傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「死の王」

 Aはエイミー かいだんおちた(ギャシュリークラムのちびっ子たちより)

 

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【あらすじ】

 一体の死体がどんどん分解されていく。そして月曜日から日曜日まで、様々な自殺の形を描くことで死とは何かを考える。

 

【感想】

 そんなわけで『ネクロマンティック』の監督ユルグ・ブットゲライトの問題作です。この作品にストーリーはほぼありません。月曜から日曜まで、いろんな人の死にざまが淡々と描かれているだけです。

 

 月曜日は、几帳面な男が会社に退職願を出し家を掃除して、身ぎれいにしてから浴槽で薬を飲み死亡。

 

 火曜日は男の遺書を受け取った別の男がナチスの拷問映画を見ているところに妻が帰ってきたところを射殺、という映像が流れる部屋にある首つり死体。

 

 水曜日は恋人に振られた女性がこれまた妻を殺してきたと言う男性に銃を渡す。男性は銃を咥え、引き金をひく。

 

 木曜日はきれいな橋の映像が流れる下に老若男女様々な人の名前がテロップで映し出される。これはここで自殺した人のことなのだろうか。

 

 金曜日は楽しそうな恋人たちを窓から眺める老婆が嫉妬しているところから始まる。老婆の元に「この手紙を受け取った人は自殺をして、他の人に回しましょう」という不幸の手紙のようなものが届く。老婆はしまってあったチョコレートを食べ、昼寝をする。一方、恋人たちはベッドの上で心中していた。

 

 土曜日は警察が三本のフィルムを検証している。一本目に移されていたのは「大量殺戮者は己の名を残すために殺人をする」ということを子供に語って聞かせている女。二本目はその女がカメラを体に固定し、銃を身に着けている。三本目はその固定されたカメラから撮られた映像。ライブハウスに乱入した女が数人に向けて発砲している。ライブハウスにセットしてあったカメラには乱入してきた女の姿が映っていて、女は射殺される。

 

 日曜日は目が覚めた男がベッドの上で絶望にのたうちまわり、頭を壁に叩きつけて死ぬ。

 

 そんな陰惨な場面の中に挿入されるひとつの死体がどんどん腐敗していく様子。ウジがわき皮膚が食い荒らされると内臓が見えて、その内臓にもウジが食らいつきやがてどんどん死体は骨になっていく。そんな様を淡々と描いている。もちろん死体は作り物だが、それでも淡々としすぎていてリアリティがある。

 

 ダントツで好きなエピソードは日曜日。映像に工夫とかそういうのは見当たらない。すっごく「だから何だ」感があって、そういうところに謎がある気がして好き。次点は金曜日。この老婆だけ死ななかったというのが何を意味しているのか。あと木曜日は「明日の犠牲者」みたいな雰囲気がよかった。というか、「明日の犠牲者」はNHKの受信料未払いをテロップで流したというのが発祥だけど、どこかでこの映像の影響を受けていないかなぁ。

 

 そんな感じで面白いっちゃ面白いんだけど、一番いただけないのは性器の処理。日本は切断シーンはちゃんと映すのに、性器にはモザイクや黒丸が入り放題。冒頭「かーっ!かーっ!」ってオッサンが痰を吐くような不気味な(?)あえぎ声と一緒にどーんと出てきたのが例の腐敗する死体なんだけど、きれいに股間が黒丸で覆われている。死の重みとかそういうの以前に黒丸でかなり笑ってしまったのであの映像処理は許さない。タイトルが『死の王』なのにいきなりおそ松さんの銭湯クイズみたいになってるのホント意味わかんない。

 

 そんな感じで全体的に黒丸描写だけ圧倒的に気に入らなかったんだけど、内容はまぁまぁ面白かったのでよかったです。ただ本当におススメはしません、おわり。