傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ミスト」

 漂流スーパーマーケット。

 ※作品の構成上ネタバレが厳禁と思われるので鑑賞予定のある方は閲覧しないことをオススメします。

 

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【あらすじ】

 アメリカの片田舎で、ひどい暴風が吹き荒れた。家屋も多く被害を受けた中、ディビットは妻を置いて息子のビリーと買い出しに出かける。スーパーは被害を受けた人々が買い出しをしてごった返していた。突如不可思議な霧が街を襲い、人々はスーパーに閉じ込められる。霧から逃げてきた男性は「霧の中に化け物がいて、襲われた」と言う。住民たちは半信半疑の中、救援を待ちつつ消耗していく。

 

 【感想】

 評判通りひどいラストだな!(褒め言葉)

 

 後味が悪いことで評判な『ミスト』を見たのですが、途中の息子の伏線になる台詞で「もしや……」と嫌な思いを抱いたら割とドンピシャでした。「〇〇しないでね」の先にあるのは「〇〇でなければ何でもいい」なんですよね。くわばらくわばら。

 

 それにしても虫虫虫の虫パレードですね。こんなに虫虫している映画だとは思いませんでした。虫は嫌いなので終盤の薬局のシーンは本当に無理でした。ああいうの本当に苦手。ゾワゾワする。

 

 で、唐突なラストばかりに目が行きがちなのですがこの映画、全体的にはパニックムービーとして面白いです。虫と戦うためにスーパーマーケットで何が使えるかとか、どうすれば生きのびられるかとか、そういう話です。サバイバルスーパーマーケットです。ゾンビと戦うためにデパートに立てこもるみたいな、アレです。

 

 ただこの映画、普通の「一致団結して虫をやっつけよう」というものではなく、中にカルトなおばさんが紛れていることが非常に恐ろしいです。「黙示録の世界がやってきた」「生贄を捧げればよい」「私の言うとおりにすれば怖いものはない」なんて、非常時における煽動の怖さもインパクトがあります。

 

 この「非常時の煽動」の怖さは、東日本大震災で日本人ならよくわかってると思います。特に「放射能」という目に見えない何かと戦っていたあの頃と、この映画の「霧」の向こうに恐怖する様が結構似ているなぁと思いました。実際あの空間に数日閉じ込められた経験から言うと、カルトおばちゃんが煽動するのは映画の中ですが非常にリアリティのある現象でした。誰のせいでもない事態でも「コイツが悪い」という犯人探しが行われ「私たちは悪くない」と思ってしまう、そんな集団心理が非常に面白かったです。

 

 で、問題のラストなのですが「主人公のとる選択肢だから正しいとは限らない」というのが一番の見せどころだと思うのです。映画の主人公は最後に報われなくてはならない、なんていう決まりはどこにもなくて逆にどんどん不幸になっていく映画だってたくさんあります。これでぱっと思い浮かんだのが『真夜中のカーボーイ』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』なんですが、あれも選択肢があったはずのに気が付けばどん底まで落ちているような感じです。『ミスト』はそれを途中まで希望があるように見せかけていたところが卑怯でイヤらしい演出だなぁとは思いました。

 

 ただ、ああいうとき大事なのは戦うことではなく「助けが来るまで大人しく待っている」ことだと思うのです。その場を動いたばっかりに余計なトラブルが起こるのはフィクションでも現実でも変わりありません。最良の選択肢としてはカルトおばちゃんがヤバイと思ったタイミングで彼女と同じように難癖をつけて外に放り出すのがよかったのかなぁと思うのですが、やっぱりそれも非人道的ですね。生き残るためには誰かを犠牲にしないといけないのは辛いなぁ。