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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ファニーゲーム」

洋画 ホラー

 これは、そんなゲームだ。

 

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【あらすじ】

 湖畔の別荘に遊びに来た一家。ところが先についているはずの友人たちの様子がおかしい。更に友人たちの使いと名乗る怪しげな男たちがやってきて、一家は強制的に「ゲーム」に参加させられる。

 

【感想と言う名のネタバレ考察】

 巷で「後味悪い」「二度と観たくない」と評判の映画ですが、単に「救いがない」というだけで映画としては非常に面白いと思います。観終わった後「やられた!」という感じがばーっと身体中を駆け巡るような、そんな不思議な鑑賞後の感覚です。ただ、これは「理不尽大好き基本ホラー映画脳」だから思うことであって、多分そこまでホラーや理不尽系を観慣れていない人はそう思わないと思います。普通に見ないほうがいいです。ただ一家が殺されるだけの映画だから。

 

 本当に正直見なくていいです。理不尽ホラー読解脳でないと楽しめない映画です。そういうのが好きな人はどうぞ。

 

 ストーリーの理不尽大好き脳観点から考えると、この映画の見どころってとにかくたくさんあるんですよね。まず最大の理不尽は「2人組の目的が最後までよくわからない」ということだと思います。故意に起こす殺人って大抵理由があってするもので、たとえば恨みがあって殺したとか金を奪う目的だったとか、そんなふうに誰が聞いても「そういう事情だったのだ」というのがある。だけどこの映画では最後まで2人組の動機は語られない。ちらりと説明の出る「ヤクのための金ほしさ」というのはおそらく真相ではなさそうで、ただただ「ゲームだ」と言い張るだけ。

 

 だけど「殺人が大好きで狂っている」のかというと、そういう印象はまるでないのが本作の一番の特徴なのだと思う。一般的に「快楽殺人鬼」というとナイフを舐めながら「うひゃひゃひゃ人肉うめぇ」とか喚いているホッケーマスクみたいなのを人は想像しちゃうのですが、この映画の2人組は最後までどこにでもいそうな若者です。暴力シーンもクラブを何度か振り回し、散弾銃を何発か打つだけです。しかも直接描写はほとんどなく、ただ音がするだけとか血を見せるだけなど間接的な表現がほとんどです。そんなわけで「グロ表現が苦手だから怖いの見ない」という人にはオススメです。

 

 そんなわけでこの映画は「暴力」の裏側を演出と役者の演技で見事に際立たせています。だからこそ「二度と観たくない」と観客に思わせるような作りになっています。ちょっと細かく見ていきましょう。

 

 まずは序盤から執拗に絡む犬。しかもシェパード。この犬が序盤はうざかわいい。ただ、この映画の主旨から一番最初に退場してしまうかわいそうなわんこ。犬のお椀に卵の殻を入れて片づけていた時点で「もうそれは使わない」という暗示になっていたのかなぁと後から思うのです。

 

 それから「終わりの始まり」の「卵拝借シーン」はかなりいいですね。ペーターのべたべたなよなよした言動もなかなかイライラするのですが、映画を見ている観客は大体「この男がめちゃくちゃ怪しい」ということを知っているので途中までお人よしに対応してしまうアナにいら立ちます。二重のいら立ちを抱えたまま何故かそこにやってきたパウルにゴルフクラブを貸してしまうアナにも更にイライラします。やっと帰ってきた旦那も更にイライラ。イライラの臨界点でゴルフクラブがスマッシュヒット! これが「ゲーム」の始まりです。この引っ張り具合がなかなかたまらない。

 

 その後ソファに一家を集めた2人組はやりたい放題。ここで面白いのが力のある男性の足を折って行動不能にしたのはわかるけれど、女性と子供は縛らず自由にしておいたところ。それでも行動を制限できたのは「支配する」という暴力が働いていたからなのだと思います。「お前だけ逃げるのか? 残していく家族の安否はどうでもいいんだな?」という無言の圧力が逃げる気を削いでいきます。何度か逃げる機会はあって、実際に逃げることができるのですが巧妙なタイミングで連れ戻され、また新たな絶望に繋がります。

