傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「貞子VS伽椰子」

 化け物には化け物ぶつけんだよ!

 

貞子vs伽椰子

貞子vs伽椰子

 

 


映画『貞子vs伽椰子』予告編

 

【あらすじ】

 ひょんなことから呪いのビデオを見てしまい、貞子に呪われた有里と夏美。呪いのビデオ研究家の教授森繁の伝手で霊媒師を紹介してもらうが、貞子の呪いは予想以上に強かった。そこに登場した霊媒師・経蔵と玉緒のコンビは「貞子の呪いを解くには、他の呪いをぶつけるしかない」と言う。一方、幽霊屋敷と呼ばれる家の向かいに引っ越してきた鈴花は奇妙な男の子を目撃していた……。

 

【感想(ネタバレなし)】

 日本のホラーファンなら誰もが思い描く「貞子と伽椰子が戦ったら」というドリームマッチをあの白石監督がやるっていうんだから、これは怪作になるしかないだろうという期待の元に映画館に行きました。せっかくなのでMD4Xで観ました。

 

 話のテンポの都合上、貞子の呪いは2日後に発動するし伽椰子の呪いも家に足を踏み入れたもの限定という変更がありました。それに伴い貞子も伽椰子も「モンスター」としての描写が中心でそれまでの『リング』や『呪怨』で描かれてきた彼女たちの物語もバッサリとカットされていました。純粋に「呪い対決」ということならこれでいいのかもしれません。

 

 ホラー映画と言ってもいろんな種類がありまして、お化けが出てきて恐怖表現をとことん突き詰めたガチンコホラーと、人間の残忍性などをそことなく見せる実は人間が怖かったホラーと、ホラーという表現を踏まえたパロディホラーなどがあります。今作はその様々な形式のホラー映画を融合させたようなものだと思いました。交錯する様々なシーンにはガチンコホラーで見られる極度まで張りつめた空気があったり、呪いにかかった登場人物の闇の一面が見えたり、何より白石監督お得意の「胡散臭い霊能者」というパロディホラーもありで「ホラー映画の総合商社やぁ」というのが個人的見解です。

 

 そういうわけで「1本の映画」として考えるならまとまりがなくて、「あぁ貞子と伽椰子を戦わせたかったんだな」という感想にしかなりません。でも、そこに至るまでのシーンで様々な手法や演出をして最後のシーンにつなげていたのがよかったです。

 

 また、今作はMD4Xという表現がよくマッチしていました。突然突き上げられたり、風が吹いて来たり、何よりクライマックスのバトルシーンではガッコンガッコン揺れまくってまるで一緒に呪われているようです(?)。それと香りの演出で面白いところがあったのでそこも注目です。

 

 ただ、設定変更やテンポ重視の脚本なので純粋な従来の『リング』や『呪怨』ファンにはがっかりするようなところもあるでしょう。この映画は『コワすぎ!』シリーズの白石監督の持ち味とJホラーという表現に対する挑戦状として見たほうがいいです。そういうわけで純粋な恐怖を求めていくものでもないです。「ホラー映画ファン」としては必見の作品です。

 

 以下よりネタバレ感想になりますが、これを読むと一度見た人でも劇場に行きたくなる呪いにかかる可能性があるので、怖い方はお帰りください。

 

 

【感想(ネタバレあり)】

 本作はパロディホラーとしての面も強く、終始ニヤニヤするような展開も多かったですが、反面ガチで怖がらせに来ているところもあり、とにかくお祭りのような映画でした。

 

 冒頭の「呪怨ベースの家で呪いのビデオを見て死んだ老人」のシーンは普通に怖かった。「これこれ、Jホラーの醍醐味はこれ!」とそこでテンションを上げてくれたのが非常に嬉しかったです。後半でも出てくるのですが、じゃらじゃらの玉暖簾が何故か無性に怖いんです。おばあちゃんちによくあるようなただの玉暖簾なのに、なんか怖い。後半呪いの家でも登場しているので、こういうアイテムでつながりを持たせるところも非常によかったです。

 

 惜しかったのが呪いのビデオ研究家の森繁の早期退場。彼のぶっ飛び振りはかなり好きだったので、「ムダ死に」発言などはこの映画的にはおいしいのかもしれないけど中盤離脱は非常に残念。唐突にミームがどうこうと語り出す所もいいし、「死ぬ直前にミームを書き換える」とか本当に名言。個人的にスライドの「呪いのビデオ」と「呪いの家」をでっかくしているところが「タートルトーク」の前振りみたいで非常に面白かったです。かなりフフっとしました。というか、あの自費出版の本ちょっと欲しいぞ。

 

 そして爆笑必死の第一次お祓いシーン。水を飲まされるところだけでも面白いのに、あのビンタは卑怯。パロディホラーとしては笑うしかないでしょここは。それからの首もぎ頭突きシーンのシュールさとビデオにべたべたと貼られた護符でもうダメ。この辺はネット怪談的なところもあり、非常に面白かったです。

 

 いろいろと呪いモンスターが怖い話なのですが、地味に「無駄にドライないじめっ子の小学生」や「呪いのビデオ拡散」は怖いです。「いじめのシーンにリアリティがない」という感想を見たのですが、現実のいじめって私たちが思うようなドロドロしたものではなく、案外ああいうドライなものだと思うのです。その淡々とした描写が後の俊雄無双に繋がっているのが最高です。「呪いのビデオ拡散」については、もう何も言うことはないです。この映画で一番怖いところです。

 

 そして話もクライマックスになり、両雄奇跡の対決と相成るのですが怖いと言うより普通にテンションが上がる。髪の毛で攻撃する貞子に対してビデオテープを踏みつける伽椰子。先制攻撃で俊雄をテレビの中に引きずり込んだのは最高に笑えるシーンでした。

 

 それからの超展開は映画をご覧の方なら、何も言うことはないと言うことがわかるでしょう。最高です。「ぼくのかんがえたさいきょうのおんねん」という感じ、最高です。「怨念集合体・さだかやちゃん」の爆誕に立ち会ってしまったという震えが止まりません。

 

 ビデオつけましょう

 ルルル 呼んでみましょう貞子さん

 呪いの家の伽椰子さん

 ニコニコ引きずる愉快な家族

 うちと同じね 化け物ね

 私も貞子さん あなたも伽椰子さん

 呪い方まで同じね

 アッハッハッハ 同じね

 

 映画が終わってからずっとこんな歌詞が頭の中をぐるぐるしていました。そして「この映画……観終わった後の感覚、何かに似てる?」とずーっと考えていました。そんでやっと思い出したのが、『バイオハザード』です。『バイオハザード』の場合はちゃんと2に続くのですが、この映画は多分2が出ることはないでしょう。それにしても呪いのビデオ拡散という事態はどうしてくれるんでしょうか。視聴した人のところにさだかやちゃんがやってくるのでしょうか。

 

 最後ですが、鈴花役の玉城さんの雰囲気が最高にホラーにふさわしくてよかったので彼女をメインに何か撮ってくれると嬉しいなぁなどと思いました。映画の外にいろいろ話が行く映画ってやっぱり面白いと思うんです。これは純粋な次回作じゃなくても、何らかの第二弾があるといいなぁと思います。ほの暗いVS女優霊とか。流石に無理か。