傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「この子の七つのお祝いに」

 あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ

 このこよくみたらーあーあーあーあー(お人形)

あの頃映画 「この子の七つのお祝いに」 [DVD]

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【あらすじ】

 都内で若い女性が殺される事件があった。ルポライターの母田は有力政治家の秘書の内縁の妻で占い師の「青蛾」の秘密を追っているところだった。殺された女性は青蛾の秘密を知っている者であり、関連があるとして後輩記者の須藤と事件の真相を追う。調査の結果「青蛾」は「麻矢」という娘であり、彼女は自分と母を捨てた父親を残された手形を頼りに探しているらしい。母は麻矢に「父を恨みなさい。母の代わりに父に復讐をしなさい」と極貧の中毎晩言い聞かせ、麻矢が七つの元旦に手首と頸動脈を切って自殺してしまった。母田は愛し合っているバーのママゆき子に事件の内容を話す。ところが翌日、須藤は手首を切った母田の死体を発見し、事件の全容を暴く決意をする。

 

 【感想】

 岸田今日子が怖い。それしかない。

 冒頭、日本人形みたいな女の子(麻矢)が四畳半の古いアパートから半分顔を出して覗いているシーンで既におしっこもれそうですが、その後母親役の岸田今日子が帰ってきて部屋の中に本物の日本人形が五体いて、その前で岸田が女の子を抱っこしてアルバムを指さして「これはあなたのお父さん。ひどい人。他の女の人を好きになってお母さんとあなたを捨てた。恨みなさい。お母さんの代わりにお父さんを見つけて、復讐してね」父親の顔に針連打するシーンでもうおしっこ洩らせます。怖いです。怖すぎです。そのあと「とーりゃんせーとーりゃんせー」と夢に出てきそうなトラウマボイスで子守唄を歌う岸田今日子。怖いよアンタ怖いよ。下手なゾンビより怖いよ。

 既におしっこ漏れているのですが、畳み掛けるようにふなっしーもびっくりの「喉汁ぶしゃー!」な殺人事件。遺留品のケーキが全くおいしそうに見えません。せっかく岸田今日子のザ・恐怖ワールドから脱出できたというのに景気が全くよくありません。

 母田は須藤の行きつけのバー「往来」ママでゆき子役の岩下志麻に出会うんだけど、ちょいと出っぽいバーのママなのに「岩下志麻」とは、既に「犯人わかった!」状態になると思うんです。後は母田が真相に近づいて殺されるのを待つだけと言う別の意味でハラハラです。ちなみに母田役の杉浦直樹の持病のシャク演技もかなり気合入っています。「謎が謎を呼ぶ」とかではなく、この映画は「どれだけ演技で観客の度肝を抜くか」に命かけてるなぁと思うのです。それに関しては岩下志麻もかなりキてました。

 麻矢の足取りを追って会津から帰ってきた母田とゆき子のシーンが入ってしっとりゾーンになるのですが、この映画はそんな隙を見せません。「あなたって、あったかいミルクのような匂いがするわ」という謎の比喩を用いる岩下志麻が憎いです。気になって映画に集中できないよ。その後母田が殺害され、お墓の前でオンオン泣き崩れる岩下志麻。観客から「てめえが殺したんだろうよ」という総ツッコミが聞こえてきそうです。余談ですが、須藤が母田の遺体を発見するシーンでひとかけらでも「濡れ場直後のシーンを見せつけられる」という余計ややこしくなるシーンを期待した自分がバカでした。反省します。

 そして真相に迫る須藤。会津で麻矢の過去に触れ、偶然にもかんな棒という凶器を発見する。一方「青蛾」役の友人麗子も麻矢=ゆき子のところに父親らしき手形が持ち込まれたことを報告しに行くが、「お母さんの声が聞こえる」とイっちゃった岩下志麻にかんな棒でメッタ打ちにされる。このかんな棒、尖端は刃物のようになっていますがフックのような形状で刺したり突いたり切ったりすることができる万能武器です。こんなのこういう人に与えちゃダメだろ。そして多くの人の度肝を抜いた印象的なシーンが「これが麻矢ちゃんの写真。高校を卒業するちょっと前」と言って岩下志麻がセーラー服着てババーンっていうところ。どうして誰も止めなかったのか。誰かもっと何とか言ってやらなかったのか。せめてセーラー服じゃない服でもよかっただろうに、何故セーラー服だったんだと小一時間(略

 最終的に麻矢=ゆき子は生まれ育ったアパートに父親を呼び出す。一足先に父親を見つけ出していた須藤を伴って今までの経緯のネタばらしが始まる。

 結論から言うと、麻矢=ゆき子は真弓=岸田今日子の娘ではなく、復讐のためにさらわれた娘だということが判明。麻矢という女の子は実在したけど、ネズミにかまれて死亡(それもすごい設定)。その後精神を病んだ岸田今日子を抱えた父芦田伸介は戦争で生き別れになっていた元妻と再会。ますます病む岸田今日子。元妻との間にキエという女の子を授かり、手切れ金として大金を送るけど既に発狂していた岸田今日子にキエが誘拐されそのまま行方不明になり、その後悲しみで元妻も亡くなってしまう。全てを悲観した芦田伸介は一から人生をやり直し、現在に至るそうだ。

 この回想シーンの岸田今日子がまた怖い怖い。豆腐にぶちぶち針を刺してるシーンの破壊力は必見。人間の狂気だけでここまで背筋を寒くさせる人ってあんまりいないと思う。そして復讐を果たそうとして、全てを知った岩下志麻の最後の壊れっぷりは見ているこっちも一緒に魂持っていかれそうな気迫で、これもまた怖い怖い。結局「救いがないねぇ」というラストですが、とにかく役者の演技がすさまじくドラマがあんまり頭に入ってこなかったという印象。

総評:ぼくもうムーミンをじゅんすいなこころでみられない。