで全然行けます。だけど出来ればジョン・カーペンター版『ハロウィン』を抑えておくとより楽しめるかなぁと思います。

 

ロブ・ゾンビ版でもいいけど、やっぱりオリジナルのほうが話はわかりやすい。でも個人的にロブ・ゾンビ版はめっちゃ好き。ロブ・ゾンビは『ハロウィン2』も作ってるけど完全に「俺の嫁映画」になってるので鑑賞は必須ではないかな。

 

ハロウィンは13日の金曜日みたいに設定がガタガタな続編が出まくってるんだけど、ブギーマンことマイケル・マイヤーズはフレディみたいにおしゃべりしないし、ジェイソンみたいに殺戮にバラエティ性もないしレザーフェスみたいに見た目の派手さもない。でもそのちょっと地味だけど対話不能っぽいところがすごく好き。真面目に何考えてるかわかんない度はトップレベルだと思う(レザーフェイスは2とか見ると人間味溢れてる)。

 

さて今作ですが、オリジナル版のあらすじをなぞりながらブギーマンVSローリーの構図になっています。ローリーの娘と孫も深くストーリーに関わってきますが、あまりベタベタしていなくて最終的には良い気分になれます。ホラー映画で味わう爽快感、最高です。

 

以下映画の内容に触れまくりなのでゾッとしたい鑑賞を希望する方はお帰りください。

 

ハロウィン

ハロウィン

 


【感想(ネタバレあり)】

まず「さすがにルーミス死んでるだろ」ってことで新キャラがルーミスの後釜に収まっているのですが、このキャラが後々超いい仕事をします。

 

例の事件を追う記者二人の退場は思ったより早かったですね。もう少し出てきてくれるとばかり思っていたのですが、ガソリンスタンドのシーンで超見せ場があったので良しとします。

 

今作で1番面白かったのは、ローリーが対マイケル・マイヤーズ用に武闘派にチェンジしていることでした。しかし武闘派すぎて娘カレンにも虐待まがいの訓練を仕込み、娘と別々に暮らすことに。孫のアリソンは祖母を心配しているが、ローリーの中の地獄を彼女たちは知らない。ボニー&クライドの逆仮装とかして盛り上がっちゃう。

 

ところでアリソンの彼氏、別の女の子にコナかけてたからアリソンと別れて、それで退場なわけだけど、おかげでマイケル殺戮から逃れられたと思えばラッキーだったのかな。いや、コナかけてなかったらアリソンが友人1に壁ドンされることもなかったから余計話をややこしくしてしまったのかもしれない。

 

そんなこんなで野に放たれるマイケル・マイヤーズ。個人的に「金槌を手にする→ギャーっと言う声→包丁に武器チェンジ」のテンポの良さがいいですね。あとリズミカルに死体が増えていくところもいい。

 

この辺でローリーがカレン旦那に武器を渡すシーンはドラえもんがネズミを退治するのにジャンボガンと熱線銃を用意しているように見えて結構滑稽でした。

 

さてブギーマンに襲われたアリソンが助け出され、一安心かと思えばまさかのルーミスの後釜が造反。「マイケルが人を殺すところ、ついでにローリーと対決するところ見たいんじゃー」とわけのわからない理屈をこね始め、そんなことをやっているからマイケルにぐちゃーされてしまいます。この辺辻褄合わせの超展開でこういう脚本大好きです。

 

そうこうしているうちに要塞チックなローリーの家にマイケルはたどり着きます。毎度毎度思うのですが、マイケルはローリーの何を辿ってきているんだろう? 匂い?

 

カレン旦那が可哀想なことになり、地下室に立てこもるローリーとカレン。なんと外には逃げてきたアリソンが。カレンを地下室に置いてマイケルをショットしにいくローリー。ここの緊張感、ベタだけど雰囲気あって好きです。

 

最終的にアリソンも地下室に逃げ込み、マイケルもローリーを倒してやってきます。「ママごめん、私にはどうしてもできない」と銃を手に泣きごとを喚くカレン。入口にマイケルがやってきた、さあどうなる!?

