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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「冷たい熱帯魚」

邦画 サスペンス

「真面目で大人しい子だったんですよ。あんなことをするなんて信じられません」

 

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【あらすじ】

 熱帯魚店を営む社本の家族は、後妻の妙子と娘の美津子の関係が全くうまくいっていない。グレた美津子は万引きをしてしまうが、そこを同業者の村田に救われ、村田は美津子をうちの店で働かせたらいいという。その後、村田の持ってきた怪しいビジネスに巻き込まれ、村田の妻の愛子も伴い、社本は遺体の始末に手を貸すことになる。


【感想】

 R-18ということで「良い子は見ちゃダメ!」なのですがこの映画は埼玉愛犬家連続殺人事件をベースにつくられた割と人間ドラマの交錯するハラハラドキドキなサスペンス映画です☆……ごめんなさい嘘つきました。人間ドラマ交錯しません。いろんな人が自分の言い分をギャー!と喚いておっ死ぬ話です。時系列でちょっと見ていきます。


 まず、妻妙子が鬼気迫る形相で冷凍食品を買いあさり、レンチンする場面から始まります。ご飯はサトウのご飯、味噌汁はレトルト。そして食卓に並ぶのは大量の冷凍唐揚げ(ここ大事です、覚えておいてください)。この場面だけで「すげえぞこの映画」とグイグイ引き込まれます。映画の面白さは、ストーリーもありますが絵にあるのだなあと再確認した次第です、ハイ。


 それから冷めた食卓のシーン。ジャンプ読みながらご飯を食べる娘美津子。どうみても危ないカレシらしき人からの電話に食事中にも構わず出て行ってしまう。それを止めない社本と気まずい妻妙子。その後万引きをして捕まる美津子。駆けつけた先にいた村田のペースに乗せられて、あれよあれよと言う間に娘を人質にとられ、女房を寝取られ、挙句殺人の片棒を担がされることになります。村田曰く「俺は58人殺している」そうです。そこまでよく数えたなあ、すげえ。


 魅せるのが村田役のでんでんさん。とにかく彼の演技だけでグイグイ進んでいきます。社本が自分の意見が言えないために家庭崩壊していることを一発で見抜き、とことん利用してやろうと言う魂胆です。吉田を殺し、山小屋まで連れて行って驚異の解体シーンは耐性ない人にはオススメできないです。その血まみれの映像もさることながら、笑いながら解体している村田と愛子の壊れっぷりも素晴らしいものがあります。「ボディーを透明にする」ことをした後から、社本は村田の言いなりになります。しかし、彼を突き動かしているものは「妙子と美津子への愛」しかありません。ことあるごとに「愛してるよ」しかロクな台詞がなく、ほとんど村田がバーッと喋っているだけの図は圧巻です。


 そして怒涛のクライマックスへ。社本はビビりながらヤクザなアンちゃんたちの相手をし、愛子は裏切りそうな鈴木弁護士を落とし込み、部下の大久保君もろとも「ボディーを透明」にしてしまいます。そこで二回目の解体ショーの後、村田は解体のテクニックを社本に伝授(?)します。肉は臭いから細かく分けること、ちょうど唐揚げ大くらいに(ここで冒頭の唐揚げレンチンがバックフラッシュ!こういうの大好き)。骨と肉は必ず分離させること。焼くのは骨だけでよいこと、などなど。唐揚げ大にされた人体がごろごろ転がっているのは悪趣味通り越して神聖な儀式のようです。「ちんちん」発言あたりはもうエグイを通り越して笑うところです。解体中のお下劣な歌はきっと何か尊いものが後ろにあるに違いありません。


 そしてやたらと社本を恫喝する村田。「殴れ!怒れ!俺を殺してみろ!」と挑発する裏に、村田は社本の善人ぶっていながら何も行動を起こさないところを最初から見抜いていたんだろうなと改めて感じた。実は犯罪に巻き込まれていく社本に全く感情移入ができないくらい、社本も人間として最低の部類の描かれ方をしています。妻が死んだあと若い後妻とすぐ結婚し、娘に対して何にもフォローがない。娘はおろか後妻に対してもフォローがない。娘が万引きした後でも対応に戸惑っていた姿をみて、その弱みに村田は徹底的に付け込んだのだ。愛子を犯すように仕向ける村田。ノリノリな愛子。子供のように泣きじゃくる社本。登場人物の誰もが心を通わせようとしていない。冷静に考えると本当に背筋の凍るような気持ち悪い人間関係。


 それまで「真面目で大人しい」社本がプッツンして、村田に反撃し、愛子に村田の解体を行わせます。更に美津子を店から連れ出し、家に帰って冒頭のシーンのやり直しになります。食事中に電話に出る娘を叱る。また頭の悪そうなカレシを蹴っ飛ばし、娘を殴り家に連れ込む。奥にいた妙子を「村田と寝ただろ」と言いながら強姦。そばで寝ていた娘が起きてビックリ。それを「ぽかん」と殴りまた気絶させる。こ「ムカデ人間2」のマーティン君のやり方とちょっとダブった。ここは笑うところなんだろうか。


 最終的に警察に山小屋の場所を教え、村田解体中の愛子と山小屋で血みどろの大乱闘。全編通して愛子役の黒沢あすかさんが肉体派エロ担当として存在感を出していますが、このシーンでエロスが頂点に達している気がします。血みどろの中くんずほぐれずしている男女、うーん、深い。


 そして警察が到着。警官が山小屋に入っている間に社本は何故か一緒にやってきた妙子を殺害。そして美津子に切りかかりそうになり「生きるって痛いんだよ!」と叫んでから自刎する。美津子は死んだ父親を見て「ざまーみろ!くそじじい!」と高笑いを上げるところでエンド。


 全編を通して結局「社本がもっとちゃんとしていれば防げたであろう悲劇」と捉えました。最初のシーンで娘が外に出ていくことを止めていれば、万引きもしなかったし村田と知り合うこともなかったのです。選択を避けて避けて避けてきた結果がこのどん詰まりの人生だった、と考えるとやっぱり深い映画です。それ以前に全体的に役者の演技力だけで魅せているシーンもたくさんある。特に村田役のでんでんさんがすごい。面白おっちゃんから裏の顔の豹変シーンに繋がりがあったのがすごい。「村田」という男をきちんと描いているなと思ったのでした。


 全体的に直接的な性行シーンも惨殺シーンもありますので完全R-18です。でも、「俺を見てみろ!」という強烈なメッセージがある映画でした。人にはすすめられないけど「見てよかったな」と思える映画でした。