傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「塔の上のラプンツェル」

 今夜放送するらしいので、前に見たとき思ったことを書いておく。

 

 【あらすじ】

 塔の上に閉じ込められ育てられた少女ラプンツェルは外へ出たいと思っていた。彼女の髪には魔法の力があり、養母ゴーテルはこの魔法の力で若返り、命を保っていた。ある日強盗のフリン・ライダーが塔へ迷い込み、ラプンツェルに出会う。彼女は外へ連れて行ってほしいと願うのだが……。

 

 【感想】

 いやね、映像はキレイだしディズニー的な盛り上がりはいいんですよ。それは伝統芸として評価したいんだよ。でもさぁ、なんで「ラプンツェル」を題材に選んだのか、それだけは問い詰めたい。


~数分もかからないでわかる元のラプンツェルのあらすじ~
 むかし、あるところに夫婦がいた。この奥さんが妊娠して、隣の魔女の家の「ちしゃ(レタス)」が食べたいあまり、病気になってしまう。見かねた夫がこっそり魔女の家に盗みに入るがあっけなく見つかってしまう。「あんたがそれだけ言うなら、ちしゃは好きなだけ持っていくがいい。その代わり生まれた子供は私がもらうよ」魔女は生まれた娘を連れて行ってしまった。

 魔女は娘に「ラプンツェル(ちしゃ)」と名付け、高い塔の上に閉じ込め、誰にも会わせないようにした。塔の出入りはラプンツェルの長い髪を梯子代わりに使った。時が流れ、旅の王子が塔の上のラプンツェルを見つけるが彼女に近づくことができない。ある日、魔女が「ラプンツェルラプンツェル、お前の髪を垂らしておくれ」というのを聞いて夜更けにそれを実行。魔女以外の人を知らないラプンツェルは登ってきた王子にびっくり。それから二人は夜毎に逢うようになる。

 ところがある日「お洋服がきつくて着れないの」というラプンツェルの言葉で魔女は妊娠に気が付く。激怒した魔女はラプンツェルの髪を切り、荒野に追放する。その夜切り落とされた髪を登ってきた王子は絶望し、塔から身を投げる。おまけに失明した王子はそのまま当てもなく彷徨う。その後、王子は荒野で不憫に暮らすラプンツェル親子と再会する。ラプンツェルの涙を王子は浴び、再び視力が戻る。王子は国へラプンツェルと帰り幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

 どう聞いても夢も希望もないのですが。

 ちなみにさすがに妊娠云々は辛いので「どうしておばあさまは王子様より重いのかしら」という言葉に変更になっている版もあります。ところで赤ちゃんはどうなったのかしら。

 つまるところ、ラプンツェルは「レタスちゃん」なわけですよ。厳密にはレタスじゃないみたいですが、ほぼレタスちゃんなわけですよ。桃から生まれた桃太郎並のネーミングですよ。まずディズニー版はそこをごっそり変更して始まっているので別にラプンツェルちゃんじゃなくたっていいわけです。桃太郎が実は貴族の隠し子だったみたいな設定変更ですね。


 そして個人的に気に食わないのが、彼女を無理矢理お姫様にしてしまったところ。元の話ではお姫様どころか訳ありとはいえ一応盗人の娘です。ところがディズニー版では彼女がお姫様で、相手が強盗です。なんだ、そんなにお姫様が偉いのか!? 人種差別は忌み嫌うくせに権威主義は健在なんだな!? 高貴な血が流れていないと人は幸せになれないのか!? 自由の国で一番大事なのはまだ権力なのか!? とこの設定だけで恨みつらみが1時間くらい語れます。不幸な少女が王子様と結婚、という図式が好きだったので本当に残念。結局人はどう生きたかより、どこに生まれたかと言うほうが大事ということですかね。

 しかもディズニープリンセスって、途中から「ウーマン・リブ」を体現するようなギトギトのパワフルウーマンばっかりで辛いんですわ。「ムーラン」とか「魔法にかけられて」が最高潮かな。「主体性のないお姫様じゃなくて、自分で決めた道を歩く女の私かっこいい」みたいな、そんな感じ。そりゃー塔に閉じ込められて外に出たい、っていうのが格好の材料だっていうのはわかるけど、それにしてもあんまりだよ。みんながみんなオッスオラプリンセスみたいな体育会系が好きだと思ったら大間違いなんだよ、的な。

 映画の外見は置いておいて、中身の話ですがやっぱり外見がどうも気に食わないので全ての表現が鼻につきます。こういう典型的な「世間知らずのおてんば少女」ってどうやって生産されるのか謎ですね。同じ理由でリトル・マーメイドも結構苦手です。音楽や映像は好きなんだけどね、このウーマン・リブ思想を元にしたヒロイン像がどうしてもダメなんですよ。「そこまで深く考えてちゃ何も面白くない」と言われそうですが、浅い海で深海の様子を知ることが出来ないより、深く潜って絶望を味わいたい人なので仕方ないです。そんな女性自立が全面に出ているのに武器がフライパンなのは結構マイナスポイントです。

 魔法の髪云々の改変はつじつま合わせを頑張ったと思います。もうヒロインには期待できなかったのでゴーテルおばさんで楽しませてもらいました。悪役しか楽しみがないかと思ったら馬のマキシマスが想定外の働きをしてくれました。ディズニーは動物の動きがコミカルでいいですね。しかし馬と悪役を楽しみに見る映画とは一体。

 最後もある意味想定内の終わり方で、なんだか拍子抜けでした。できればそこはカリオストロオチを望んでいたのですが、やっぱりくっつくんだそうですか、最終的に女の幸せは結婚ですかそうですか、みたいな諦めがありました。あとエンディングの絵がよかったです。あの絵で本編を観たかったかも。

 総合的にアニメ化の意義から始まっているのでどうしても評価低いです。でも映像はやっぱりきれいだし、コミカルシーンは天下のディズニーです。マキシマスの頑張りとディズニーお決まりのシーンを堪能できればそれで十分です。