 

とまあここからの怒涛の展開が本当に大好き。親子三代でマイケル退治をした一行が助け出されてエンドなのですが、この爽快感たるやなんと表現してよいのか。あれです、「悪魔のいけにえ」のラストの「ざまぁwwww」な感じにすごく近い。それを狙ったのかもしれない。とにかくすごくよかった。

 

でも今作からまた続編も作れそうな感じなので「どうせハロウィンだし」と期待しない感じで待ってます。おしまい。

感想「ダンボ(2018)」

豚は空を飛ばないけど象は空を飛ぶ。

 

ダンボ (字幕版)

ダンボ (字幕版)

 

 


【あらすじ】

団長メディチが率いるサーカス団に象の赤ん坊が生まれる。しかしその赤ん坊の耳はとても大きく、化け物のようだった。お披露目式の日に耳をバカにされ、庇った母象ジャンボは暴れ象として売られてしまう。残った哀れな小象ダンボは戦争で片腕を失ったホルトとその子供たちミリーとジョーで面倒をみることになる。ある日子供たちはダンボがおおきな耳で羽ばたけることに気がつく。


【感想(ネタバレなし)】

元号あけましておめでとうございます。令和も引き続きなんとかかんとかやっていきたいです。

 

さて、あの有名ディズニーアニメ「ダンボ」が実写になり、その監督をティム・バートンが務めると言うのだからこれはお祭り騒ぎをするしかないでしょっていう感じのアレです。

 

ネタバレしない範囲で感想を言うなら、もう映像は天下のディズニーだしティム・バートンだしで好きな人は大好きだと思います。薄汚れたサーカスのテントとかきらびやかだけどどこか趣味の悪い遊園地とか。


話の内容はダンボが飛ぶまでが前提となり、サーカスのその後が主な話になってきます。アニメを見ていると楽しめるシーンもありますが、見ていなくても十分楽しめる作りになっています。戦争で片腕を失ったりサーカスのその日暮らしの感覚など今のお子さんには難しい表現もいくつかありますが、それでも過激な表現などはなく、家族で楽しく見られるようになっています。小さなお子さんは大喜びでしょう。楽しい象さん映画としてうちでも円盤を買おうか検討しているところです。

 

以下「いやお前の言いたいことはそんなんじゃねーだろ」というネタバレ感想になりますので鑑賞予定のある方、夢を壊されたくない方はお帰りください。

 

ダンボ (オリジナル・サウンドトラック)

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【感想(ネタバレあり)】

ネタバレなしでも書いたけど、ファミリー映画として見ればかなり満点の作品なんだよ。でも「ダンボ」という作品に対しての向き合い方とかティム・バートン監督の扱いとか考えた時、この作品は首を傾げたくなる。

 

いや、もう最初のサーカス列車のシーンとかティムティムしてて最初から大興奮なんですよ。ちょっと薄汚れてて錆があちこち浮いていて年季の入った見世物小屋の看板。これがピカピカのペンキ塗りたてだと全然趣が無くなる。ドリームランドのショーも綺麗だし、ピンクの象もやってくれた。

 

でもこの心の満たされなさは何かと言えば、「異形」「見世物」に全然言及がなかったからだと思います。お話自体はよくまとまっているし、いいんですよ。でもせっかくティム・バートンを引っ張ってきたのにその2つの要素をかなりバッサリやっちゃったのは正直ガックリなわけですよ。

 

というか、サーカス要素が皆無なわけですよ。マイケル・キートンが明らかに悪いオッサンとして登場するんですけど、彼は空飛ぶ象じゃなくて憎悪されるべき資本主義の豚として描かれます。でも彼は「異形」ではないし、「見世物屋」ですらありません。どちらかというとブラック企業の社長です。

 

この話をするのに必ず最初に置いておきたいのが「フリークス」という映画です。当時本当に見世物小屋で働いていた方々が出演しているので説得力抜群だし、メッセージがどストライクのド直球すぎて正直これを超えるフリークス映画は出てこないんじゃないかって思ってるんです。

