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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「マウス・オブ・マッドネス」

洋画 ホラー

 狂気が多数派なら、少数の正気はもはや狂気でしかない。

 

マウス・オブ・マッドネス [Blu-ray]

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【あらすじ】

 保険の外交員のトレントは流行ホラー作家が失踪した事件について調査を依頼される。彼の作品は真実味があり、人々を狂わせると評判であった。「たかがホラー」とトレントも作品を侮っているが、彼の足取りをたどっているうちに架空の町へたどり着く。

 

【感想】

 ジョン・カーペンターの狂気をかきたてる作品です。要は「小説に書いたことが本当になる」というお話で、これがそのまま子供向けのお話だったらかわいい展開になりそうなのですが「お前は小説の中の人物なのだ」って言われたらどうなるのか、という自意識を崩壊させるようなお話です。

 

  お話は精神病院に連れ込まれる男性が「俺は狂ってない!」という微笑ましい場面から始まります。その後、彼が如何に精神病院に収監されるようになるかという話がメインです。クリーンヒットするタマ蹴りがものすごく印象に残りました。物語に一切関係ないのに、序盤でタマヒットは痛そう。

 

 で、本題に入ると悲劇(?)の主人公のトレント君は保険の外交員。何でも「保険金詐欺じゃないのか」と疑ってかかる現実主義者。そんなこんなで付添いの女性と一緒に失踪したホラー作家を探しに旅に出ます。何でもそのホラー作家の作品は「読むと狂う」と評判で、参考に読んだトレント君も寝汗びっしょりのイヤな夢を見てしまいます。この夢のシーンも割と怖い。現実ではないってわかりそうなところが怖い。虚構と現実と入り乱れるこれからの展開の引き金になっています。

 

 そして架空の町「ホブ」についてから物騒な村人に襲われたり、おじいちゃんを虐待している老婆に出会ったりとなかなかのホラー体験をして、同行していた秘書がすんごい不気味なクリーチャーに変化して襲われたのち脱出。 この辺は普通の怪奇映画でいいと思うのです。

 

 個人的な見どころはそれからトレントが街に戻るまでのシーン。高速バスで逃げるトレントの隣に気が付いたら例のホラー作家が座っていて「僕の好きな色は青なんだ」と告げると一瞬にしてバスの乗客はみんな青い服を着て座っている。このシーンだけでなんだか気味わるくなってしまった。更に出版社まで帰ってきて経緯を告げると「君は一人で向かったんじゃないか」と一蹴される。

 

 特にバスのシーンが怖かったのは、「このバスは現実に存在するバスなのか」っていうところ。トレントだけが物語の登場人物なのではなく、バスの乗客全員もホラー作家の手の内というのが怖い。そもそもそんなバスは存在していなかったのかもしれない。存在しないバスに乗った存在しない男。もうこれだけで十分不気味です。

 

 ラストはトレント自身が病室から抜け出し、「物語」に汚染された世界で映画館に入って自分の映画を見て大笑いするというもの。「トレントがいる世界そのものが虚構でトレントは虚構の自分が現実だったころの物語を見て虚構であると笑っている」とすれば、これはどこまで「物語」なのかと考えてしまい思考のループになってしまう。卵が先か鶏が先か。映画を見ているものが常にスクリーンの中の誰かに見つめられているのかもしれない。