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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ブリキの太鼓」

 とってもとっても難解な映画。

 

ブリキの太鼓 [DVD]

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【あらすじ】

 第一次世界大戦が終わったばかりのポーランド。生まれた頃から大人ほどの知能を持って生まれたオスカルは、母親が「3歳の誕生日になったらブリキの太鼓を買ってあげる」と言うのを頼りに生きてきた。そして3歳の誕生日に大人たちの醜態を見て大人になることに絶望し、自身で成長を3歳で止めてしまう。次第にナチスの色が濃くなる街で、オスカルは子供の心のまま暮らしていく。

 

【感想】

 ずっと見たい映画だったのですが、いざ見てみるとかなり難解で予想以上に頭にはてなマークが多く並びました。これはつまらないということではなく、映画の解釈がとても難しいと言うことです。なんらかのメタファーと思われる表現が続き、あんまりすっきりしないままなんとなく終わる。多分普通に見るだけならつまらないと思う人もかなり多いのではないだろうか。

 

 とは言ってもダーフィト・ベンネントの「気味の悪い子供」の演技は最高だし、ストーリーがよくわからないままシーンがボンボンと流れていくのはある意味観客にわざと優しくしていないようでこの映画がそんな映画であることを暗示させていて面白い。

 

 この映画が一貫して描いていたのは「気味の悪い子供」であり、そんな冷めた子供の目から見た「醜悪な世界」であった。祖母がスカートに祖父をかくまったことから母が誕生し、母は結婚しているのに従兄弟と昼間から密会をする関係。酒に酔って猥雑な遊びをする大人たちに嫌気がさしたオスカルは、地下室で落下した体を装って成長を止めてしまう。いつまでも子供のままでいたいオスカルは、ところ構わずブリキの太鼓をたたいて回り、気に入らないことがあると声でガラスを割って大人を脅す。

 

 ところがオスカルは子供のままでいるのが良いと思っていても、いつまでも太鼓をたたいているような子供は次第に相手にされなくなっていく。最初のうちこそ心配してくれた母もオスカルのことで悩み、腐敗した馬の頭を見てショックを受けたりついに従兄弟との子供が出来たりして発狂した挙句に亡くなる。もしかしたら本当の父だったかもしれない母の従兄弟も、ナチスの侵攻に巻き込まれて戦死する。彼らの死後、住み込みと言う形でやってきたマリアという女性にオスカルは惹かれるが、マリアはオスカルを同じ年齢であるにも関わらず幼児としてしか扱わない。やがてマリアに子供が出来、家庭にオスカルは居場所をなくしてしまう。そしてかつて出会った小人の曲芸集団に加わってナチスの慰問団として戦場を回ることになる。

 

 オスカルは曲芸集団のロスヴィータと出会い、オスカルは一人の人間として扱われる日々を送る。やがて爆撃によりロスヴィータを亡くしたオスカルは家に帰る決心をする。オスカルが家に戻ってもやはり彼の居場所はなく、敗戦が濃厚になったある日父もソ連兵に殺される。もはや誰もオスカルを守ってくれることはない。父の墓にオスカルは太鼓を投げ入れ、大人になる決心をする。

 

 実は父も母の従兄弟もオスカルが無邪気に接した余り亡くなっている。スクリーンの前の観客が「わざとではないのか」と思うほど、彼は無邪気すぎた。身体が子供のまま、自我だけが肥大化してアンバランスな精神状態になっていることに気が付いていないのがオスカル自身だけだった。彼が太鼓に固執することなく大人の振る舞いをしていれば、こんなことにはならなかった。そもそも大人を憎まなければ、彼は太鼓に固執しなかった。この映画に出てくる登場人物はほぼ全員が足元を見ないままあさっての方向へすれ違っている。オスカルの母に想いを寄せていたおもちゃ屋のユダヤ人も、オスカルの父も、ナチスの党員たちに至っては足元に潜んでいたオスカルを見つけることができなかった。

 

 障碍者のメタファーとか幼い子供の性的な描写とか、雨が降って党員たちが解散するシーンや空襲によってオスカルとロスヴィータが劇場の隅へ隠れるシーンなど幾度か似たようなシーンが繰り返されているなど「何かを暗示している」ようなシーンはたくさんある。多分あと5回くらい見れば何かがわかるのかもしれないけど、多分そんなにたくさんリピートできるほど楽しい映画でもない。そういうクラクラしそうな映画でした。おしまい。