傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「キングスマン ゴールデン・サークル」

 秒でアガるわこれは。

 

 


映画「キングスマン:ゴールデン・サークル」予告30秒

 

【あらすじ】

 独立諜報機関キングスマン』のエージェント・エグジーはある日かつての候補生チャーリーに襲われる。謎の義手をつけて攻撃してくるチャーリーの裏に何らかの組織があることを察し、調査をしようとしたところ相手に先手を打たれキングスマンは壊滅寸前にまで追い詰められてしまう。窮地に追いやられたエグジーとマーリンはアメリカへ渡り、「ゴールデンサークル」という麻薬組織と対決することになる。

 

【感想(ネタバレなし)】

 すごく久しぶりな映画感想になってしまいましたあけましておめでとうございます。前作を飛行機の中で見て大興奮して、そして2が出るぞということで今か今かと楽しみにしていた今作。いろいろあって賛否両論になっているみたいですが、前作と同様基本的に「頭の悪い勢い萌えアクション映画」という路線は全く崩れていません。そんなわけで前作をかなり気に入っている人は是非見に行くべきです。

 

 そして気になっている人は前作を鑑賞してから今作を観ることを強くオススメします。この映画は純粋な続編になっているので、前作のことを知らなくてもまぁ観れないことはないですが、前作ネタがあちこちにちりばめられているので無印の方で予習したほうがいいと思います。

 

 日本でのキャッチフレーズ「秒でアガる」は偽りでも比喩でもなんでもなく、本当に導入が「秒でアガる」としか表現できない。このインパクトある導入はなかなかないので、ここだけでも評価できると思うのです。簡単に言えば初っ端からアクションギンギンフルスロットルなのでテンション爆アゲのまま本編に入っていけるのでそこはとてもよいと思いました。

 

 ただ真面目に観ていると前作同様「いやいやいや」と突っ込みたくなるシーンもたくさんあります。そこは前作と同じく「これはこういうものだから」と思った方がいいでしょうね。

 

  以下、ネタバレありまくりで書いていきますので鑑賞予定のある方や気持ち悪い描写が苦手な方はお帰りください。

 

 

 

 

【感想(深刻なネタバレあり)】

 鑑賞後はテンション爆アガりで言語化ができないほどふんがふんがしていたのですが、しばらく経ってやっと言語化できそうなので書いていきますが、勢いは多分鑑賞当時のふんがふんが状態のままです。

 

  まず導入のアクション。いきなり本作独特のド派手なアクションに加えてクルマでロンドンの街中を走り回ると言うシチュエーションに激萌えでありました。個人的に皇居前辺りでああいうのが出来たらいいなぁとか思ったのでイギリスのファンはいいなぁとか思いました。

 

 前作のひよっこエグジーからたくましくなったエージェントガラハットに満足していると、前作の悪友たちに加えてJB、そしてまさかの王女と結婚フラグが立っていたのに観客はびっくり仰天。その後、今回の「えええ」というシーンその1。序盤でマーリン以外キングスマン壊滅。まさかの展開にびっくり。観客のテンションを落とすどころかガンガンに揺さぶってきています。揺さぶられっこです。

 

 この映画の主役はもちろんエグジーとハリーですが、今回の裏主人公は紛れもなくマーリンだと思うのですよ。エグジーにとってハリーがキングスマンのお父さんでしたが、ハリー亡き後はマーリンが彼を見守っていたと思うのです。それは序盤のアクションサポートからもわかる通りです。個人的にキングスマンが好きなのはスパイガジェットがかっこいいとかスーツ眼鏡かっこいいとか不謹慎ギャグ笑えるとかそういうのに加えてこの映画が「父子モノ」として悪くないってところがあります。今作は前作以上にパパ息子成分が満載で個人的にとっても嬉しかったです。完全に個人の趣味です。

 

 で、ステイツマン本部にエグジーとマーリンが乗り込んでいくわけなのですが、イギリスがかっちりテイラーに英国紳士ならアメリカは酒造業でアメリカンカウボーイなわけですよ。どちらも「極端な国の擬人化」という感じでしょうか。ステイツマンのスピンオフも計画されているようで、こちらもとても楽しみです。

 

 さて、この辺でようやく今回の悪役の正体が見えてきました。「ゴールデンサークル」は麻薬組織で、キングスマンをつぶそうとしているようです。そんで親玉のポピーは基本的に人を信用せず、文明社会から離れた場所で機械や信用できる一部の部下と共に暮らしていると言う「いかにもー」な人物像です。そしてエルトン・ジョンが本人出演しているの本当に笑えた。ちょっとカメオ出演とかそういうレベルではなく、かなり重要な役回りで出てくるところが非常によかったです。特に後半のエルトン・ジョンはいろいろぶっちぎっていてかなり笑える展開になっていました。

 

 そんで今回の「えええ」というシーンその2はポピーのおしおき方法で、映画を見た人なら「ああ……」となるあのシーンです。いやね、グロいとかそういうのじゃなくて、「いや、頭部からミンチ製造機にあそこまで叩き込んだら骨とか毛髪とか服の破片とか未消化物とかやばない?あんなきれいなミンチ出て来ぃへんで」って人と違うだろうことを思ってしまいまして。だけど前作の「頭ボーン」が威風堂々だった件と一緒だろうなぁと思うことで納得しました。ヘンなリアルよりファンタジーで済ませたいところなんだろうなあと(こんなファンタジーもイヤだけど)。

