傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「モンスターズ・ユニバーシティ」

 ピクサー版「大きいお友達」のための映画。

 

 

【あらすじ】

 モンスターの国のエネルギーは子供たちの悲鳴。悲鳴を集める「恐がらせ屋」は大人気の職業で、マイク・ワゾウスキも絶対「恐がらせ屋」になりたいと思っていた。努力の甲斐があって怖がらせ屋になるための大学「モンスターズユニバーシティ」に入学が決まり、意気揚々と勉学に励む。そこで出会ったのが名門の怖がらせ屋の一族であることを鼻にかけるサリバン。マイクは誰よりも努力をするのだが、彼は人一倍体が小さく、まず見た目が「恐くない」のであった。

 【感想】

 「どこでも○ア」をパクったと言われるモンスターズ・インクの続編と言うことで当初は「ふーん」ということだったのですが、地上波でやっていた冒頭予告で心を奪われました。


D

「じゃあみんな、相手を見つけて二人一組になってー」「一緒に組まない? いいよ、気にしないで」「クレアと組むの? 良い子だもんね」「登下校一緒じゃん。いとこだし……うん、また今度ね」


 何この「クラスに一人こういう奴いるよね」感! しかもそいつは「夢は信じていれば必ずかなう」と信じて疑わなくて、自分ができないことを絶対認めようとしない。そんな奴を軸に話が進んでいくなら、これは間違いなく大人向けの話になる。


 まず映像からピクサーピクサー感があふれ出てて、素晴らしい。前作もそうだけど、モンスターをひとつひとつ見ていくだけでキャラデザインから愛が見え隠れしている。特に学長のデザインはかっこよすぎる。学長のフィギュアとか欲しい。

 

 舞台がアメリカンな大学と言うことで、日本人には馴染みのない設定が多かったのが難点といえば難点。クラブハウスとか、権力闘争とか、学内コンテストとか、向こうでは盛んなイメージがあるけど、最近の日本の大学ではあんまりそういうのないからなぁ。文化の発信源の大学がただお勉強するだけの場所になってしまうのは、あまりにも残念。大学生の仕事は勉強をしながら友達の家で酒を飲みながら文学談義したりゲームしたり大学構内で奇抜なファッションを楽しんだり恋バナしたりすることだと思うのですが、違いますかね。

 

 さてこの作品最大のテーマは「仲間と力を合わせること」と思わせて実は「自分の中の虚栄心といかに向き合うか」というお子様には非常に難しいものになっています。マイクは誰よりも努力して志も高いけど、見た目が怖くない時点で怖がらせ屋になれない。サリーは名門の一家に生まれて才能もあるけど、自分と向き合うのが恐ろしくて努力ができない。学長はそんな二人を一度追い出すが、ウーズマ・カッパという新しいクラブチームで二人はお互いの良いところ悪いところに向き合い、最終的に劣等生のウーズマ・カッパが怖がらせ大会で優勝する。ここまでの大会の内容やチームメイトもユーモアあふれるものなのでここだけ見ていても楽しい。


 やっぱり仲間と一緒に努力すれば夢はかなうんだね、と思わせておいて、実は最後の決勝でサリーはマイクを勝たせるためにズルをしていたことが判明する。マイクの怖がらせ理論は完璧だった。怖がらせ方も完璧だった。ただ一つ、マイクは外見が全く怖くない。身体的特徴でどうにもならないことが存在する。努力が出来るようになったサリーはそんなマイクを見ていられなかったのだ。結局自白したサリーは処分を受けることになるが、マイクは親友に裏切られた気になって「俺一人でもナントカできる」と人間の世界に行ってしまう。この人間の世界がモンスターの世界と違って結構本気で怖いです。ピクサーの本気を見た気がする。

 

 「自分は怖くない」ことを実感してヤケになっているマイクと追いかけていったサリーが語り合う場面は秀逸。「君に俺の気持ちなんかわかるもんか!」といじけるマイクに対してサリーは「俺は怖がりだ」とマイクを最後まで信用できなかったことを告白する。なんとか人間の世界から脱出しようとするが既に扉は固く閉ざされていた。しかも寄宿舎の寝室に出ていたので警官がやってきた。マイクは一計を案じ、サリーと協力することで恐怖を倍増させ悲鳴を多く集め、無理矢理扉を開く。

 

 結局とんでもないことをしたので退学処分になった二人だけど、大学以外の道で怖がらせ屋になることが出来た、というスバラシイお話でした。この辺の伏線もいい感じに張られていて納得できるものでした。最後のストーリーのテーマに関する締めも大変すばらしい。「見た目は怖くない。だけど、怖いもの知らずだ」夢をかなえるためには、とにかく行動あるのみなのです。