傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「グリーンマイル」

崇高な魂は誰も犯せない。

 

グリーンマイル (字幕版)

グリーンマイル (字幕版)

 


【あらすじ】

老人ホームで昔話を始めるポール。時は1935年、刑務所で死刑囚の監房を担当していたポールはある日ジョン・コーフィーという死刑囚と出会う。ジョンの不思議な力を見て、ポールは本当にジョンが死刑判決を受けるほどの悪人なのか疑問に思う。


【感想】

泣くわこんなん。

 

なんとなく聞いていた評判から想像していたのと違ったパターンの映画でした。というのも、勝手に「ショーシャンクの空に」だと思っていて不思議な力を持つ囚人とトム・ハンクスの話だということしか知らなかったので「不思議な力=周囲を変える人柄」みたいなの想像していたんですよ。本当に人間って勝手ですね。


勝手に荒んでいた死刑囚たちがジョンの持つ力で次々と改心して涙を流しながらジョンに礼を言って執行を受け、ジョンの冤罪をトム・ハンクスが確信していて「いえ、これも私の罪ですから」とジョンが拒否して涙ながらの執行、みたいな話だと思ってたんですよ、勝手に。


いやまあ大体その通りなんですけどね。まさか「不思議な力」が本当に「ふしぎなちから」だとは思わなかったんですよ。ふっしぎなちからみっせられて~尿感染症~なおったの~ゲッホゲッホ! みたいな。マジかよ。ジョン超能力者かよ。いや、この話的には神の使いか。


この話にはいくつか映画の外から見るべき視点があって、ひとつは死刑の是非。そして黒人差別。だけど一番心に残ったのは憎まれるべき悪役パーシーかな。この映画で一番戦うべきだったのはパーシーだった。ウォートンが真の悪だったわけだけど、ああいうわかりやすい悪ではなく小市民としての悪。パーシーみたいなマインドの連中はその辺にたくさんいる。


いろんな映画の悪役を見てきたけど、このパーシーみたいなタイプの悪役って結構珍しいと思う。映画なのでわかりやすく悪いグループの幹部とか政治家とか大企業とか、あとはサイコパスな殺人鬼とかそういうのはたくさんいるけどパーシーみたいな日和見小市民をメインに据えているのはそんなにない。個人的に今のところ最高に小物だった悪役は『沈黙の断崖』に出てくる田舎のチンピラ親子で、今のところその2人を超える小物メイン悪者は見ていない。


パーシーの話に戻ると、初っ端からやりたい放題。暴言を吐くは無駄に囚人に乱暴を働くは二言目には「おばさん(州知事の妻)に言いつけてやる!」だは、本当にどうしようもない。見てる方も「こいつクソだな」と思うし、看守役のまともなメンバーも「こいつクソだな」と思っている。


そんなクソパーシーがやらかした最大の失態はウォーレンが暴れた時にビビって何も出来なかったことでもウォーレンに脅されてちびったことでもなくて、デルの処刑時に悪態をついて電気椅子のスポンジを乾いたまま刑を執行したことだっった。これが冷たくてクレバーな感じの人が「これがお前の報いだ」とわかっていてわざとやったとかではなく、ただの興味本位の悪戯でやったというところが彼の最大の罪だと思った。ウォーレンは自身が悪人であることを確信しているけど、パーシーは悪人の自覚はなくて悪い意味で非常に無邪気なのだ。特に信条があるわけでもなく、子供が「僕にもやらせて」くらいのノリで死刑執行を執り行う。これは執行される側のデルにも人間的に失礼だし、デルの死刑を待ち望んでいた遺族にも大変失礼な話だ。


ちなみにこのデルの死刑執行シーンはかなりよく出来たシーンで、遺族の怒り悲しみと無縁な場所に立っている無能パーシーに炎上するデルを何とかしたいけどどうにもできない看守ズ、なんかはしゃぐウォーレンに祈るジョンという構図が本当に素晴らしい。最初からグイグイ見せる映画だったけど、この中盤の山場が本当に胸糞悪くてすごい。トム・ハンクスの管理職としてのすごみがヤバい。変な日本語使ってるつもりないんだけどなんか変な日本語になってしまった。


あとどうやら原作だとデルは放火殺人をしたということで死刑判決を受けているのでこの報いは妥当という見方もできるけど、映画版だと彼が何をして死刑になったのかわからないのでこのシーンがより際立つようになっていると思った。でも火事で焼け死ぬのは窒息とかそういうのが先に来ると思うのであんなに電気で長時間こんがりされることもないと思うし、そういう意味であの仕打ちは倍返しとはいえ相当残酷だったと思う。そう見せた映画の作り手がすごい。


そんでジョンが癒しの力でMr.ジングルズを生き返らせたり所長の奥さんの脳腫瘍を治したりするところがあって、ジョンはその能力を使ってクソパーシーとウォーレンをいっぺんに仕留めることができるんだけど、ここがまた悲しい。普通に見れば「さすがジョン! 悪をまとめて退治したね!」となるんだけど多分そう見るのがジョンのためにならないと思った。


ジョンは「この力のせいでいろいろ疲れたから死なせて欲しい」と語るけど、多分それだけが死刑を受け入れた理由じゃないと思う。まずジョンは双子の姉妹を救えなかったことを後悔していたと思う。それだけで優しいジョンには死刑に匹敵するだけの重荷を背負っている。そして間接的とは言え、ジョンは殺意を持って一人を殺して一人を社会的に抹殺した。優しいジョンからすればこれは一生背負っていく罪で、死刑判決がなければ彼はこのような復讐をしなかったのではないだろうか。ジョンは彼らの罪も背負ってオールドスパーキーに座ったのだろう。なんて優しい男なんだ。


このジョンの死刑執行シーンもかなりしんどい。ジョンの冤罪を確信している看守ズは泣かないよう懸命に顔を作っている。遺族の怒りや悲しみを受けて、ジョンの最後の頼みを叶える。もしジョンが黒人の大男じゃなかったら、小柄な女性、もしくは白人だったら彼は死刑判決を受けなかったのではないだろうか。当時の事情を考えても詮無い話だ。ただただ「苦痛を受けないことは運のいいこと」と考えるしかない。


後にポールが「ジョンを救えなかったことの贖罪として生き続けている」という話になるんだけど、そのシーンはそんなに重要じゃないよなぁとは思った。でも不幸にもジョンの悲しみを受け入れてしまったMr.ジングルズが出てくることで、ジョンの悲しみは未だに続いているということもよくわかったような気がする。


映画全体としては長いんだけど、本当に全部のシーンがよく出来ていると思った。役者がみんないい芝居をするし、特に看守ズがいい働きをした。ジョンたち囚人にスポットを当てながら看守ズのキャラクターもしっかり描いているのでジョンの死刑執行シーンでその積み重ねが爆発している。そんな印象を受けた。


そういうわけで泣くに決まってるでしょこんなん、というわけです。3時間があっという間です。泣きましょう。おしまい。