傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「パンズ・ラビリンス」

異形最高!

 


【あらすじ】

スペインの内戦時。夢見がちなオフェリアは身重の母と一緒に義理の父のヴィダル大尉に引き取られる。ゲリラの掃討に冷酷な指示を下す大尉の元、オフェリアは孤独な日々を過ごす。ある日オフェリアの元に妖精が現れ、導かれて向かった先にいたのは森の守護神パンだった。パンはオフェリアが昔亡くなった地下の国の王女の生まれ変わりだとして王女として蘇るために3つの試練を受けさせる。


【感想】

異形はよし!
あとは、うーん。


異形監督として名前のあがるギレルモ監督初挑戦です。いやあ異形最高だね! なんだろあの明らかにヤベぇ造形の奴は。心踊る異形だねアレは。


とはいえ、例の異形がばぁーのシーン以外は結構イライラする感じでした。多分イライラする理由は「オフェリアの内面がイマイチ見えてこない」からなんだろうと思う。ヴィダル大尉の冷酷な面は結構クローズアップされるんだけど、それに怯えるオフェリアのシーンはなんだか少ない。だからオフェリアが何を考えているのかよくわからず流されてしまっているのでなんだかよくわからない。「ここから逃げ出したい」と強く望んで試練を受けているわけでもないし、試練を拒むようなところもない。悪く言えば非常に子供らしくて魅力がない。


最大のダメな点は第二の試練で禁じられていた食べ物を食べてしまったところだろうな。あそこで我慢できなかった理由が観客にはわからないので、子供のワガママにしか見えない。異形さんを活躍させるためなんだろうけど、それなら少し理由が欲しかったなー。それか食べ物以外の理由にするとか(音を立ててはいけないとか)。


そんでヴィダル大尉VSレジスタンスが個人的にダルかった。薄幸の美少女を見に来たのにオッサンがヒャッハーばっかりしてたら、まぁ疲れるよね。うさぎ狩りの農民はヴィダル大尉のキャラ付けで殺されてて可哀想でした。レジスタンス側のドラマがちょっと多かった印象。その分もう少しオフェリアに構って欲しかった。


で、この過酷な現実に対して少女が妄想する作品っていうとギリアム監督の『ローズ・イン・タイドランド』なんですけど、それと似ているようで今作は結構違うところがある。

 

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ローズ・イン・タイドランドの方は全てが最初からおかしいし、最後までどこまで行っても「正常」と呼べるようなシーンはない。でもこのパンズ・ラビリンスは時代の流れとしては狂っていたとしても出てくる人間自体が狂っている訳では無い。ヴィダル大尉も体制側というだけで特別変な人ではないし、レジスタンスも母親も普通の人間だ。オフェリアだけが現実に絶望している。でも彼女が何に絶望しているのかよくわからない。


何となくだけど、オフェリアが一番嫌だったのは母親の再婚なんじゃなかったのかな。内乱とか父親の死とか突然の田舎暮らしとかそういうのより、「母親が父親以外の男の子を身篭った」ということに耐えられなかったんじゃないだろうか。父親以外の男にも嫌悪感があったし、母親を心配しているようで結構突き放しているようなところも見られる。


賛否両論のラストは、個人的に「オフェリアの妄想」派。というか、最初から全てオフィリアの妄想派。レジスタンス側が救われた分、オフェリアに救いがない方がこの話はとっても面白いと思う。なんか不発でした。おしまい。