傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「禁じられた遊び」

 死を理解するには、あまりにも幼すぎた。

 

禁じられた遊び [DVD]

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【あらすじ】

 戦争中のフランス。パリから逃げてきたポーレットは、空襲で父と母と愛犬を亡くす。死んだ愛犬を抱えて彷徨っていたポーレットを農家の末っ子ミシェルが発見する。ひとまず農家に置いてもらえることになったポーレットは愛犬の死を受け入れるために墓を作る。ミシェルはポーレットに喜んでもらおうと思い、二人で秘密の墓地をつくることにする。

 

 【感想】

 大変有名なテーマソングと「子供がお墓を作る」くらいしか前情報がなかったのですが、じんわりと残る後味にやっぱり名作なんだろうなと思いました。

 

 この映画は空襲から逃げる多くの人々のシーンで始まります。このシーンがかなり強烈で、押し合いへし合いをしながら逃げ惑う臨場感が画面のこちら側に伝わってきそうなんです。とにかく「生きなければ」ともがく人々の中を犬を追いかけて走り出したポーレット。結果として両親と犬は死んでしまいます。ところが彼女はまだ「死」というものをよく理解していませんでした。

 

 農家の末っ子ミシェルに拾われて、ポーレットはやっと「死んだら墓に入る」ということを理解します。犬を埋めて「一人ぼっちはかわいそう」と周りのネズミや虫の死骸を次々と埋め、墓標を欲しがってミシェルはポーレットのために十字架を盗みます。この一連の騒動の中でミシェルの兄は馬に蹴られたことで亡くなってしまいます。兄が死んで悲しいということより、ミシェルの頭の中には「ポーレットのために十字架をどう盗もう」ということしかないのです。

 

 この映画はよく「反戦映画」と題されるのですが、描かれているのはどこまでも「生と死」のコントラストだと思うのです。一人だけ生きのびたポーレットに、瀕死のミシェルの兄。少しでも背中を押せば「あちら側」に行ってしまうポーレットを必死で現世に繋ぎとめようとするミシェル。「死」から逃れて部隊を脱走してきた隣の家の息子と一緒になろうとしているミシェルの姉。墓穴に入って殴り合いをする家主たち。2016年という時代だから思うことかもしれませんが、「反戦」という言葉自体が非常に陳腐なものになっていて、この言葉でこの映画を語ることが出来なくなっていると思うのです。

 

 この映画の感想は、とにかくあの後を引くラストに尽きると思うのです。正直何も解決していないのです。ミシェルは十字架泥棒の罪を一生背負うし、ポーレットは雑踏に消えてその行方もわからなくなるという幕切れ。「えっこれで終わり?」という感覚が総動員する。

 

 観終わって思ったのが「ポーレットは生きたかったのか」という点です。ポーレットと「火垂るの墓」の節子は同じ年の頃ですが、節子は明らかに「生きたい」という気持ちで毎日を過ごしていたように描かれています。対してポーレットは無邪気にミシェルの後をついていきますが、その気持ちは両親や愛犬のそばにあったのではないかと思うのです。最後にミシェルの名前を呼んだポーレットにとって生きる意味は「ミシェル」であって、ミシェルがいなくなった時に彼女の「生きるべきか、死ぬべきか」を自分で考えなくてはいけないところに来たんじゃないかって思っている。雑踏に消えた彼女は「生」に向かって走り出したんだと、そう思いたい。