傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「リービング・ラスベガス」

 人生でベストワンに入ると評判の数々の映画だったので見ました。

 

リービング・ラスベガス [Blu-ray]

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 【あらすじ】

 アルコール依存症で家族も仕事もなくしたベンは、ラスベガスまでやってきて酒を飲み続けて死ぬつもりでいた。そこで娼婦のサラと出会い、愛し合うようになる。ベンは酒を辞めるつもりはなく、サラも仕事を続ける。次第に体を蝕まれていくベンに、サラは最後まで寄り添うつもりでいた。

 

【感想】

 まず、音楽がカッコいい! 全体を通してバックグラウンドに流れるテーマが既に「どん底」で、どうせ報われない愛を引き立たせていました。あと夜のラスベガスなのに華やかさがなく、かえって裏路地を強調するような描き方も好きです。光があるから闇がある、みたいな。

 ストーリーはと言うと、ニコラス・ケイジ演じる「まるでダメ夫君」とエリザベス・シュー演じる「とてもダメ子ちゃん」に嵌れなかったら見ていて辛い映画だと思いました。自分は冒頭のダメ夫君っぷりでシビれることができたのですんなりストーリーに入ることができました。全体的に救いのない、最初から破綻している関係が完全に壊れきるまでの話はドキドキすることもなく単調ですが、枯れていく花を見ているような、胸が締め付けられるような感覚があります。

 一番のせつないポイントはカジノでベンが我を忘れて「俺は彼の父親だ!」と暴れ、そんなダメ夫君なのにサラが彼を見捨てなかったところです。どうしてベンがアルコールに走ったのか理由は全くわかりませんし、彼が仕事を辞めるまでどういう経歴だったのかには一切触れられていません。それなのに一瞬垣間見えた彼の過去が全否定され、カジノから追い出されてしまいます。サラが「ベン」と三回呼びかけるシーンは美しく、このシーンのためだけにこの映画があってもいいなと思いました。

 あと、一番最初のセックスシーンの表現の汚さに目を見張りました。あれだけセックスをわざと下品に映している映画もないんじゃないかってくらい品のないシーンで、日本の変態AVももう少し良く撮るぞと思ってしまいました。要所に現れるセックスシーンもそれほど象徴的に描かれず、冒頭のバーボンの卑猥な歌がここでリフレインしているなとニヤニヤできるだけのプールのシーンも悲しいくらいわざと陳腐な描かれ方をしていました。

 だからこそ最後のシーンにすべてがつながると思うと一種のカタルシスです。もはや死ぬだけのベンと初めてセックスをするサラは「僕を奮い立たせる天使」であり、救済を与える聖母マリアでした。娼婦だからマグダラのマリアかな。最初に彼女と会ったときは結局語らいのみで終わり、心の繋がりを得ていたので非常にプラトニックな関係だったということが強調されていてよいです。ストーリー全体が彼女の回想という形を取っているのも、ベンという男の情けなさと魅力を引き出すのに良いと思いました。

 酒とセックスしか出てこないし、淡々としていてストーリーも特にないので退屈な人は退屈だと思います。評価が二分するのはそういった点でしょう。でも繊細な表現は何度見ても新しい発見がありそうな映画ですから、できれば映画通を名乗る大人はこれを「退屈」を評してほしくないなと思いました、まる。