感想「ダンボ(2018)」
豚は空を飛ばないけど象は空を飛ぶ。
【あらすじ】
団長メディチが率いるサーカス団に象の赤ん坊が生まれる。しかしその赤ん坊の耳はとても大きく、化け物のようだった。お披露目式の日に耳をバカにされ、庇った母象ジャンボは暴れ象として売られてしまう。残った哀れな小象ダンボは戦争で片腕を失ったホルトとその子供たちミリーとジョーで面倒をみることになる。ある日子供たちはダンボがおおきな耳で羽ばたけることに気がつく。
【感想(ネタバレなし)】
元号あけましておめでとうございます。令和も引き続きなんとかかんとかやっていきたいです。
さて、あの有名ディズニーアニメ「ダンボ」が実写になり、その監督をティム・バートンが務めると言うのだからこれはお祭り騒ぎをするしかないでしょっていう感じのアレです。
ネタバレしない範囲で感想を言うなら、もう映像は天下のディズニーだしティム・バートンだしで好きな人は大好きだと思います。薄汚れたサーカスのテントとかきらびやかだけどどこか趣味の悪い遊園地とか。
話の内容はダンボが飛ぶまでが前提となり、サーカスのその後が主な話になってきます。アニメを見ていると楽しめるシーンもありますが、見ていなくても十分楽しめる作りになっています。戦争で片腕を失ったりサーカスのその日暮らしの感覚など今のお子さんには難しい表現もいくつかありますが、それでも過激な表現などはなく、家族で楽しく見られるようになっています。小さなお子さんは大喜びでしょう。楽しい象さん映画としてうちでも円盤を買おうか検討しているところです。
以下「いやお前の言いたいことはそんなんじゃねーだろ」というネタバレ感想になりますので鑑賞予定のある方、夢を壊されたくない方はお帰りください。
【感想(ネタバレあり)】
ネタバレなしでも書いたけど、ファミリー映画として見ればかなり満点の作品なんだよ。でも「ダンボ」という作品に対しての向き合い方とかティム・バートン監督の扱いとか考えた時、この作品は首を傾げたくなる。
いや、もう最初のサーカス列車のシーンとかティムティムしてて最初から大興奮なんですよ。ちょっと薄汚れてて錆があちこち浮いていて年季の入った見世物小屋の看板。これがピカピカのペンキ塗りたてだと全然趣が無くなる。ドリームランドのショーも綺麗だし、ピンクの象もやってくれた。
でもこの心の満たされなさは何かと言えば、「異形」「見世物」に全然言及がなかったからだと思います。お話自体はよくまとまっているし、いいんですよ。でもせっかくティム・バートンを引っ張ってきたのにその2つの要素をかなりバッサリやっちゃったのは正直ガックリなわけですよ。
というか、サーカス要素が皆無なわけですよ。マイケル・キートンが明らかに悪いオッサンとして登場するんですけど、彼は空飛ぶ象じゃなくて憎悪されるべき資本主義の豚として描かれます。でも彼は「異形」ではないし、「見世物屋」ですらありません。どちらかというとブラック企業の社長です。
この話をするのに必ず最初に置いておきたいのが「フリークス」という映画です。当時本当に見世物小屋で働いていた方々が出演しているので説得力抜群だし、メッセージがどストライクのド直球すぎて正直これを超えるフリークス映画は出てこないんじゃないかって思ってるんです。
そんでアニメーション「ダンボ」も表向きは「コンプレックスもうまく使えば武器になる」という話だけど、裏を返せば「見世物になる道を行く」という話なのね。
「ダンボ(Dumbo)」とは「ばか・間抜け」という俗語で、「Dumb」になると「口のきけない」という意味になる。実際劇中に出てくるダンボは一切口をきかないし、母親ジャンボもほとんど言葉を発しない。サーカスで見世物になっている対象は人間とコミュニケーションが取れない。それは「フリークス」でも結局奇形者は人間と相容れないものとしていたことと一致する。
