傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「グリーン・インフェルノ」

 あー畜生超面白れぇ(鑑賞直後の素直な感想)。

※この記事はあらすじや感想を読むだけで気分が悪くなるかもしれないので注意をしてください。

 

 

【あらすじ】

 国連職員の娘ジャスティンは中途半端な正義感から学生活動家アレハンドロ率いる団体「ACT」の抗議活動に参加するためにペルーを訪れる。ジャングルを伐採して先住民を殺す企業に対して伐採行為などの動画撮影を行い、ネットで配信するという計画は成功したが、帰りの飛行機がジャングルに墜落してしまう。ジャスティンをはじめ生き残ったメンバーはそのまま助けたはずの先住民に捉えられ、晩のおかず候補にされてしまう。

 

 【感想】

 公開当時、映画館に行こうと思って何かの事情でやめたこの作品。今見たら「めっちゃ面白かった」という感想しかないです。もちろん面白かったのはゴア描写だけでなく、「食人族シリーズ」としての集大成というようなものを感じたからです。

 

 「食人族」の話になると、もともと「世界残酷物語」に始まるヤコペッティ監督の作品に対するカウンターとして作られたものだということがわかっているとこれまたこの映画に対する見方が変わってくると思うのです。「世界残酷物語」は欧米の世界とは違う文化を切り取って「こいつら野蛮人www」ということがやりたかった映画で、「食人族」はそんな「こいつら野蛮人www」と嘲笑いに来た撮影スタッフを「現地の方々、やっておしまい」とばかりにギャオスなことをするという映画です。

 

 ただ、その後も制作された「食人族シリーズ」は初代のような皮肉が消えてただのB級残酷ショーになりさがってしまいました。初代から受け継がれているリアル動物虐待シーンや無駄なおっぱいシーンなどで間延びをする展開などはやはり退屈で、「どうせB級だから」の文脈なしでは眠ってしまいそうなものが多かったのです。あと映像技術の問題なのかおっぱいのほうが大事だったのか、これらの作品は意外とカニバってないのです。「食人族」というタイトルなのに「人喰い」がショッキングに描かれているわけではないのです。

 

 しかし、しかし! イーライ・ロス監督はそんな「動物虐待パート」「無駄なおっぱいパート」を削減して「食文化パート」を充実させ、物語にもしっかり伏線を張り巡らせるという映画らしい映画の造りにした上で「これが見せたかったんだよ」という形の「食人族」を提供しました。素晴らしいです。そうです、こういうのが見たかった、みたいな。

 

 この映画の話に入っていくと、まず超意識高い系の団体が大学でハンストを行っています。その団体のリーダーアレハンドロが主人公ジャスティンに接触します。ただでさえ国連職員の娘のジャスティンは授業中に「女子割礼なんて野蛮な風習やめさせるべき」と発言するような意識高い系。「君も仲間にならないか?」と誘惑(?)し、結局ペルーくんだりまで付き合うことになります。国連職員のパパンはものすごく心配します。当たり前ですね。しかしパパンに「女子割礼を辞めさせるべき」と大学で習ったことを報告してパパンを困らせるあたり、超お子ちゃまなんですよこの子。

 

 そこでやってきました南米ペルー。意識高い皆様にとってノーへルの子供を乗せてバイクで走っているのは「児童虐待」に当たるそうです。この辺りからもわかるように、この映画では彼らの抗議行動をはじめとした思想は否定的なものとして描かれています。この感じ、何かに似ているなぁと思ったら「ランボー最後の聖戦」ですね。意識高く人道支援をしようとジャングルに入ってひどい目に合う若者。昔の「食人族」シリーズなら現地人をバカにしていた撮影スタッフ、ジャングルの財宝を求めて欲望のままに動くクズなどでしたが、現代の裁かれるべきクズはこういう連中なのかもしれない。時事ネタを出すと、過激なYoutuberなどもこのクズカテゴリに入るのかもしれない。

 

 この後お待ちかねの解体ショーなのですが、何ともここは気合の入った場面になっています。偉そうな人が出てきて舌、目を踊り食いしたあと四肢切断からの首ちょんぱと「いやぁ早く殺してあげてぇぇ」な痛そうなシーンが続きます。その後焼いたり皮をはいだり塩を塗ったりと「お料理」シーンがあるのがすごくポイント高いです。ここまで「お料理」をちゃんとやったシリーズは見たことがなかったので……ただグロいだけではなく、「文化」というものを大事にしている感じがあって非常によかったです。

