傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

2014年度課題図書より「語りつぐ者」「アヴェ・マリアのヴァイオリン」

 夏休み恒例企画の「課題図書攻略」ですが、一応感想ということでこちらに載せようと思いましたが「青少年が見ていいコンテンツ」が少ない気がしたので「攻略記事」自体はアッチに載せてこっちでは純粋に課題図書の個人的な感想を載せていきたいと思います。

 今年は中学生と高校生から一冊ずつ選んだら、なんとなく似た雰囲気のチョイスになりました。まず、中学生の部からは『語りつぐ者』をチョイス。表紙が怖い。そして高校生の部からは『アヴェ・マリアのヴァイオリン』をチョイス。表紙は普通。ハードカバーでないのがありがたい。


語りつぐ者

 表紙が怖いよ!



【あらすじ】
 
 父親の出張中、エリザベスはほぼ面識のない亡くなった母の妹の家に預けられることになった。その家には少女の肖像画があり、エリザベスにそっくりだった。少女の名前は「ズィー」と伝わっていて、彼女はアメリカ独立戦争時に存在したこの家の祖先だと言う。憂鬱だったエリザベスは「ズィー」の物語に興味を持ち、読者は「ズィー」の物語を同時に知ることになる。


【感想】
 典型的なダブル主人公の形式です。エリザベスパートとズィーパートで字体が変わっているので読みやすいと言えば読みやすいのですが、唐突に切り替わるシーンもあって中学生に読解は困難であると思います。しかも題材が「アメリカ独立戦争」という中学生には馴染みのない戦争と言うところも「中学生の部」としてはウィークポイントであると思います。

 この作品を読み解くときに大事なのは「自由を勝ち取る戦争」という側面が非常に大きいと思いました。9.11以降もアメリカではこの独立戦争で勝ち取った自由による考え方が一般的です。日本の「火垂るの墓」的な戦争体験談だけ聞いてきた子供たちにはこの「戦う意義」まで考えられずに「戦争は残酷」「かわいそうだから戦争はするな」しか感想はでないのではないでしょうか。

 戦争の残酷さを乗り越えて「自由のために戦う意義」まで入り込めたとしても、この作品の主題は「過去にあった出来事を子孫が伝えていく大切さ」であって、独立戦争がメインではありません。それこそ南北戦争でも9.11でもよいわけです。中学生だとまだ衝撃的なシーンをメインに据えた読解が中心だと思うので、この辺はおうちの方などのカバーが必要かと思います。ちなみにこの本を読んだ中学生の反応としては「グロかった」が多いかもしれません。意外と中学生なんてそんなものです。

 できればこの本は「高校生の部」に引き上げたほうが面白い感想があったのではないかと思います。高校生であれば独立戦争の意義などもある程度学習していると思いますし、アメリカと日本の文化の違いを客観的におさえ、そして主題を深めることも可能かと思います。

 物語自体は個人的に主題がいくつも絡まった感じが面白かったです。何もできないと思っていたズィーのキャラ設定はちょっと大げさなところもありましたが、エリザベスがズィーに傾倒していく感じは非常に良いと思いました。最近の家族解体傾向に一石を投じるような作品かと思います。

 そして最後に、やっぱり表紙が怖い。これもう少しなんとかならなかったのか。



アヴェ・マリアのヴァイオリン

 あやまちはくりかえしませんから。

アヴェ・マリアのヴァイオリン (単行本)
 



【あらすじ】

 徳島に住む中学生あすかの元にやってきたヴァイオリンは、第二次大戦中にアウシュビッツで演奏をしていた少女のものだということがわかる。あすかはそのヴァイオリンに詳しいドイツ人男性と会い、当時の凄惨な話を聞くことになる。ヴァイオリンの持ち主だったハンナは収容所で音楽隊に所属し、ガス室に送られる人々の悲鳴を消したりドイツ人将校に対して演奏をしたりと屈辱的な毎日を送る。人間以下の扱いをさせられている彼女は「梵天の民」の話を聞く。それは遠い東の国の収容所では、敵も味方も隔たりなく暮らしていたという信じられない世界の話だった。


