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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「機動警察パトレイバー the Movie」

邦画 アニメ

「ここじゃ、過去なんてものには一文の値打ちもないのかも知れんな」

 

機動警察パトレイバー 劇場版 [Blu-ray]

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 【あらすじ】

 天才プログラマー帆場暎一が投身自殺をしたことから全ての事件は始まった。レイバーの暴走事故が続く中、自衛隊の試作レイバーが無人のまま暴走した。この一連の事件は最新レイバー用OS「HOS」(Hyper Operating System)に原因があると感じた特車2課第2小隊篠原遊馬は独自に調査を行う。「HOS」は今や主流OSとして流通していたが、その欠陥を暴くとなると難しい。やがて開発者の帆場にたどり着き、レイバーが暴走する要因を特定すると帆場の描いてた遠大な計画が実行に移されようとしていた……。

 

【感想】 

 押井作品合評企画に参加と言うことで鑑賞。初見の感想はとっても面白かったです。パトレイバー自体は横目程度でしか見たことなかったんですが、この映画単体でも面白く見ることが出来ました。 

 

 ロボット活劇としてもクライマックスのシーンは迫力満点だし、事件の謎を追うサスペンスとして見ても非常に面白い。だけど、押井節のよくないところがあちこちに炸裂していて一番大事な「帆場の動機」が結局わからないまま終わってしまった。「適当にごちゃごちゃしてみたから後は自分自身で考えるように!」というのが押井先生の押井先生たるところかなぁとそんなに押井作品をじっくり見たわけではないのですがそんな感じにとりました。つまり、押井作品って作品の鑑賞と言うより押井先生との対話に近いかなぁと思っています。それが面白いといえば面白いのですが。つまりこの映画の感想を書くと言うことは「帆場の動機はあなたならどう見る?」という観点を入れなければ書けないという割と卑怯な作りになっています。もしかしたら明確な回答など製作者は持ってなくて、こういう市井の感想屋の感想を見て「ふむふむ」ってやるパターンなのかもしれません*1

 

 とりあえずごちゃごちゃしているのでイチから整理していくと、まず旧約聖書のモチーフが多くてびっくり。「高層ビル」を建てる「バビロンプロジェクト」に「方舟」、エラーメッセージ?の「BABEL」に「E.HOBA」とくればもう旧約聖書から考えてくれよって感じのわかりやすさ。これは親切な押井先生。

 

 まず「繰り返した引っ越し先で高層ビルを見つめていた」というところで「バベルの塔を神(ヤハウェ)である自分が壊す」という幻想に帆場が憑りつかれていたのでは、という見方が出来ました。「バベルの塔」は旧約聖書で神に近づこうとした人間が作ろうとした建造物です。旧約聖書では神は人間の言語をバラバラにすることで塔の建築を実行させませんでしたが、帆場は「方舟」を利用して人類に鉄槌を下すことを目論んでいました。伝説では生き残る人類とつがいの動物を乗せていた方舟ですが、映画ではバビロンプロジェクトを遂行するための工事用レイバーが格納されていて、人類を破滅に追い込む役割を果たしていたと思うとこの辺素直に読み解けるものではないと思います。


 帆場は「方舟」の構造を利用して「HOS」が暴走するようプログラムを組み込み、その実行を見届けないまま逝った。そしてプログラムは帆場がいなくても全自動的に暴走を始め、「神(帆場)の思惑」を具現化します。神が実際に手を下さなくても事態が引き起こされるというのはやはり「奇跡」に近いのかもしれません。そこまで考えて帆場は後から何も言われないよう、沈黙を保ったと考えられるかなぁと思いました。

 


 それで結局遊馬たちが帆場の陰謀を暴いて方舟を解体するんだけど、ここまで帆場は計算に入れていたのではないかっていうのが深読みした感じ。帆場の真の目的はおそらく「神になってバビロンプロジェクトを台無しにすること」だっただろうから、レイバーが暴走して方舟を壊しても阿遊馬たちが方舟を解体しても彼の目的は達成できていただろう。結局全て帆場の手のひらの中だったんじゃないかなぁ。

 

 意味深な方舟最上部の鳥の部分は「ノアが方舟から降りるとき、ハトを放して陸地があるかどうか確かめた」というエピソードに繋がっているのかなと思いました。帆場は「方舟=この世」から別れを告げる際にカラスに認識票を付けて放しているのもそのモチーフなのかなと。その辺も含めて全てが帆場の「想定内」だったんでしょう。

 

 帆場の思惑について考えていくとキリがないのでその他の印象的だったシーンをあげると、やっぱり押井節炸裂の松井さんの探索シーンですね。真夏の陽炎が立ち込める中、古い町なのか新しい街なのか判別がつかないほど幻想的なのにどこか懐かしくて現実的な街並みはこのよくわからない黒幕の過去にはぴったりです。本当は何かあったんじゃないかと思うんだけど、実際は存在しない。でもその「何か」を探さずにはいられないから人は一文の値打ちもない過去とやらを執拗に穿り返すのかなぁなどと思いました。うーむ、自分でも訳が分からなくなってきた。

 

 でも結局帆場の完璧なプログラムは野明のフィジカルな活躍で破壊されたので、結局死んでしまった神様よりも実際に「知恵と勇気」で行動した人のほうが物事を解決できる、っていう筋書きなんだろうな。こういう王道、いいと思う。最後はキッチリ落としてくれた面白い映画でした。押井シリーズ、隙を見てもう少し見よう。

 

【同時合評企画として】

 この記事はドボン会会長と卯野抹茶さんと同じ映画を観て同時に感想記事を投下すると言う企画で作られました。独りよがりにならない多角的な視点が広がって面白いですね。

 

dobonkai.hatenablog.com

 

nerumae.hateblo.jp

 

*1:庵野「なるほど、エヴァンゲリオンの意味が分かった!」というスレタイがあった気がしないでもない。