 

 その後生き残ったアレハンドロは檻の中で「実は抗議活動と言いつつライバル企業からの妨害作戦だったのさ。もうすぐ助けが来るよ」なんてふざけたことを言い出します。この時点でアレハンドロの株が駄々下がり。生き残った面々も呆れ果てます。その後も檻の中で「こんなときだからこそ」とシコり始めたり逃亡しようとする仲間の妨害をして「僕が一人になったら食べられちゃう」とか何とか言い始めます。端的にクズです。「現地の方々こいつから喰っちゃってー」という感じになります。

 

 その後逃亡を図ったレズカップルの片割れはお肉になって再登場し、そのことに気が付いたもう片割れが発作的に自殺してしまいます。その遺体にマリファナを詰めて「これを焼いたら奴らハイになるぜ」とか不謹慎にも程がある展開が続きます。そんで目論見通り現地の方々はみんなハイになるのですが、ハイになりすぎて生きたままかじりついちゃったりとかお茶目なことをしちゃいます。子供が足を抱えて出てきたのは笑うところですね。

 

 無事に逃げ出したジャスティンともう一人でしたが、結構あっさり捕まって男の方はアリさん大行進の刑。ジャスティンは何故かほぼ全裸に向かれて女子割礼の準備。ジャスティンが選ばれたのは処女だったからでしょう。こういう閉鎖的なところでは定期的に余所の血を入れるために他部族を迎えるって聞いたことがあるので、その一環でしょう。他の「食人族シリーズ」に比べてここはあんまりおっぱいおっぱいしていないのが不満でしたが、例にもれず部族独特の変なカッコになったのは伝統だなぁという感じです。アリさん大行進は……「ご想像にお任せします」的なところがちょっと怖い。インフェルノだ。

 

 いよいよ女子割礼されちゃうよって時にタイミングよくどっかの軍隊がやってきます。動揺する現地の方々の隙をついてジャスティンは逃げ出します。そして手に入れていたスマホで「カメラ! 撮影! 私はアメリカ人!」と交戦している軍隊と現地の方々の間に入ります。めでたく救出されたジャスティンの乗ったヘリに「助けてくれ」と叫ぶアレハンドロでしたが、「私の他に生存者はいない」というジャスティンに完全に見捨てられたのでした。

 

 そして生還したジャスティンはアレハンドロのクズっぷりも自身の置かれていた境遇も食人族の存在すらも明かすことはありませんでした。例の意識高いハンスト集団はアレハンドロを殉教者となぞらえ、彼の似顔絵のTシャツを着て抗議行動を続けていくのでした……というところでおしまい。なんとも苦いエンディングです。その後ジャスティンの元にアレハンドロの妹を名乗る女性から「衛星写真に兄とそっくりの人物が映っている」と連絡をもらうところで映画は終わります。

 

 「現地の男の子に助けてもらう」「食人族の存在を否定する」というところは『人喰族』の完全なオマージュですね。あっちのクズは針の降りきれたクズレベルできちんと現地の方々にお仕置きされているところは違いますけど。そう言えばこれまでのシリーズで「局部踊り食い」みたいなのが恒例であった気がするんですが、今回はなかったですね。その代わり舌と目玉の踊り食いでした。どっちにしろアレなシーンです。

 

 前半の「おちんの間近にタランチュラ」とか「一週間は持つ」などの不謹慎発言でブラックな笑いを誘いつつ、後半は一気に「食人族」の文脈で勢いで物語を展開させつつもしっかり伏線を回収するところは本当によかったなぁと思いました。あと全身黒塗りのおっちゃんが強そうでよかったです。

 

 ただおそらくこれを書いている人が「超面白い」と思ったのは今までの「食人族」シリーズを見続けてきたからであって、これ単体だけで鑑賞しても「ただのグロ映画じゃん」と思われてしまう可能性は高いです。あくまでも「食人族」という文脈に乗っ取ると超面白いよってことです。できたらオリジナルの方も鑑賞してほしいな。おわり。