【感想】

 課題図書定番の「ホロコースト」案件なのですが、今回は日本人が書いていることが違うらしい。しかしホロコースト関係は何を読んでも辛い。涙を流さずにはいられないし人間は愚かであることを改めて思い知らされる。それだけに、この作品の構成もダブルヒロインになってしまったことが惜しい。できればホロコースト関連だけで書いてほしかったところはある。

 おそらく感情移入をさせる意味であすかという少女を主人公にしたのだと思うけれど、高校生であれば彼女の存在を疎ましく思う子もいるのではないだろうか。そもそも課題図書を読もうなんていう意識の高い子はこういう流された感じの子にイライラする気がする。中学生なら共感してくれると思うけれど、高校生には少し辛い。この本も「中学生」と「高校生」を間違えた感じはする。

 個人的に野暮な点を先に行ってしまうと、中学生のあすかが進路に悩んでいるのは当たり前として、ヴァイオリンを購入するシーンあたり適当過ぎて困る。千二百万のヴァイオリンを購入するのに二つ返事の母親。いや一度家に帰って家族会議ものではないだろうか。そして中学生なのに「医者になるために東京の大学」の下見に行こうと言い出す母親。まずは高校を決めてあげようよ。徳島、せめて大阪に医学部はないのかね。ホロコースト以前に千二百万のヴァイオリンをポンと購入する時点で何かがおかしい。現実的な高校生なら呆れてこの先読めなくなるよ。

 読むと不安になってくるあすかのパートが終わると。ハンナのパートになる。ここでやっと物語は安定する。隠れ家を経て収容所に送られる一家。着くなり祖父と幼い弟は速攻ガス室送りになる。この辺で非常につらくなってきて、更になんやかんやがあってもう辛い気分にしかなれない。でもホロコースト関連の話なんてみんなこんなものだ。くじけずに最後まで読もうと意気込まないとページが進まない。

 ところが坂東収容所の話になって「?」と思ったわけです。国際的な取り決めできわめて人道的な捕虜の扱いをしていた収容所と、ユダヤ人のホロコーストを同列に並べることはできないんじゃないかなぁと。下手をすると「日本すごい!」にしかならないから補足が必要だよなぁと。この本だけではユダヤ人が何故迫害されるに至ったかの経緯がすっぽ抜けているからその辺のフォローをどこかでできるといいですね。

 最終的になんとなくカルザス氏の正体は察しがついていたので問題はなかったですし、話の落としどころとしては普通かなと思いました。高校生向けなので出来ればあすかのエピソードをそぎ落として「ホロコースト」に至った経緯も盛り込めるとよかったかと思います。これだけだと「戦争良くない!」で終わってしまうので。

 あと本の帯の煽り文句がよろしくない。「あなたは涙を流さずに最後までこの物語を読めますか?」「一丁のヴァイオリンが生み出す感動の物語!!」とあるのですが、この物語に感動はありません。歴史を淡々を描いているにすぎないと思います。この歴史的事実の重みを逆にバカにしているようでよろしくないと思います。感動して涙を流すことと、歴史的事実の前にひれ伏すことはイコールではない。高校生なら、そういうところも踏まえてほしい。




 以上が今年読んだ本の感想です。昨年も思ったのですが、中学生の部と高校生の部をどのような基準で選んでいるのか気になります。昨年『チャーシューの月』は高校生に読ませた方がいいと思いましたし、『歌え!多摩川高校合唱部』は逆に中学生でも十分感想文が書けると思いました。あと最近の傾向なのかダブル主人公や群像劇が多いと思うので、ひとりの主人公にしぼった作品をじっくり読ませるような図書があればいいなと思いました。