傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ローズマリーの赤ちゃん」

 年末ホラー祭りの第二弾は、もう定番中の定番で見ていないのが恥ずかしくなるようなそんなラインナップにしてみました。

 

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 【あらすじ】

 新婚のローズマリーと夫ガイはとあるアパートに引っ越してくる。ところが仲良くなれそうだった女の子は自殺するし、やたらと面倒くさそうなお隣さんはいるしでローズマリーの神経はピリピリ。俳優のガイもライバルの不幸な病気によりいい役をもらえ、「さっさと子供を作ろう」とローズマリーを誘うが彼女は急に気分が悪くなり、夢の中で悪魔に犯されてしまう。その後身ごもったことが判明し、怪しいお隣さんが何故か親身に医者まで用意してくれるが、ローズマリーの体調は普通のそれと違うようにも見えるのだった。

 

 【感想】

 まずローズマリー役の女優ミア・ファローがすごい。彼女だけで130分見てしまう勢いがあった。オープニングの新婚甘々カップルシーンから隣人が面倒くさい奥さんになり、妊娠(?)で辛い思いをして痩せていくシーンからラストの狂気まで「これが同一人物?」という豹変ぶりが楽しい。特にどんどんやつれていくシーンはヒステリックな不安定さも兼ね備えていてこちらまで不安になる素晴らしい仕掛け。終盤の「薬飲んだふり」のベッド脇の薬だらけとか、不安定になるなというほうが難しい。


 彼女の魅力については他のレビューできっとさんざん語り尽くされているだろうということで、その周りの人物にスポットを当ててみると、これまた不安になるしかないばかりの人物で「愉快な悪魔宗教団体御一行様」としか言いようがない。カスタベット夫妻は胡散臭さの見本市のような人物だし、その友人も産婦人科医も「どう見てもお前が犯人だろう」という怪しさ抜群のオーラを放っている。それなのにどうしてローズマリーは彼らを一度信じてしまったのか。ある意味洗脳映画としてみるとこれはこれで面白い。

 実はオチ以外に最も怖いところが夫ガイの清々しいまでの糞っぷりではないだろうか。「俳優は自己中心的だから」という台詞が実はこの物語の最大の伏線で、いくら自分が出世できるとはいえ愛する妻をそんな怪しいものに使ってしまう、というのはどうなんだろうか。「1人目の子供は死産だったと思って」とか、「お前自分の子供じゃないからって、よくそういうこと言えるなー」とある意味悪魔より非人間的なことを言えるこいつの神経が一番恐ろしい。おまわりさん犯人はこいつでした。でも冒頭引っ越しが決まってまだ何もない部屋で二人で絡まるシーンで見せるズボンの脱ぎ方は好きだ。

 カスタベット夫妻の気持ち悪さも、この映画のベクトルとずれたところで怖い所がある。隣人のために(実は目的があってのことだけれど)なにやら気持ち悪いチョコレートムースや栄養剤を作ったり、善意だからこそ断れないけど気味が悪いというのはよくある話だ。手作りのものなんて基本誰かにあげてもその場で食べなきゃ後で捨てられるくらいの覚悟でいないと、後で真相を聞いてぶっ倒れてしまうかもしれない。そういう危うい関係も何となく見ものである。そもそも行き倒れていた女の子を助けたのも目的はあるっちゃあったわけだけれども、あれもあくまで「善意」だし、「善意の押し売り」には悪魔だってかなわないのです。おそろしやおそろしや。

 とにかく見どころがたくさんありすぎて、全ての仕掛けが一気に発動したラストが清々しいのも良いポイントだった。不安にさせてさせてさせておいて、ラストで「やっぱりそうだったのかー!」というカタルシスもいい感じ。それに結局「私の赤ちゃん!私の赤ちゃん!」となるところもいいですね。ある意味ホロリときました(それでもこの後きちんと育てるかどうかはさっぱりわかりませんが)。

 やっぱり古典的名作は素晴らしいです。こういう丁寧な作りの映画は貴重なので今後も語り継いでいかないといけないですね。