 

 そんで今回の「えええ」というシーンその3というかこの映画全体での一番のツッコミどころは「頭部を撃ち抜かれたハリーは生きていた」だろうなぁと思うのです。そのからくりが「頭部を撃ち抜かれた直後にステイツマンの『頭部を撃たれても大丈夫マシン』で救護を受けたから」というトンデモな感じがまた何とも言えません。しかしこの『頭部を撃ち抜かれても大丈夫マシン』、後々ちゃんとストーリーに絡んでくるあたりいい加減なようですごく練られた脚本なんだということを感じます。

 

 そうこうしている間に敵の悪巧みが進行します。今回は「麻薬を使う奴皆殺し」ということで解毒剤が欲しければ大金を払えみたいな展開になります。だけど米国大統領は「なんだこれでジャンキーが一掃できるぞ」と金を払うふりをして無視することを決めます。毒が回ってきて苦しむ人々が収容される野外病院がまた何とも言えないディストピア感があってすごくよかったです。ちらっとしか映ってなかったけど、明らかに死んでる人いたよなぁ。

 

 いろいろあって記憶を失って頭がお花畑だったハリーも元に戻って、「さあゴールデンサークルをぶっ潰すぞ」となったけれどまだ本調子にもどらないハリーは標的をはずしまくるはずしまくる。「まだ体がついていかないだけ」と言われていたけれど、隻眼に慣れていないんだろうなと思ったな。ウィスキーが裏切っているのでは、というのは実はこの辺のシーンでこの手の映画に慣れている人なら察することができるけど、ハリーはどうして気が付いたんだろう。

 

 そんで「キングスマンの3人で乗り込むんじゃ!」とばかりにカンボジアのポピーのアジトへ乗り込むダブルガラハット&マーリン。ここからの展開が非常に胸アツで、もうスクリーンに釘づけになってしまいました。

 

 何よりマーリンです。エグジーの失敗を庇うように地雷に足を乗せ、敵の注意をひきつけるように歌うのが「カントリーロード」です。もともとアメリカの田舎へ行くという意味で使われているのかと思ったのですが、これはマーリンの別れの歌でした。「ふるさとへ帰りたい」と歌いながら散っていく彼の姿は涙なしでは見ることが出来ない名シーンです。実際映画館出た後も「アクションすげーすげー」という気持ちと一緒に「マーリン……マーリン……カントリーロード……」というせつない気分がぶわーとあって、もうそれでこれだけグダグダな心境になってしまったわけです。ああマーリン……。

 

 後から気付いたのですが英語のカントリーロードだと純粋に「美しい故郷の景色、カントリーロードよ、私を故郷へ連れて行っておくれ」という内容なのですが意訳が過ぎることで評判の邦訳では「故郷へは帰りたいけどまだ私は帰れない、さよならカントリーロード」という内容です。英語版でももちろんマーリンの心境ぴったりなのですが邦訳版で考えると相当悲しい……「カントリーロード 明日はいつもの僕さ 帰りたい 帰れない さよなら カントリーロード」だからね。果たしてマーリンにとっての「故郷」はどこだったんでしょう。破壊されたキングスマンの基地か、生まれ育ったロンドンか。個人的には「かつてのキングスマンであったハリーとエグジーの亡父という出発点」のような気がします。

 

 そんな「なんとおおおおお!」と観客の心をガンガンに揺さぶっておいて敵のアジトに突入するWガラハット。雑魚をバッタバッタとやっつけるのも爽快だし、エグジーVSチャーリーにハリーVSロボット犬もなかなかよかったです。唐突にやってくるエルトン・ジョンとかそれまでの伏線を生かしたやっつけ方とか、「この映画を最初から観ていてよかったな」と思うようなところが盛りだくさんでそういう意味でも最高です。

 

 さて、ポピーをやっつけたと思ったらラストバトル開始なわけですが、ここのバトルが本当にすごい。「え、もう一戦やるの!?」と観客の心も踊ります。もうこのシーンは言語化が難しい。「すごい」「すごい」「うわぁ」「最高」という感じ。考えるな、感じろという映像。こういう映像大好き。そんでオチも好き。かなりブラックだから見る人が見たら気持ち悪いとは思うかもしれないけど。

 

 そんなわけで「めでたしめでたし」な最後もよかったです。「キングスマン本部全滅してんじゃん!」とか思うんだけど、ハリーも頭パーンされて生きていたし、ロキシーあたりは続編で「実は生きてました」が十分できそうだなぁとは思ってます。「とりあえず明らかに無傷のエグジーとマーリンに任せて死んだことにしておこう」ってみんな地下に引きこもっていた可能性もある。続編にも期待しよう。

 

 できれば映画館で2周目したいくらい映像の暴力が半端ない系の映画です。ここまでこの感想を読んだ方なら「あーもう一回見たい気持ちはわかるわかる」と言ってくれると思います。もう一回見たい。円盤もできれば欲しい。超面白かった。以上です。