 

 個人的に好きなのは「脱げ」と命令するシーン。完全に精神的な支配にかかっています。しかも子供には袋をかぶせると言う配慮付き。そこで「ちゃんと裸を映さない」ことで子供の悲鳴と止むにやまれぬ状態で服を脱がざるを得ない苦渋の選択だけが観客の心に刺さります。このシーンは登場人物の全員がほとんど首から上のカットだけです。表情だけで画面外の状況と感情を一気に表現しないといけないので、かなり役者の演技力に任せたシーンだったと思います。

 

 それで、一度子供は逃げ出すけど連れ戻されて「どれにしようかな」で身を守るために持ったはずの散弾銃でバーンと頭をやられるわけです。このシーンも直接バーンは映さず、ただ飛び散った血と両親の泣き声だけが事態を観客に理解させるのです。その後の「静寂」がスゴイ。普通だったらこれで「おしまい」でもいいのに、この映画はまだまだ続く。犯罪被害でもなんでもそうなんだけど、派手に失うシーンを描いてしまうとそのシーンだけが観客の心に残る。でも、その後のことを考える人はあまりいないだろう。だからこそ、この「犯人」が出て行ってからの沈黙の間がすごい。喪失感が永遠に続くような、そんな感じに観客まで持っていかれる。しかもカメラはほぼ定点という潔さ。この場面転換は正直見事としか言いようがない。

 

 そして水没した携帯電話を復旧させたり助けを呼びに行くなど頑張るのですが、結局また2人組が帰ってきて今度は旦那が殺されるわけですね。そこでナイフがちらりと映るのですが、この辺のゾクゾクさせる感じは巧みですね。そこで一定の駆け引きの後、一瞬の隙をついて奪い返した散弾銃で反撃! かと思わせてのまさかの「リモコン」演出。

 

 この「リモコン」には賛否両論あると思うのですが、この映画で暴力が直接表現で表されるのはここだけなんですよね。つまり「嘘」なわけですよ。ここでぽかーんとしてしまうのですが、物語はこれでは終わりません。リモコン演出でぽかーんとしている間に夫は殺害。夜は明けているのです。

 

 更に個人的にお気に入りなのがラストのヨットのシーン。2人組は淡々とヨットを操縦して、ナイフで反撃しようと考えるアナを軽々と運び、湖の真ん中に来たところであっけなくドボン。「まだあと1時間もあったのに」「ヨットはかったるい」という軽口が更に不気味さを漂わせているのです。

 

「虚構は現実なんだろう?」

「なんで?」

「虚構は今見ている映画」

「言えてる」

「虚構は現実と同じくらい現実だ」

 

 結局ハネケ監督のしたかったことが最後にダイレクトにやってきて、何だか今までの理不尽が全て帳消しにされるような感じでした。現実とは虚構の理不尽であり、また都合のいい展開も起こらない。相手にとって都合の悪いことは、自分にとって都合のいいものとは限らない。そして暴力は画面外の見えないところで起こっている。そんなところでしょうか。そして2人組はヨットで向こう岸に着くと、また卵を拝借しようとするのです。

 

 「二度と観たくない」という感想が多いとのことでしたが、映画の手法を確認するために何度でも見て飽きない映画だと思いました。そして役者の演技力と場面転換が巧みで、ことごとく善良な市民がひどい目に合うという展開もある意味期待を裏切らないものでした。「いつもいつも正義は勝たないんだよ」というある意味悪趣味な主題も汲み取りながら、この映画を見れて良かったと思っています。

 

 見た後の感じは「サイコ」に近いものがありました。ゾッとする反面、何か良質な表現に触れたと言うか、そんな感じです。「サイコ」も好きですね、はい。長くなったのでおしまい。