傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「未来惑星ザルドス」

 タイトルだけなら夕方6時半くらいにやってそうなアニメ。

 

未来惑星ザルドス [DVD]

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【あらすじ】

 文明が崩壊したような近未来。獣人と呼ばれるゼッドたちはどこからともなく飛来する巨大な石の仮面「ザルドス」と神と崇め、銃を与えられて殺戮を許可されたり穀物を献上したりしていた。あるときゼッドは「ザルドス」の内部に忍び込んで行く先を突き止めようとする。着いた場所は、不死の人間たちが暮らす閉じた世界ボルテックスだった。

 

【感想】

 急にどうしようもなく『ドラゴン危機一発』を見たくなってレンタル屋に行って、ついでにタイトルだけでセレンディピティを感じて一緒に借りてきました。『ドラゴン危機一発』は面白いですよね。どう見ても衛生的に問題ありそうな製氷工場とか、率直すぎる工場長の発言とか、忘れていけないのは人の形に抜ける穴ですね。

 

 そんなテンションで「おそらくこれもそんな部類」と前回『サイボーグ』で感じた同類の匂いを感じて借りてきたのですが、なかなか期待を裏切られた気分でした。主演がショーン・コネリーということで勝手に「どこかに惑星に不時着したショーン・コネリーが現地の珍妙な原生生物や不気味な現地生命体とバトルする」という夕方6時くらいにやってそうなアニメのノリだと思ってました。ごめんなさい。

 

 かなり頑張ったディストピアものでした。

 

 まず、映画が始まると意味ありげな語りの後、イベントとかで子供が中でぼよんぼよんやる奴くらいの巨大な石の顔が登場する。そんで集まってきた赤ふんどし一丁の男たちに「セックスはダメ!増える人間を殺せ!」と銃と弾薬をべーっと大量に吐き出す。それを貰って喜ぶ赤ふんどしたち。それからしばらく巨大な石の顔が空中を飛んでいくシーンの中クレジット。もうね、ここで「どうしよう」という感じ。さっぱり意味がわからないというか、夕方6時のアニメを期待するのをやめたわけです。

 

 そんでやっとショーン・コネリーが登場するのですが、赤ふんどしに赤い銃弾ベルトを交差して肩にかけているという一見変態仮面のような出で立ち。何とか石の仮面の中に潜りこんだらしいのですが、真空パックされたマネキンみたいなのがあってなかなか怪しい雰囲気。夕方6時アニメの雰囲気は木端微塵です。

 


Zardoz | Trailer | 1974

 

 それからどうも見えてきた話が、「石の仮面を作った人たちは科学の力で不老不死になり、隔離された世界で何年も同じコミュニティで暮らしてきた」「不老不死のため子作りをする機能がなくなり、生きる気力もかなり減退している」「ショーン・コネリーは外の世界で生まれ育ったので野蛮だけど種付けの研究材料」みたいなこと。テレパシーなど精神感応が発達した不死の人たちの動きが基本キモイ。「瞑想しましょう」って言って反抗している人をサイキック的な何かで黙らせたり、おっぱいを掴まれても何も感じない無気力人間とか、結構ぞっとするシーンはたくさんあります。ちなみに不老不死のため、村で悪いことをした人は「老人の刑」になって人工的に寿命が進められて老人ホームで隔離されます。

 

 そんなアパシー蔓延の中、ずっと赤いふんどし一丁のショーン・コネリーがファイト一発する記憶映像を「興味深い」と見続ける女たち。「どうすれば男性の大事な部分が反応するか」という実験で「これはどうかしら」となんかエロそうな映像を見せられるところは明らかに中学生のイジメみたいな構図でした。「童貞が許されるのは小学生までよねー」みたいな話。

 

 何ともズレた世界についてショーン・コネリーは考える。そもそもあのでかい石の仮面は何なのか。昔読んだ「本」で、何か似たようなことがあったような、えーっと……「Wizard of OZ(オズの魔法使い)」……Wiとofを抜けば……「zardoz」……ザルドス!! そうか、あの石の仮面は「オズの魔法使い」だったのか!!

 

 なんという驚愕の事実はダジャレだった。

 

 つまるところ、「オズの魔法使い」も「魔法使いではなく科学の力で魔法使いを演じていた」というオチなのです。「ザルドス」は隔離されたコミュニティじゃ賄えない小麦を外の野蛮人に作らせるために作ったものでした。その設計者はこのコミュニティを何とかしたいと思っていて、「ザルドス」を動かしながらショーン・コネリーに目をつけて、「オズの魔法使い」を読ませてザルドスに忍び込ませたらしい。最初からこのへんてこな世界を壊すために招かれたそうだ。

 

 結局ショーン・コネリーは追われる身になるのだけれど、その途中で例の無気力人間たちがわらわらやってきてムキムキ筋肉に触った瞬間、急に生き生きし始めるから面白い。次々に撫でられるショーン・コネリー。それで発情して致すみなさん。その後いろいろあって叡智を詰め込まれた水晶からいろんな知恵を授けられたショーン・コネリー。この辺本当に映像の意味が分からなくて面白かった。言いたいことはわかるけど、前衛すぎるというか、雰囲気でやってるなぁという感じ。

 

 そして水晶との戦いにショーン・コネリーが勝ったことで、どうやら不老不死の人たちは死ぬことができるようになったみたいです。コミュニティを守るバリアが破られて赤フン軍団にバンバン撃ち殺してもらって「私たちは死ねる!死ねる!」って空に手を伸ばしながらみんな死んでいく。このシーンは本当にシュール。「この人たちの一生は何だったんだろうな」ってしんみりする。最終的にショーン・コネリーとお気に入りのヒロイン的な人だけで村を脱出し、ひっそり子供を産んで老いて死んでいく過程がダイジェストで象徴的に描かれて終わり。

 

 なんていうか、「夕方6時のアニメ……」という未練はまだあるのですが、とにかく濃い映画でした。はっきりと最初に「この映画は風刺の映画だよ!」って言うのは割と親切だったと思う。とにかくカルトチックでショーン・コネリーの胸毛を見続けるのがメインの映画だと思うと面白いです。

 

 変化のない永遠の生と、刹那的に魅力のある死はどちらが良いのかとかいろいろ生き方を考えることもできますし、怪しいギミックと映像満載でこういう映画が好きな人なら腹を抱えてみることが出来ると思いますが、一般的にはおすすめしません。ショーン・コネリーの胸毛と赤パンツが見たい人は見るべきだと思いますが。