 

フリークス [DVD]

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そんでアニメーション「ダンボ」も表向きは「コンプレックスもうまく使えば武器になる」という話だけど、裏を返せば「見世物になる道を行く」という話なのね。

 

「ダンボ(Dumbo)」とは「ばか・間抜け」という俗語で、「Dumb」になると「口のきけない」という意味になる。実際劇中に出てくるダンボは一切口をきかないし、母親ジャンボもほとんど言葉を発しない。サーカスで見世物になっている対象は人間とコミュニケーションが取れない。それは「フリークス」でも結局奇形者は人間と相容れないものとしていたことと一致する。

感想「ダンボ」


今回の作品で気になるところは、最初からダンボが受け入れられていたところだ。元のアニメーションではネズミのティモシーしか味方がいなかったけれど、今回は空を飛ぶ前から何かと同情されているし、何よりホルトと子供たちという強い味方がいる。何より彼を嘲笑う存在だった調教師は序盤でテントごとプチンと逝ってしまった。つまり、ダンボ=異形を嘲笑う存在は実質上この映画には出てこない。ダンボは最初から「空飛ぶ象」として存在する。

 

まぁ家族向けの映画で休日に映画館にやってきて「バットマンリターンズ」とか「シザーハンズ」みたいなの見せられても最近はピンと来ないのかもしれないなぁ。

 

そうなると残りの「見世物」をどうするかっていうのがこの映画の主題で、結局「ダンボを自由に」というのが落とし所でした。これは昨今のディズニーの方向性からすれば妥当なところだろうと思いました。

 

ただ、路線は妥当でもそれは「ダンボ」本来の魅力なのかと言われたら答えはNOです。ダンボはやっぱりコンプレックスを乗り越える話が良いのであり、ピエロの嘲笑やピンクの象でトリップする不気味さが良いのです。

 

これは「アナと雪の女王」にも言えるのですが、別に女王がレリゴーするのはいいんですよ。でも、その下敷きの「少女の大冒険」の少女をプリンセスにしてぶっ壊したのはやっぱりアカンのですよ。お話を現代風にするのはいいんです、でもその原点の醍醐味を無くすのはどうかと思うんです。

 

ちょっと感想を巡ったら同じようなことを思っている人はたくさんいたようで、みんなティム・バートンに期待していたことは一緒だったんだなぁと思いました。カメオ出演でペンギンとかシャム姉妹とかシザーハンズが出てきたらいいなあとか思ってた人絶対いると思う。というか、ここにいました。勝手にハードル上げて勝手に怒るのは最高にみっともないのでこのくらいにしておきます。

 

最初にも言いましたが、もう映像は素敵なんですよ。特に序盤のサーカステントのシーンに悪夢のようなドリームランド。何気にラストの大自然もよかったですね。だけど「ティム・バートンの毒気がない」のは期待していた人からすればマイナスなんですよ。みんな「ビッグ・アイズ」みたいな救いようのない奴を想像していたんですよ。なんでこうなった。子供のためか。仕方ない。

 

個人的に胸糞なのはミリーのキャラが取ってつけたような「自立する女」のモチーフだらけだったことかな。正直ウケ狙いにしか見えないからそろそろそのキャラ出すのやめたほうがいいと思うんだけど、多分こうしないと怒る人々がいるんだと思う。正しいってなんだろうね。ダンボは可愛かったです。サルももっと活躍するとよかったな。おしまい。

 

感想「えいがのおそ松さん」

待たせたな全国のカラ松ガールズ!

