傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ゴースト・イン・ザ・シェル」

 諸君! ハリウッドでバトーさんが実写化されたぞ!

 


『ゴースト・イン・ザ・シェル』 本予告

 

【あらすじ】

 人間の脳が電子化できるようになった近未来。ハンカ・ロボティックス社から身体は機械、脳は人間の全身義体第一号として生み出されたミラ・キリアン少佐は公安9課に所属してテロリストと戦っていた。過去を持たない少佐はサイバーテロ事件を追ううちに、自分が何者であるのか考え始める。

 

 【感想(ネタバレなし)】

 バトーさんは実写化されたけど、タチコマは出てきません。しかし、タチコマもネットの海のどこかで喜んでいることでしょう。言わずと知れた『攻殻機動隊』をハリウッドで実写化したものです。

 

 結論から言えば、「これはこれでアリだよな」というところです。少佐が白人だからダメだとか、課長がビートたけしだからダメだとか、そういうのが前評判で聞こえてきましたが少佐はスカーレット・ヨハンソンで正解だと思います。よくやったなぁという感じ。課長は、日本語喋ってるのが毎回面白かっただけでまぁいいかな。

 

 自分の中でたけし課長の英語字幕を許せたのは、多分少佐のキャラクターが大幅変更になっているからです。少佐は草薙素子なのですが草薙素子ではないです。ミラ・キリアン少佐という名前で、全身義体になってから1年という設定なので少佐の女ゴリラ的なシーンはあんまりありません。アクションはいっぱいあるのですが、少佐の「バトーとトグサは張り込みを続行しろ、イシカワとボーマはガイシャの身元を洗え、パズとサイトーは周囲の聞き込みだ」みたいなああいう感じがゼロになってました。むしろ「ここはどこ?私はだれ?」という不安定キャラになっているのが相当キャラクターいじられたなぁという気がして気の毒になってしまって。「攻殻機動隊SAC」の「サイトーおおおお、そいつをよこせえええええ!」のところの少佐が個人的に好きなので何だか寂しいです。

 

 正直、こいつのせいで話に入っていくのに相当時間がかかりました。しかし流石はハリウッド、ちゃんと物語に着地点を作っていたのでストーリー全体のストレスはそれほどありませんでした。2時間で物語を納めなきゃなのでやっぱりわかりやすい悪者がいないといけませんからね。その点は全然問題ないです。公安9課が悪をやっつける、というストーリーで基本問題ないです。

 

 それからやはり『ブレードランナー』でやりたかったことをもう一度やってやるぞ! という意気込みをたくさん感じました。少佐の精神の揺れがそのままアンドロイドたちの抱えていた不安に直結して、またあのザラザラした感じの近未来の風景を作り出しているのはよかったです。ただ、ちょっと詰め込みすぎのような気がしたのですがこの辺は敢えてやっているのでしょう。

 

 もしこれから劇場に行くのであれば、近未来の街並みのどこかに「イノセンス」という文字列があるので探してみてください。正直ここで吹きそうになりました。ハリウッドだから日本語なんて観客あんまり見ないよねみたいなことで仕込まれたのか、日本人に笑ってもらいたいために仕込まれたのか、とにかく罠です。あの「イノセンス」は卑怯。

 

 以下ネタバレ感想になるので、気にする人はお帰りください。

 

sidelinea.hatenablog.jp

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【感想(ネタバレあり)】

 話に乗れなかった一因として、全く疑いもなく「今回の映画は人形遣いが出てくるんだろうかワクワク」と思っていたらそのポジションにいたのは笑い男のコスプレをしたクゼ」という事態に脳内でオロオロしてしまったことがあります。難民解放ではなく己の復讐のために戦うクゼ。スタンドアローンコンプレックスしない笑い男。そして記憶をなくして不安定な少佐。冒頭のバトーに至ってはペットボトルアイじゃないという「マジかよ」という展開に「課長がたけしとかどうでもいいか」と思ってしまいました。リスペクト、とみればリスペクトだけどアニメキャラ混ぜちゃうのはどうなんだろう……。

 

 あとネタバレなしのほうでも書いたけれど、やっぱり女ゴリラ的な少佐が見たかったのよ。充分スカヨハ少佐も強いんだけど、絶対的な精神的脆さがあるから安心して見ていられない。正直「1年しか生きてないのに何で少佐なんだろう」とか考えてしまうくらい「この少佐像は挑戦しているな」と思っていました。

 

 それもそのはずで、この少佐やクゼの苦悩は『攻殻機動隊』に見られた「電脳化とネットワークでつながる世界の諸問題」ではなく、どちらかというと『ブレードランナー』で描かれたアンドロイドの苦悩に近い。確かに2時間で『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』とか『SAC』とかやれって言われても無理だし、サイバーパンク馴れしていない人に「電脳化がどうのこうの」っていきなりやられても不親切だし、いいところに落ち着いたと思ってる。ただ、通信をハックされていて課長が「電脳通信は危険だ」と通信を入れるシーンで「暗号化通信にすりゃいいのに」とか思ったのはここだけの話。

 

 一応ベースは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』なので主要シーンのほとんどはここから出てきます。電脳ハックされる清掃員とか水の上での高額明細光学迷彩バトルとか、あとラストのVS多脚戦車とか人形遣いじゃなくて笑い男クゼとの融合とか。それ以外にもSAC第一話の芸者ロボとかイノセンスの犬とか結構出てきて面白かったです。なんとなく潜入捜査のシーンはSAC2ndGIGの第三話のようにも感じました。

 

 もう一個野暮な点を挙げると、やっぱり公安9課の全員を活躍させてあげたかったなぁというのがあります。バトーはまぁ台詞があったほうだけど、トグサは生身の身体と義体の違いを説明するのに使われただけ感があるし、イシカワはただの呑兵衛のおっちゃんになってるし、ボーマに至っては台詞なし、サイトーはラストの狙撃で一発キャラになっているし、2時間という制約は厳しいけれどもう少し課員に優しくできたんじゃないかなぁという気がしないでもない。出来ればトグサの出番を頑張ってほしかった。

 

 なんつーか、電脳化とかはお話のギミックとして割り切って本題は「義体によるアイデンティティの維持」っていうところを貫いたのはよかったと思います。桃井かおりママもうるさくならない程度で、まあよかったんじゃないのかなぁ。欲を言えば、黒幕が若干小物くさくて魅力がないのが残念なのでその辺もっときれいに行けばひとつの「アナザー攻殻機動隊」としては十分なんじゃないのかなぁ。こちらからは以上です。