傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ES」

全員、別に普通の人。

 

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【あらすじ】

ある心理学の実験が行われる。被験者として潜り込んだ記者の はメガネに仕込んだカメラで極秘の実験の様子を記録する。実験は健康な成人男性を囚人役と看守役に分けて模擬刑務所を運営するというものだが、被験者たちはロールプレイにのめり込んでいく。


【感想】

悪名高い「スタンフォード監獄実験」を映画化したものです。見る前から「人間の狂気怖いよ」と散々レビューを見ていたのですが、確かにこれは怖いですね。狂気映画見慣れてない人には十分恐怖だと思います。でも予定調和の狂気なので狂気映画慣れしてる人なら普通に見れるヤツですね。


いわゆる「人間が怖い系」の映画でよく紹介されている本作ですが、その評判に違わずガチで「人間が怖い」をやりきった感じがします。途中までは正体がバレないか冷や冷やするスパイもののようなスリルもありますが、ヤバくなってからはスリルも何もあったもんじゃなく、「あ、これヤバい奴」ってなる。


つーか、元凶の博士がもう「だいたいこいつがわるい」すぎてひどい。なんで危険な実験中に研究会とかに出ちゃうんだよ。迂闊かよ。この人がいなくなったことがこの実験の結末に1番関わっていると思う。おまわりさん、こいつがほぼ悪いです。


でも一番面白いなと思ったのは、一番ヤバい奴になったのは実験前は「真面目が取り柄君」みたいな人だったということ。真面目って諸刃の刃で、しっかり物事に取り組める反面融通が聞かないと途端にアカンことになる。個人的に戦前のファシズムってみんながみんな最初から極悪人だったわけじゃなくて、この実験みたいに最初は使命を帯びて頑張っている人だったんだと思う。方向性が爆発して変なことになっちゃったけど、大体は皆「国のために」と純粋な気持ちだったんだろうなぁと。


そう考えると彼らを「ヤバい奴」にしておくのはやっぱり危険だと思う。誰でも「ヤバい奴」になる下地はあって、条件が発動するとみんな「ヤバい奴」になる。小さなところでは山岳ベース事件みたいなことが起こり、広がるとユダヤ人とか赤狩りみたいな世界各地で繰り広げられたジェノサイドに繋がる。「ジェノサイドやる連中と俺たちは違う、あいつら極悪人」は逆に危険だと思う。どうして彼らがジェノサイドしちゃったかを検証するのが歴史の在るべき姿なんだと思う。


そんなことを言うとまた怒られそうだけど、怒っている人は既に「監獄実験」で看守側になってるのかもしれない。もしかしたらインターネットは広大な監獄で、看守だと思い込んでいる人が囚人だと思っている人を叩きあっているのかもしれない。そこでプリズンブレイクですよ。おしまい。