傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「BLAME!」

 「彼らは都市に寄生して今も生き続けている」(NOiSEより)

 


劇場アニメ『BLAME!(ブラム)』本予告② BLAME! The Movie Trailer②

 

【あらすじ】

 都市が暴走を続け際限なく構造物が乱立し、人間が都市の不法入居者として駆除されている世界。電基漁師のづるはセーフガードに襲われているところを謎の男に助けられる。男は霧亥と名乗り、「ネット端末遺伝子を探している」と言う。

 

 【感想(ネタバレなし)】

 映像化無理だろと言われ続けてきた今作がやっと映画になりました。せっかくだからと東亜重音7.1ch LIVE ZOUNDで鑑賞してきましたが、この映画は画面もさることながら「音響」で見る映画だと思いました。

 

 原作を読んだ人ならわかると思うのですが、この世界の途方もない広がりは画面からだけではなくどこまでも果て無く響く音と言うファクターが重要です。落ちるとどこまでも落ちていく空気の音や重力子放射線射出装置の重い発射音。そういったバッキバキな音響が画面外の無限の広がりを感じさせてくれます。機会がある人は良い音響環境でご覧になることをお勧めします。映画館は進化したなあ。

 

 そして、原作を読んだ人ならわかると思うのですが原作通りの展開を映画で行うことはほぼ不可能です。「原作の設定を2時間ドラマにまとめてみました」というのが最大の譲歩であり、最適解です。そのために視点を比較的人間らしい電基漁師の集落の人たちにし、霧亥とシボが来訪者という形をとっています。また、ブラム学園に収録されている原作の1000年後が舞台の「ネットスフィアエンジニア」からも結構モチーフを使っているので興味のある方は手に取ってほしいと思います。

 

 全体的に物語を非常にわかりやすくしてあるので原作未読の人でも内容はつかめると思います(こういったお話に慣れていることが大事ですが)。あとは「考えるな、感じろ」という映画なので野暮なツッコミはあまりしないで「わーじゅうりょくしほうしゃせんしゃしゅつそうちだー」「くじょけいきもーい……キモッ!」「さなかんかわいいー」と楽しむのがいいのかなぁと思います。

 

 以下駆除系みたいにキモイネタバレあり感想です。ネット端末遺伝子を持っていない方はお帰りください。

 

 

【感想(ネタバレあり)】

 言いたいことはたくさんありすぎるくらいなのですが、まず原作からの主な変更点を上げておきます。

 

・電基漁師の集落

 原作では東亜重工のすぐそばだったのが、映画ではシボが昔に張った塗布防電内に住みついたことになっている。映画では死者の肉体の保存は行っていない。

・霧亥

 原作ではセーフガードによる修理で網膜に浮かぶ文字の意味を理解してから情緒などが一切なくなり、電基漁師の集落で意味を理解するが映画では最初から網膜の意味を理解している。

・シボ

 生電社の科学者という設定は共通しているが、原作では霧亥と共に生電社から探索の旅に出ているが、映画では1万年前に塗布防電を施してネットスフィアに接続する実験を行って失敗し原作初登場のようになるまでがれきに埋まっていた。

・サナカン

 少女の姿を借りて集落に潜入するのは共通しているが、映画では既存の少女とすり替わると言う夢に見そうなあくどい事をしている。

 

 特にシボの変更点が大きくて、生電社エピソードと電基漁師エピソードを同時にやろうとしているのが伝わってきました。確かに2時間でまとめるには生電社エピソードは余計なのですが、これをやらないとシボの説明がつかないから時間を大幅にずらすと言う大技をやったんだろう。正直すごいと思った。よくこのエピソードをつなげることができたなぁと。でも骸骨シボがいつまでも続くので「はやく新しい身体を上げて!」とスクリーンの前で新しい顔をもってないバタコさんみたいになってました。ニューシボの足のカツーンカツーンは幼児がぴよぴよ鳴るサンダルを履いているみたいでちょっとかわいかったです。

 

 ただ、やっぱり話をコンパクトにしてしまったので『BLAME!』という作品の持ち味である「広いところを彷徨う」という要素が抜けてしまったのが残念と言えば残念。シャキサクを食べたり建設者とコミュニケーションをとったり乾人の襲撃を受けたりして初めて「6000階層下から」という言葉に厚みが出る。それにシボを見て「でっかい娘さんだ」というのも塊都の周辺の人間が大きくて霧亥が子ども扱いされるというエピソードが前提にあると「遠くへ来たもんだ」感がすごいのだけどね。

 

 あと、野暮を言うと「霧亥が最初から網膜の文字の意味を理解している」っていうのも話をややこしくしないために必要なんだけど、最初から全て悟りきった霧亥というのもあんまり面白くなくて、やっぱり前半に出てきたいろいろ人間らしい部分の多い霧亥も見たかったなという感想は個人的なワガママです。

 

 そして映画を見てイマイチ納得できないのが駆除系の扱いで、虫みたいにわらわらと集団でガサガサ迫ってくるのを見て本当に気持ち悪いなと思ったのです。気持ち悪い、というのはこの場合多分褒め言葉なんでしょうが「セーフガードってそんなに気持ち悪いのか?」という気持ちもあり、あの挙動についてだけどうも腑に落ちないのです。ただ「セーフガードきもっ駆除系きもっサナカンかわいい!」っていう原始的な感情です。キモッ!

 

 そしてサナカン関連のエピソードに関してはちゃんと原作を読んでいれば「もう痛くない」の辺りで気が付けると思ったのでアレは原作ファンへのサービスだと思っています。ぶっちゃけ原作よりエグいです。あと電基漁師が全体的にシドニアっぽいなと思いました。実際シドニアから色々持ってきているんだろうけれども。ところで「東亜重工」の文字が本編から消えたのは何でだろう? メンサーブを出せないからかな……。

 

 どうしても原作と映画の違いというところで見てしまうのですが、ネタバレなし感想でも書いた通り映像と音響という情報量に紙面では敵いません。その代り「極限まで情報を絞る」という描き方がエッジが聞いていて面白いのです。そしてこの映画を見て「原作も読んでみよう!」と思った人が実際に原作を読んだらどう思うかなと言うところに一番興味があります。「原作を読めばわかるだろう」と思って読んだら余計わからなくなった! なんていうことにならないだろうか。不安だ。

 

 ここまで書いてきて、「BLAME!」って積極的に感情移入できるキャラがいないので読んだ人だけの「BLAME!」観があるんじゃないかと思った。個人的にはメンサーブとセウ周辺の話(時空のズレたシボも)が好きだし、モリを拾ってからの流れが本当の「BLAME!」というような気もする。ストーリーらしいストーリーも本当にないので「珪素生物になってメガストラクチャーであなたも生活」みたいなセカンドライフっぽいスマホゲーとかもなくはないなぁと思いました。「BLAME!」は概念。おしまい。