今回の作品で気になるところは、最初からダンボが受け入れられていたところだ。元のアニメーションではネズミのティモシーしか味方がいなかったけれど、今回は空を飛ぶ前から何かと同情されているし、何よりホルトと子供たちという強い味方がいる。何より彼を嘲笑う存在だった調教師は序盤でテントごとプチンと逝ってしまった。つまり、ダンボ=異形を嘲笑う存在は実質上この映画には出てこない。ダンボは最初から「空飛ぶ象」として存在する。
まぁ家族向けの映画で休日に映画館にやってきて「バットマンリターンズ」とか「シザーハンズ」みたいなの見せられても最近はピンと来ないのかもしれないなぁ。
そうなると残りの「見世物」をどうするかっていうのがこの映画の主題で、結局「ダンボを自由に」というのが落とし所でした。これは昨今のディズニーの方向性からすれば妥当なところだろうと思いました。
ただ、路線は妥当でもそれは「ダンボ」本来の魅力なのかと言われたら答えはNOです。ダンボはやっぱりコンプレックスを乗り越える話が良いのであり、ピエロの嘲笑やピンクの象でトリップする不気味さが良いのです。
これは「アナと雪の女王」にも言えるのですが、別に女王がレリゴーするのはいいんですよ。でも、その下敷きの「少女の大冒険」の少女をプリンセスにしてぶっ壊したのはやっぱりアカンのですよ。お話を現代風にするのはいいんです、でもその原点の醍醐味を無くすのはどうかと思うんです。
ちょっと感想を巡ったら同じようなことを思っている人はたくさんいたようで、みんなティム・バートンに期待していたことは一緒だったんだなぁと思いました。カメオ出演でペンギンとかシャム姉妹とかシザーハンズが出てきたらいいなあとか思ってた人絶対いると思う。というか、ここにいました。勝手にハードル上げて勝手に怒るのは最高にみっともないのでこのくらいにしておきます。
最初にも言いましたが、もう映像は素敵なんですよ。特に序盤のサーカステントのシーンに悪夢のようなドリームランド。何気にラストの大自然もよかったですね。だけど「ティム・バートンの毒気がない」のは期待していた人からすればマイナスなんですよ。みんな「ビッグ・アイズ」みたいな救いようのない奴を想像していたんですよ。なんでこうなった。子供のためか。仕方ない。
個人的に胸糞なのはミリーのキャラが取ってつけたような「自立する女」のモチーフだらけだったことかな。正直ウケ狙いにしか見えないからそろそろそのキャラ出すのやめたほうがいいと思うんだけど、多分こうしないと怒る人々がいるんだと思う。正しいってなんだろうね。ダンボは可愛かったです。サルももっと活躍するとよかったな。おしまい。
感想「えいがのおそ松さん」
待たせたな全国のカラ松ガールズ!
「えいがのおそ松さん」本予告【2019年3月15日全国ロードショー】
【あらすじ】
高校の同窓会に参加した6つ子たち。久しぶりに友人に会って楽しんでいたが、ニートであることがバレて気まずくなってしまう。家に帰り飲み直すが、誰も高校時代について語ろうとしない。そのまま寝てしまい、気がつくと6つ子たちは高校の卒業式の前日にやってきていた。
【感想(ネタバレなし)】
カラ松ガールズは見に行かないとダメな奴。
最初は劇場に行く予定はなかったのですが、思いがけずチャンスがあったので見てきました。見に行く予定もなかったのでほぼ前情報を入れていかなかったのですが、それはそれで正解だったと思います。
今回は高校時代の彼らがメインなのですが、直球に高校時代のエピソードをやるのではなく、相変わらずいやらしいメタ視点で話が進んでいきます。1発ネタや細切れのネタが多かった本編と違い、ちゃんと1本の映画として話がまとまっていたのはとてもよかったです。
アニメ本編ではギャグに加えて「これから俺たちどうなるんだろう」という未来への漠然とした不安があったのですが、映画では「俺たち今まで何してたんだっけ」と初めて過去を振り返ることになりました。そういう意味でも新鮮な話でした。
もちろんギャグは健在で、劇場でお客さんみんなが笑って泣いてをしていたのでなんというか、ひとつの体験をしたという意味ですごくよかったです。この映画は「おそ松さん」というコンテンツを楽しんだ人達に向けてのひとつのアンサーだと思うのです。
