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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「マジカル・ガール」

 女の子は魔法の扉を開いて恋が始まるの 

 

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【あらすじ】

 アリシア白血病のため13歳まで生きられない。失業中の父ルイスはアリシアの好きな「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着せてあげたいが、特別なドレスのため7千ユーロの大金が必要になる。金策に回るルイスが出会ったのは夫に逃げられたばかりバルバラだった。ルイスはバルバラに求められるあまり一夜を共にする。後にバルバラは復縁するが、ルイスはバルバラに「不倫をばらされたくなければ7千ユーロを用意しろ」と言う。当然夫にも言えないバルバラは自力で7千ユーロを稼ぐことにする。

 

 【感想】

 冒頭文がマジカルヒロインなのはわかってやってます。言わずと知れた「魔法少女は悲劇しか生まない」系の映画です。超見たかったのをやっと見ることが出来ました。そして評判通り面白くて大満足です。

 

 まず、この映画にはいくつか視点が存在します。アリシアをめぐる物語と、バルバラをめぐる物語。この二つの物語が絡み合うことで悲しい結末が待っているわけです。魔法少女に憧れた余命少ない少女と、先行きも何もない女性。それぞれが願いを叶えてくれる存在を持つことでいろいろ不都合が起こるのがこの映画の本筋です。

 

 アリシアの余命が少ないことを知ってルイスはアリシアに様々なことをさせてあげたいと思う。だけど、彼女が望む「魔法少女ユキコ」の衣装はとても高価で、失業中のルイスには手の出せるものではない。パズルのピースを拾った宝石店の前で思い切って強盗でもしようかと思ったところ、頭上からゲロが降ってくる。それはメンがヘラすぎて夫に出て行かれた人妻バルバラのものだった。それからいろいろあってメンがヘラってるバルバラに言い寄られるままにルイスはバルバラを抱いてしまう。個人的にゲロをぶっかけられたらもう少し怒ってもいいだろうと思ってしまうのだけれど。

 

 この辺のバルバラのメンのヘラり具合がもうすごく怖い。狂人と言うと「キー」と叫びながらなんか喚いている人と言うイメージがありそうだけど、本当の狂人はもっと普通な感じでその辺にいるに違いない。「赤ちゃんを窓から落としたら楽しそう」って一人でギャーギャー笑っている。そりゃいくら精神科の旦那だって愛想を尽かす。

 

 そういう感じでルイスは魔法少女コスチューム代として7千ユーロを脅し取ろうとします。旦那には絶対言えないバルバラは昔の友人に頼んで「一日で7千ユーロ稼げる仕事」を紹介してもらいます。その7千ユーロでコスチュームを買ったルイスは満足。だけど、アリシアは「これだけ?」という顔。

 

 ルイスはバルバラから今度は2万ユーロを脅し取ろうとします。魔法少女のステッキ代として。結局バルバラは「1日に2万ユーロ稼げる仕事」として黒蜥蜴の部屋へ入り、全身にひどい怪我をします。

 

 この映画の特徴として、徹底的に「バルバラが何をさせられたのか」ということを伏せています。もちろん「そのようなこと」というニュアンスは感じるのですが、具体的な描写は一切ありません。ただバルバラが入院を余儀なくされるほどひどい怪我を負っているということしかわかりません。一体何をしていたというのだろう? 拷問フェチの拷問大会? そのくらいしか思い浮かばない。

 

 そして傷ついたバルバラを助けた彼女の元教師ダミアンは何故か服役していた過去があり、それもバルバラのためだったとのこと。そんなバルバラが大変なことになっているのではさあ大変。バルバラはとぎれとぎれにルイスのことを話します。ルイスがバルバラに暴行をしたと思ったダミアンはルイスを粛清する決意を固めます。そこでビシッとスーツに変身します。魔法少女ではなく都合のいいオッサンの変身シーンがちょっと面白かったです。

 

 ステッキをアリシアに与えたルイスは行きつけのバーでダミアンに会い、「脅迫はしたけどそれは彼女が誘ってきたからで、暴行については知らない」と正直に話します。その話にブチ切れたダミアンはルイスを射殺。見ていた店の店員と客Aも射殺。関係ない人がかわいそうだ。

 

 それからダミアンは脅迫に使われている携帯電話を回収するためにルイスの自宅へ行く。すると魔法少女に変身したアリシアがダミアンをじっと睨みつけていた。「そんな目をするな」と言いながらダミアンはアリシアも射殺。携帯電話を回収してそれをバルバラに渡しに行く……と、そんなお話でした。

 

 どこかの白い生き物が「希望の対価は絶望」なんて言っていたような気がするけど、本当にそんなお話でした。何かを叶えようとするとそれなりの対価が必要だということです。アリシア魔法少女になることを望み、その代償に優しい父親を失いました。ルイスはアリシアの望みを叶えることを望み、その代償に命を失いました。更にバルバラは一夜の過ちの償いを求め、その代償に永遠に消えない傷を負いました。そしてダミアンはバルバラの望みを叶えることを望み、その代償に再び罪を犯すことになりました。どこかのさやかちゃんみたいにルイスも「あたしって、ほんとバカ」と死んでいったのかもしれません。

 

 アリシアはコスチュームを身につけることで最終的に魔法少女になることはできましたが、現実には魔法はありません。いくら姿を変えても、都合のいいオッサンの拳銃には勝てません。虚構の世界で最強になった彼女と、現実のオッサンの対比のシーンがとにかく残酷で、映画のクライマックスとしてとても感動しました。

 

 ただ、日本に住んでいるので思うことなんだろうけれども「似たようなドレスやステッキを作ってもらうことは出来なかったのだろうか……」とモヤモヤしてしまうのです。スペインにはそういう関係の人はいなかったのかな。あとは「病気の娘のために」とかクラウドファンディングしたらfacebookとかで拡散されて結構すぐに集まりそうなんだけど、今回はそういうお話ではないので仕方ないですね。結局残酷なのは映画の作り手と観客なんですよ。おしまいです。