 


「えいがのおそ松さん」本予告【2019年3月15日全国ロードショー】


【あらすじ】

高校の同窓会に参加した6つ子たち。久しぶりに友人に会って楽しんでいたが、ニートであることがバレて気まずくなってしまう。家に帰り飲み直すが、誰も高校時代について語ろうとしない。そのまま寝てしまい、気がつくと6つ子たちは高校の卒業式の前日にやってきていた。

 

【感想(ネタバレなし)】

カラ松ガールズは見に行かないとダメな奴。

最初は劇場に行く予定はなかったのですが、思いがけずチャンスがあったので見てきました。見に行く予定もなかったのでほぼ前情報を入れていかなかったのですが、それはそれで正解だったと思います。

今回は高校時代の彼らがメインなのですが、直球に高校時代のエピソードをやるのではなく、相変わらずいやらしいメタ視点で話が進んでいきます。1発ネタや細切れのネタが多かった本編と違い、ちゃんと1本の映画として話がまとまっていたのはとてもよかったです。

 

アニメ本編ではギャグに加えて「これから俺たちどうなるんだろう」という未来への漠然とした不安があったのですが、映画では「俺たち今まで何してたんだっけ」と初めて過去を振り返ることになりました。そういう意味でも新鮮な話でした。

 

もちろんギャグは健在で、劇場でお客さんみんなが笑って泣いてをしていたのでなんというか、ひとつの体験をしたという意味ですごくよかったです。この映画は「おそ松さん」というコンテンツを楽しんだ人達に向けてのひとつのアンサーだと思うのです。

 

以下物語の核心にかなり触れるので鑑賞予定の方はお帰りください。

 

 

【感想(ネタバレ)】

まず高橋さんが何なのかって言われたら、懸命な人はすぐに「ファンの象徴」だってわかる気がする。誰が好きとかそういうのではなく、ずっと六つ子の関係性に癒しを貰っていた高橋さん。高橋さんは彼らの中に入ることはありませんでしたが、思い出を共有したいという望みを持ち、崩れゆく思い出の中でもずっと6つ子を待っていました。

 

そんなことは置いておいて、期待を裏切らないギャグの切れ味に安心しました。幽霊もたまにでる赤塚ホテルやニート村に始まり、ストロンガーゼロに寝相など序盤から飛ばしまくっていましたが、やはり18歳六つ子との遭遇は強烈でした。特に「てんてい!」はあまりにもインパクト強すぎて劇場出てからもしばらく「てんてい!」に毒されていました。すごいぞ「てんてい!」のアレは。

 

そんで後悔を抱えたカラ松の思い出の世界を旅するわけなんですが、この世界がなんとも不気味でグロテスク。ノリとしては1期のブラック工場みたいな感じ。「思い出の世界だから覚えていないことは曖昧」ということであちこちにモザイクがかかり通行人の顔は全部へのへのもへじになっている。へのへの横丁かっての。

 

この「思い出の世界」っていうのが今回一番の仕掛けで、単なる過去ではなく「思い出」にすればとりあえず(制作陣が)やりたい放題できるっていうのが名案というか、ズルいというか、すごいなぁと。だから今後続編などが作られたとして多少の齟齬が出ても「思い出の世界だから」で全部片付くし、いっそなかったことにも出来る。この仕掛けにまずは感動しました。

 

映画を見終わってから「カラ松だったら自分のことを相当美化した思い出にしているのではないか」とか思ったのですが、後悔を抱えている人間が美しい思い出なんて持っているわけがなく、カラ松どころか六つ子全員が高校時代を「なかったこと」にしていたのが印象的でした。「なかったこと」にしていたから「てんてー!」が面白かったのですがね。

 

大きな話をすると高橋さんに尽きるのですが、小さな話をしても尽きないのがこの映画の魅力ですかね。個人的にダヨーンでかなり笑いました。あとリフレインハタ坊。ハタ坊の使い方分かってる~。

 

そんな感じでおそ松さんも映画になったし、天才バカボンも深夜になったから次はモーレツア太郎を何らか展開して欲しいな。いやア太郎を大人設定にしたら松以上に生々しくなるんじゃないの? とか。アッコちゃんでもいいですよ。すごくどうでもいいんですけどßźの「HOME」って曲の中で「鏡を除けば自信の欠片も見えないくらい顔が見えたよ」ってところでさりげなく「テクマクマヤコン~」ってコーラスが入ってるのね。芸が細かいね。終わり。