以下物語の核心にかなり触れるので鑑賞予定の方はお帰りください。
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- アーティスト: 橋本由香利
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- 発売日: 2019/06/26
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【感想(ネタバレ)】
まず高橋さんが何なのかって言われたら、懸命な人はすぐに「ファンの象徴」だってわかる気がする。誰が好きとかそういうのではなく、ずっと六つ子の関係性に癒しを貰っていた高橋さん。高橋さんは彼らの中に入ることはありませんでしたが、思い出を共有したいという望みを持ち、崩れゆく思い出の中でもずっと6つ子を待っていました。
そんなことは置いておいて、期待を裏切らないギャグの切れ味に安心しました。幽霊もたまにでる赤塚ホテルやニート村に始まり、ストロンガーゼロに寝相など序盤から飛ばしまくっていましたが、やはり18歳六つ子との遭遇は強烈でした。特に「てんてい!」はあまりにもインパクト強すぎて劇場出てからもしばらく「てんてい!」に毒されていました。すごいぞ「てんてい!」のアレは。
そんで後悔を抱えたカラ松の思い出の世界を旅するわけなんですが、この世界がなんとも不気味でグロテスク。ノリとしては1期のブラック工場みたいな感じ。「思い出の世界だから覚えていないことは曖昧」ということであちこちにモザイクがかかり通行人の顔は全部へのへのもへじになっている。へのへの横丁かっての。
この「思い出の世界」っていうのが今回一番の仕掛けで、単なる過去ではなく「思い出」にすればとりあえず(制作陣が)やりたい放題できるっていうのが名案というか、ズルいというか、すごいなぁと。だから今後続編などが作られたとして多少の齟齬が出ても「思い出の世界だから」で全部片付くし、いっそなかったことにも出来る。この仕掛けにまずは感動しました。
映画を見終わってから「カラ松だったら自分のことを相当美化した思い出にしているのではないか」とか思ったのですが、後悔を抱えている人間が美しい思い出なんて持っているわけがなく、カラ松どころか六つ子全員が高校時代を「なかったこと」にしていたのが印象的でした。「なかったこと」にしていたから「てんてー!」が面白かったのですがね。
大きな話をすると高橋さんに尽きるのですが、小さな話をしても尽きないのがこの映画の魅力ですかね。個人的にダヨーンでかなり笑いました。あとリフレインハタ坊。ハタ坊の使い方分かってる~。
そんな感じでおそ松さんも映画になったし、天才バカボンも深夜になったから次はモーレツア太郎を何らか展開して欲しいな。いやア太郎を大人設定にしたら松以上に生々しくなるんじゃないの? とか。アッコちゃんでもいいですよ。すごくどうでもいいんですけどßźの「HOME」って曲の中で「鏡を除けば自信の欠片も見えないくらい顔が見えたよ」ってところでさりげなく「テクマクマヤコン~」ってコーラスが入ってるのね。芸が細かいね。終わり。
感想「シュガー・ラッシュ:オンライン」
ヒーローって何なんだろう。
【あらすじ】
前作の冒険から6年。ラルフは変わらない毎日に退屈していたヴァネロペの望みを叶えようとしたが、手違いでシュガーラッシュの筐体を壊してしまう結果になる。シュガーラッシュのハンドルを探しにインターネットの世界へ行くが、もちろんハンドルを買うにはお金が必要。ラルフとヴァネロペはネットの世界でお金を稼ぐことになる。
続きを読む感想「ブルース・ブラザーズ」
勝手にごめんなさい。
【あらすじ】
ジェイクは刑期を終えて出所したばかり。弟のエルウッドとかつて世話になった孤児院へ挨拶に行くと5000ドルの税金を用意できなければ立ち退くしかないという惨状を聞く。何とか支払いはできないかと考えていたジェイクは思いつく。「そうだ、バンドをやろう」。そしてかつてのバンド仲間を探し、5000ドル稼ぐ旅が始まった。
