傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「グレイテスト・ショーマン」

イッツショウタイム!

 


【あらすじ】

仕立て屋の息子のP.T.バーナムは妻チャリティと子供たちと一緒に「不思議なもの」を拡大して異形の人や一芸を持った人を集めて「ショービジネス」を開催すると大変な評判になる。しかし成り上がったバーナムをよく思わない上流階級に一泡吹かせようとバーナムは歌姫ジェニーの公演に力を注ぐ。

 

【感想】

映画館で見ればよかった!

音楽最高! ミュージカル万歳!
うおおおおおお!
初っ端からサーカスドン!
華やかな映像!
生かした音楽!
ストーリーなんて知ったことか!
とりあえず歌でなんとなく流していくぜ!
大事な会話も歌にしちゃうぜ!
バーの交渉の歌はかっこいいな!
「this is me」はマジかっこいいな!
空中ブランコのところはすげえな!
思わず「すげぇ」って声出しちゃった!
ラストは本当に大団円でよかったな!
そこの大事なところも歌でやっててよかったな!
はいめでたしめでたし!!!!


そんな映画です。


ただこのブログ書いてる人の「フリークス映画」としての評価はあんまりよくないです。やっぱりこのテーマで「フリークス」を超えるのは難しい。シンプルなんだけど、だからこそアレをベースにするしかないし、だからこそ越えられない。


それも仕方ない話で、この話の主人公はP.T.バーナムであり、フリークスたちじゃない。そしてバーナムは世間の偏見の目と戦っていたのではない。上流階級からの見下された目から戦っていた。だからこの映画の敵はチャリティの父や新聞記者を中心にした「上流階級」になり、次第にバーナムも彼らに近づこうとして似たようなことをしていくという典型的なお話で、最後に反省して大団円みたいに分かりやすいのはとてもいいなぁと思いました。


話が少し変わるけど、「あやし」という古語には「身分が低い」という意味がある。元々「あやし」は「不思議に思う」の意味なんだけど、現代のニュアンスで言うと「は?訳わかんねえし」くらいのもの。当時の文章を書いていた高い身分の貴族たちから見れば、平民など身分の低い者たちは「げっ、意味わかんねえマジひくわー」というようなニュアンスで接していたので「あやし=身分が低い」が生まれた。だから竹取の翁の「あやしがりて寄りてみるに」を「不思議に思って近寄ってみると」と訳すより「ちょ、竹光るとか訳わかんねえしwwwwww」くらいのが「あやし」の意味を的確に捉えられている気がする。意味は大体変わんないのに、なんか違う気がするね。いとあやし。


何が言いたいかと言うと、現代のニュアンスで過去の身分の上下を感じるのはすごくナンセンスだと思うっていうこと。チャリティの父親からするとバーナムも「いとあやし」なものに娘は取られるし、かわいい娘はなんか知らん奴らとつるんでるしで最悪だったろうなあと思う。この仕打ちがバーナムの反骨心を育てたんだろうなとは思う。ここの人間関係はこの映画で外すことはできない大事なものだと思う。現代の感覚で「チャリティの親父最低だな!!」と思うのは簡単だけど、今の感覚で言うならば「私飼い犬のベスと結婚するわ!」みたいなものだろうし、その感じを私たちが共有することはできないんだろうなとは思う。フィリップの両親がアンをどんな目で見ていたか、それを共有できないということはとても良いことなんだろうと思う反面、当時を当時のまま表現することの限界も感じている。クレヨンしんちゃんドラえもんも初期の描かれ方に疑問が投げかけられているけど、そんなん知らんがなでいいと思う。当時のことは当時のことで尊重してやろうよ。未来から目線だよ。


そういうわけでこの映画はフリークス映画というよりバーナムの反骨映画なんですよ。フリークス要素はあくまでもオマケ。というか、真面目にフリークスを描ける時代は終わったのかなと思う。『ダンボ』の実写でもアニメ版のこれでもかと迫害されまくるかわいそうなダンボは一瞬でおわり、成功したものの苦悩みたいなもの(厳密には多分違うけど)が描かれる。


少女椿」の実写版の奴でも「見世物小屋の描写が皆無なのは逃げというよりも勇気ある撤退」と評した。それだけ、このご時世フリークスに関する表現はかなり厳しい。それはフリークスが禁忌という面もあるけれど、フリークスの悲哀を肌感覚で観客が感じ取りにくいから表現側が重きを置かないんじゃないかなぁとは思う。どれだけうまく表現したとしても「残酷ショーだ!」で終わってしまう。だからこの映画でもバーナムを主人公にしてフリークス関係をサイドに押し込めたのは悪くない。逆に真っ向から立ち向かったら、そりゃもう大変よ。血の海よ。


この映画のいい所は「これがやりたっかったんだぜー!ババーン!」でずーっとゴリ押ししまくったところかな。ミュージカルシーンはどれも面白いし、バーのシーンは最高。ああ、映画館で見ればよかった! おしまい。