傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「モアナと伝説の海」

 海に選ばれた他の誰でもない映像美。

 


映画『モアナと伝説の海』日本版予告編

 

【あらすじ】

 村長の娘モアナは生まれ育った島の外に行くことを望むが、珊瑚礁より先に外に行くことを禁じられていた。やがて島の作物がとれなくなり、不漁が続く。島には「命を生み出す女神テ・フィティの「心」を半神マウイが奪ったことで世界は闇に包まれ始め、いつか海に選ばれた者が海を越えてテ・フィティの「心」を返しに行くことになる」という伝承があった。祖母からモアナが「海に選ばれた者」であることを聞き、珊瑚礁の外へ出て封じられたマウイを探し、テ・フィティの「心」を返す旅に出る。

 

【感想(ネタバレなし)】

 ディズニー最新作の舞台は南の島、ということでもう輝く砂浜に光る海の映像美を楽しみにするしかないだろう、という思いで映画館に向かいました。想像通り、素敵な映像と音楽に圧倒される時間を過ごすことが出来ました。

 

 今作で一番頑張っているのはとにかく「海」の表現に尽きると思うのです。波が打ち寄せるだけでも水の透明感が素晴らしいのに、それを生き生きと動かすなんて! というのが深く深く心に響いて。昼間のキラキラした海も素敵なのですが、夜の静かな海のシーンも本当に素敵でワクワクです。

 

 そしてストーリーも単純明快で、それでいて誰もがハッピーになれるようなものになっています。しかしキャラクターは相当に作りこまれていて、特に半神マウイのキャラクター設定には隙の無さを感じました。「お決まりの展開すぎてつまらない」という感想を結構見るけれど、映画って物語の展開だけで成り立っているわけじゃないのになぁというのが残念です。ただ、ストーリーが単純な分メッセージが少しわかりにくいかもしれないというのはあります。

 

 それから、まさかのマッドマックス的なシーンもあってただきれいなだけではない映像がびゅんびゅんと動き回って楽しいです。結構スリリングなシーンも多くて、男の子でも十分楽しめるでしょう。

 

 以下ネタバレあり感想です。「マウイ」を中心にこの話の中心のアイデンティティについてつらつら書く予定です。鑑賞予定のある方はお帰りください。

 

モアナと伝説の海 オリジナル・サウンドトラック <日本語版>

モアナと伝説の海 オリジナル・サウンドトラック <日本語版>

 

 

【感想(ネタバレあり)】

 まずは恒例の前座短編『インナー・ワーキング』なのですが……「ディズニーも病んでるな」という印象。『インサイド・ヘッド』的なものを期待したらそれ以上のところに踏み込んでいった感じがしました。「臓器がしたいことを脳に送る→脳が死の危険を察知して却下する」という繰り返しが面白く、大人でもフフっと笑ってしまいそうなシーンが前半続きます。ところが後半、楽しいことを抑制された臓器たちが動かなくなります。脳がいくら指令を送っても、身体は動いてくれません。見事にうつ病の症状を描いていてびっくりしました。『モアナ』の前にこういうのをよくやるなぁという印象でした。

 

 『モアナ』に入ると、とにかく感心したのがストーリーとキャラクターの絡みです。理不尽な行動をするものがなく、皆が皆の理屈で無理なく動いていました。父親が島の外に出るのを禁じるのは実際に島の外が危険な場所だからで、マウイが自慢ばかりするのにもそれなりの理由がありました。モアナもどこかの国のお姫様のように「信じれば夢は叶うの!」「話せばわかると思うの!」という設定上のゴリ押しではなく落ち着いて出来ることを精一杯やっているところが好印象でした。

 

 特に「マウイ」のキャラクターはうまいなーと思いました。『アナと雪の女王』ではトナカイにアテレコして内面を表現するクリストフというキャラクターがいたけれど、マウイはそれを自分のタトゥーで表現する。トナカイよりもコミュニケーションとしては内に篭る傾向にある。彼らの共通点は「対等に共感してくれる他者がいなかった」ことで(クリストフはトロールがいたけれど、対等な関係かどうかはわからなかった)アナやモアナと出会うことで彼らにも変化があるというのがお決まりのパターン。クリストフもそうだったけれど、そういった内なる心の声は良心と呼ばれる部類のもので、「本当はどうすればよいのか」ということはマウイも重々承知しているです。でもいろいろあって素直になれないだけ。

 

 マウイは半神で、幼いころ海に捨てられた子供を憐れんだ神が拾い上げたということになっています。そのせいで「己は何のために存在するのか」ということにマウイは悩んできました。そんな状況で人間のために様々な行動を起こして「You're welcome=あなたの存在はここにある」と言ってもらおうと懸命に頑張っていました。頑張った結果、カラ回ってテ・フィティの心を奪ってしまいました。これはひとつの「親殺し」に相当します。彼はアイデンティティを得るために、全ての母を殺したわけです。

 

 その代わりに出てきたのが大地と火の悪魔テ・カアで心を盗んだマウイを叩きのめします。マウイはアイデンティティである釣り針を取りあげられ、孤島に幽閉されます。この辺西遊記みたいだなあとか思っていました。そうするとモアナは三蔵法師なんだろうか。

 

 それからいくつかの出来事を乗り越えて、マウイは「モアナを認める」ということを習得します。他人を認める人は、他者から認めてもらえる。モアナもマウイを受け入れ、それから船の操縦法などを丹念に指導されます。

 

 実はモアナは「受け入れる」ということに長けているのです。海に惹かれながらも村長としての役割を受け入れ、ヘンヘンを否定することもせず、また海に選ばれたという出来事も素直に受け入れます。そんなモアナだからこそ、マウイを受け入れて冒険が出来たのだと思います。俗っぽい言い方をすれば、究極の「バブみ」がモアナにあったから海に選ばれたのかなぁとか思っています。最終的にモアナのバブみでテ・カアも元の姿を取り戻し、めでたしめでたしというわけです。

 

 結局アイデンティティの喪失が世界の危機を招き、バブみが世界を救うという結論な映画でした。この辺『インサイド・ヘッド』に少し似ているなぁと思いながらエンドロールをぼーっと見ていたら、最後にラルフが出てきたのが嬉しかったですね。『シュガーラッシュ2』は本気で楽しみにしている。

 

 それから、やっぱりおばあちゃんが亡くなるシーンはわかっていても鳥肌ものでした。ああいうベタだけど壮大な演出を照れずにやってくれるディズニーさんが私は大好きです。とりあえず以上です。