【感想】
タイトルは有名だけど詳しくは知らなかった映画。だから勝手に「ブルース・ブラザーズを名乗るバンドが孤児院を救うハチャメチャドタバタハートフルストーリー」だと思ってました。まぁ間違ってないけど。
ぶっちゃけハートフルの部分が大きいと思ってました。「ぼくたちのおうちがなくなっちゃうよー」「今夜は歌って楽しい気分になろうぜ!」みたいな。まぁ間違ってないけど。そんなわけで序盤のカーチェイスで度肝を抜かれ、終盤のカーチェイスで大笑いしました。特に終盤のカーチェイスは「よくこんなの撮影したなぁ」という上を下にの大騒動で、パトカーがレゴブロックみたいにどんどん積まれていくのはとにかく爽快でした。
下品な笑いにドタバタというよりハチャメチャなシーンが続くたびに「この映画にすごく偏見を持っていたんだなぁ」と申し訳なくなってきました。施設のみんなでレモネードを売ったり近くの公民館でチャリティーコンサートをやったりしてそこで主役の二人がけんかをするんだけど施設の子供たちのおかげで仲直りできました、みたいな映画を勝手に思い描いていてものすごく勝手な「ブルース・ブラザーズ」ができあがっていました。そんな偏見は最初の刑務所のシーンで怪しくなってきて、序盤のカーチェイスで「もしかしたらこの映画はそういう映画じゃないのかもしれない」と思いはじめてレイ・チャールズが出てきたあたりでもうどうでもよくなってしまいました。あのポスターを逆に貼るところはかなりひどいよな。
内容的に現代リメイクするのは難しいかもしれないけど、是非あのカーチェイスを現代風にアレンジしたのを見たい。カーチェイスだけじゃなくて、豪華なキャストも現代風になってたら面白いよね。でも内容が無理だよなぁ。あの下品さが消えたら「ブルース・ブラザーズ」じゃないもんなぁ。おしまい。
感想「ネオン・デーモン」
おまえうまそうだな
【あらすじ】
ジェシーはその美貌でトップモデルになるためにロスへやってきた。すぐにカメラマンやデザイナーに気に入られるが、同業の女性からは嫉妬の目で見られる。そしてファッション業界の暗部の深みに嵌まっていく。
【感想】
ポスターがキレイで面白そうだなと思ったので見てみました。露悪的な内容とは聞いていたのである程度覚悟を決めて見てみたのですが、なんか想像以上でした。
この映画ブログの人の特徴として、気になった映画の前情報やあらすじは極力見ないようにして映画を見るという癖があります。ひとことで紹介した「ファッション業界でシノギを削る女の戦い」みたいなのをマイルドに想像していたら、結構ドギツイ奴でした。勝手に「待望の新人!」「なによむかつく!(靴に画鋲入れる)」「何するのよ!(SNSで怪情報を流す)」くらいの奴だと思っていたら、結構この辺ガチでした。ほのぼの女の戦いを想像して見たらアカン奴です。ちゃんと「グロ注意」と書いておかないと、ぷんぷん(いやちゃんと調べないで見るから……)。
そんで華麗な前半のファッション事情みたいなのが終わると、いよいよドギツイ描写の始まりです。直接的なシーンはないものの、「ああヤッチマッターだな」という描写が続きます。しかしかなり観念的な世界にイッチマッタ感じなのでただぼんやり見ているだけだと「??」という感じです。まぁ部屋にでっかい猫がいる時点で不思議の国のアリス的なアレだよなあという感じはしていたけど。月が昇る部屋で致してるのは「うわぁ」という感じです。うわぁです。
そしてラスト。いきなり目玉を生み出して「丸尾かな」とか思いながらもなかなか冷ややかな終わり方だと思いました。人を喰った末路が中から罪悪感(?)に苛まれて潰れていくけど誰も彼女を心配していないっていうのがちょっと怖いなと。誰も他人を人として扱っていないというか、思い通りに動くモノかなんかだと思っているようなところがリアルなのか虚構なのかわからないのもグラグラして怖いなと。
ポスターがキレイなので見ようと思ったけど、ちょっと想像と中身が違っていい意味で期待外れな作品でした。もっと人間的な話も見たかったなぁと言うのは欲張りの感想ですね、はい。