傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ユメ十夜」

 100年はもう来ていたんだな。

 

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【あらすじ】

 夏目漱石の「夢十夜」を11人の監督がそれぞれ映像化し、オムニバス形式で届ける作品。各話は夢なので特に話はない。

 

【感想】

 まず、シュール系短編が苦手な人は見ないほうがいいです。そもそもが夢でナンセンスな作品をさらにナンセンスに味付けしているので耐性がない人は「意味が分からない駄作!」という評をしがちになる作品だなーと思いました。実際、自分も一度見ただけではわからなくて感想書くために見直しをしたのは初めてです。元の作品から難解なので仕方がないですね。正直言って「くされサブカル」が見るものです。それでは一話から短めに感想を書いていきます。


≪第一夜 原作忠実度:低≫
 いきなりの実相寺昭雄です。女の子の心を掴むハートフル第一夜なんですが、漱石ではなく内田百閒が夢を見たことになっています。金魚が死んでしまった。出目金ではなくランチュウがいいという百閒。このあたりから死に対する匂いが強くなって行って、最終的に連れ合いは死んでしまう。サラサーテの曲と舞台をはみ出した映像で非日常観を出しています。もうワールド炸裂です。あと、まるで余談ですが、ゴマ豆腐が豆腐でないことを初めて知りました。


≪第二夜 原作忠実度:高≫
 監督は市川崑。おそらく一番高い再現度を誇る作品。モノクロのサイレントで緊張感を継続させ、脇差だけ真っ赤な配色にしてみせるのは映像美の一言に尽きる。何より、原作にないオチが美しい。そしてこういう映像だけで勝負できる作品がこれからも出てくるといいなと思いました。


≪第三夜 原作忠実度:高≫
 監督は清水崇というわかりやすさ。原作でも第三夜は不気味で恐ろしい話なのですが、清水監督の手にかかれば立派なJホラーになります。原作は普通の「六部殺し」だったのを現代風にアレンジしてあって興味深い作品です。あと堀部圭亮漱石役が意外とハマっていてよかった。


≪第四夜 原作忠実度:低≫
 監督は清水厚。原作そのものがぼんやりした話なので仕方がないと思うのですが、それにしても一番気に入らない。漱石が自分の子供のころの思い出の街をさまようというエピソードなんだけど、やるならもっとめっちゃくちゃにした方が面白いと思う。「夢だから」と思いつつ時代設定は一貫性がないし、「夢野」という看板は説明チックでチープだし、新聞記事の下りはいらないと思うし、何より「漱石くん」はないと思う。夢なんだから名前なんて出さないほうがユメっぽくていいと思うし、どうしても名前を呼ばせたかったら「夏目くん」か「金之助くん」にしたほうがよかった。「漱石」はペンネームだから、くん付けはよほど偉い人でしかあり得ない。子供が「漱石くん」っていうのはおかしい。その呼称も致命的だけど、一番の問題点は山本耕史がキレイすぎてまるで明治の文豪に見えないというところだな。ノスタルジーが、という評が散見されたけど滅茶苦茶な設定でそれどころではなかったというのが正直なところ。


≪第五夜 原作忠実度:低≫
 監督は豊島圭介。これも原作から相当かけ離れているけど、このくらいぶっ飛んでいるほうが好きだ。「夜が明けて、鶏が鳴くまで待つ」という印象的なキーワード。ベタベタした家庭から追い立てられるような主人公の女性。追いかけてくる天探女(あまのじゃく)。そして目が覚めてもそこにいる天探女を「これも私。いいでしょう」と言う。このオチで今までの理不尽な映像の連続が全て許せました。こういうの大好きだ! あと全体的にBGMも不安をかきたてるようで好きです。


≪第六夜 原作忠実度:高≫
 監督は松尾スズキ。おそらく一番わかりやすい作品。運慶が来たからと見物に行くところは変わらないのですが、「キター!」「詳細キボンヌ」など全て往年の2ちゃん語。2014年現在でほぼ死語になっているのが面白い。そして運慶は華麗にダンスする。とにかくテンポがよく、阿部サダヲがハイテンションにわーわー言っているのを見ているだけで面白い。そしてまさかのオチも面白い。


≪第七夜 原作忠実度:高≫
 監督は天野喜孝と河原真明の2名。ファイナルファンタジーの世界をそのまま持ってきたような幻想的なアニメーションで、全作品でもかなり好きな方です。原作ではただ「船」としかありませんが、地球のメタファーのような「船」や水夫たちが美しいです。サロンの中もごちゃごちゃとしていますがすべてが生きているように見えてより主人公の孤独が強まるようになっているのは「流石」と思いました。あと、最近FF10が終わったばかりなのでどうしても最後のシーンが究極召喚にしか見えませんでした。ライフストリームに帰っていくのよー。


≪第八夜 原作忠実度:なし≫
 監督は山下敦弘。もうどうしたらこうなるの、というナンセンスシュールの世界。考えてはいけない、感じなければいけない世界。原作はあってないようなものです。冒頭の訳ありな映像にチクワの少年。謎の巨大生物に謎の少女。もう謎しかない。でも漱石役の藤岡弘、がつぶやく「運慶はもうやったしなぁ……」はお気に入り。


≪第九夜 原作忠実度:高≫
 監督は西川美和。おそらく一番ストーリーがわかりやすい作品。戦争に行った夫の帰りをお百度参りをして待つ母と子。子は神社の柱に繋がれ、母は何度も何度も境内を行ったり来たりする。その間子供は社の中に父の姿を見る。ピエール瀧の自由なシーンはシリアスな場面にまるで合っていなくてかえっておかしい。まとめ方もきれいだと思いました。


≪第十夜 原作忠実度:高≫
 監督は山口雄大。そして脚色が漫☆画太郎で主役が松山ケンイチといういろんな意味で豪華な作品。これが一番最後に配置されているところだけでこの映画は面白いと思う。序盤は着流しの色男松山ケンイチが次第に本上まなみ安田大サーカスによってハチャメチャに壊されていくところはファンなら衝撃展開間違いない。でも松山ケンイチってただの色男よりこういう役の方が似合う気がする。最後に大笑いさせてもらいました。


 順番を付けるのも野暮ですが、お気に入りは第二夜、第三夜、第五夜です。特に第五夜が想定外の面白さだったので、びっくりしました。シュール系のオムニバスは見るのも解釈するのも頭を使うのであまり人には勧められませんが、頭に余裕があるときに是非ご覧になってください。ただし、事前に原作を読んでおいた方が絶対良いので青空文庫あたりで覗いておいてください。