傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「舟を編む」

 コミュ障だけど辞書つくるよ!
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【あらすじ】

 玄武書房辞書編集部は新人として営業部の馬締光也をスカウトする。馬締は名前通り真面目すぎる性格で、次第に辞書作りにのめりこんでいく。辞書を作る作業と言うのは、言葉の海に乗り出していくこと。「大渡海」を編纂する大事業に馬締らは何年も取り組んでいく。
 

【感想】

 言わずと知れた三浦しをん原作の映画化。原作は未読です。冒頭に出てくる「右という言葉を説明できますか」はどこかで聞いたことがあったので模範を一応持っていたから「東西南北で説明する方法」と「人間の心臓で説明する方法」とあるのはわかっていた。意外と知らないと戸惑うかもしれないね。



 辞書を作る地味にロマンあふれる話なのだけれど、気になったのがどうしても登場人物が漫画っぽいってこと。どうしてあんなに極端なキャラクターでストーリーを展開させようとするんだろう。最初から最後まで主人公やその直近のキャラクターに感情移入が全くできなくて困ってしまった。後で調べたら原作と馬締の性格が結構違うみたいで、どういう狙いだったんだろう。


 辞書作りの地道な作業の在り方は素晴らしいと思うんだけど、原作と違うとわかるとどうしても松田龍平のあのキャラクターは何のための存在なのかわからなくなってくる。「コミュニケーションが苦手で真面目な青年」を演出するのに、あそこまでオーバーな表現は必要だったのだろうか。あと、取ってつけたようなラブシーンは一体何なんだろうか。別になくても最後まで行くんじゃないのかと。


 多分「馬締」という人物を描きたいのではなく、辞書作りの現場を描きたかったのだと思う。だからわかりやすいテンプレ的なキャラクターを配置してしまったのだと思う。その結果現実にいそうでいない人物と言うより、「あるあるキャラ」の乱発になってしまったのだろうと思う。チャラ男に突然現れるヒロイン、理解ある大家のおばあさんに頼りがいのある先生など、物語を細かく見ていけばピースはハマっているのだけれど、全体で考えると「出来過ぎ」な配置だと思う。ご都合主義と言うか、先が容易に読めてしまう。


 もう一度言うと、辞書作りの情熱やそれに関する関係者の頑張りは面白い。だけど、映画全体としてこの作品を見ると「うまく出来過ぎていて」何かが足りない。登場人物に人間としての幅がないのだと思う。この映画の外で登場人物たちが生きていく場面が想像できない。映画の幅として話が終わっていて、広がりがない。だからと言って徹頭徹尾のコメディと違って「あー面白かった!」というところまでスカッとしないものがある。こういう気持ち、辞書には載ってないですねかね。