傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ニュー・シネマ・パラダイス」

 そこにあったのはモノクロの郷愁。

 

 

【あらすじ】

 映画監督サルヴァトーレの元に故郷の母から「アルフレードが死んだ」という連絡が入る。少年時代トトと呼ばれていたサルヴァトーレはアルフレードのことを思い出していく。イタリアの田舎町で育った彼が魅了されたのは村でひとつの映画館で、そこで映写技師をしていたのがアルフレードだった。戦争で父を亡くしたトトにとって、アルフレードはよき友人であり父親のような存在だった。

 

 【感想】

 名作名作言うからどれどれと観たら本当に名作だった。

 

 一言でいうとそんなところだけど、やっぱりこれは映画が好きな人なら一回は見ておきたい映画だと思った。画面の美しさ、イタリアに住んでいたわけではないのに郷愁を誘う場面、子供の視点から描く多様な大人の姿。そして大人になって狭い田舎町を飛び出す青年の姿に年齢を超えた友情。その場面ひとつひとつがキラキラしていて、ひとつも飽きないのです。

 

 基本的に「映画館の思い出」で話は進んでいきますが、トトとアルフレードの関係がどんどん親密になって、友情を超えた愛情のような絆が見えるところがこの映画の最大の魅力だと思います。父子もの万歳の自分としてはこの二人がアクシデントを乗り越えても繋がり続けたところが本当に最高だなぁと。そして父子ものとして最高な「俺を超えて見ろ」っていうシーンが最高。「もうこの町には戻ってくるな」というのはアルフレードの優しい親心しか感じ取れなくてここだけで少し泣けました。だけどこの映画はエンディングまで泣くんじゃないの映画だ。

 

 恋愛が成就しなかったトトは失意のままこの街を去り、アルフレードの言うとおり立派な人物になりました。そしてアルフレードの葬儀のために帰郷すると、変わり果てた故郷の姿がありました。かつての映画館はすっかり朽ち果て、知り合いは皆年をとっていました。この辺の「あー昔は栄えていたのに、今は、今は……」っていうところ、おそらく誰でも大人になるという経験をしていればわかることだと思うのです。この辺の感覚は万国共通なんだろうと思います。

 

 そんな中アルフレードの葬儀が終わり、彼の妻から一本のフィルムを渡されます。ローマに帰ったかつてのトトはその古いフィルムを何とか再生します。そのフィルムに何が映っていたのかはこの映画を語る上で非常に重要なことなので未見の方は是非映画を観て確認してほしいし、既に映画を見た人は「あーあれはよかった!」となるのでここでは書きません。

 

 とにかくこの映画の一番のポイントは「ラストがきれいすぎる」というところでしょう。個人的に「ラストが好きな映画」のかなり上位にランクインします。映画の冒頭とラストをつなげる展開も好きだし、アルフレードのフィルムに込めたメッセージが何重にも現在のサルヴァトーレにのしかかってきて、彼と一緒に映画館で涙を流すしかないのです。

 

 実は今回完全版で鑑賞したのですが、どうやら公開版との違いは青年期のエピソードと帰ってきてからの元恋人との再会エピソードの追加のようですね。個人的にここはちょっとダルいなぁとか思っていたのですが、これを踏まえると最後のアルフレードのフィルムがまた違った意味になってくるのかなぁと思います。父子ものサイコーな自分からすればストレートな意味でも大泣きできるけど。

 

 やっぱり完全版は長いので未見の方はとりあえず劇場版でよいのではないかと思います。劇場版だって十分ラストの輝きはあります。ああ僕はどうして大人になるんだろう。