傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「地獄でなぜ悪い」

 全力歯ぎしりレッツゴー♪

 

 

【あらすじ】

 ファック・ボンバーズは、いつかは伝説の映画を撮りたいと思っている平田を中心としたアマチュア映画集団。そこへひょんなことからヤクザの抗争に巻き込まれた橋本公次がやってきて、金はいくらでも出すから映画を製作してほしいと頼む。かくしてヤクザがスタッフ、キャストもヤクザの刃傷沙汰のヤクザ抗争を映画にするという、前代未聞の映画が撮影されることになる。

 

【感想】

 なんだこれ、めちゃくちゃ面白いじゃないか。

 

 園子温監督ということで期待してみたのですが、やっぱり期待通り面白かった。ストーリーはどうでもいい、とにかくハチャメチャなアクションとビジュアルが最高。ある意味脳内麻薬がビシビシ出るような映像の連続に終始笑いが止まりませんでした。

 

 映画の最初は、ヒロインの武藤組組長の娘ミツコが歌う「全力歯ぎしりレッツゴー」というCMソング。そんなミツコが家に帰ってくると部屋の中は血の池。そこで倒れているヤクザに「こんなに汚して!」って怒っているのがシュール。そこでハマれたらあと2時間は非常に楽しい時間になる。あと、この血の池の床のシーン。女の子が真っ赤な床を見つめていると言う意味で何となく『シャイニング』を思い出した。非常になんとなくなんですが。

 

 もう配役全員がぶっ飛んでいてバカバカしいこと限りないのですが、唯一観客の心の代弁をしている橋本公次も後半で白い粉を吸い込んで「アッチ」の世界に旅立ってしまいます。刀を頭にぶっ刺したまま動き回るし、いつのまにかマシンガン持っているし、もうこの世界は夢の中のようなどうしようもない非現実なのです。

 


映画『地獄でなぜ悪い』ガガガはみがきCM

 

 ところでこの「地獄」って何を意味しているのかというのが観終わったあと、重くのしかかってきました。もちろん「地獄」とは刃傷沙汰のヤクザの抗争だけではなく、「映画制作の現場」のことだと思うのです。何をやっても完璧にいいものはないし、自分の思い浮かべた映像がその通りにカメラの向こうに来るわけでもなく、それでも自分の理想に近づけると言うのはもう「地獄」ですよ。

 

 その映画を撮影している監督の心境を刃傷沙汰として表現していると思うと、この話がまた深くなるような気がするんです。ついでに言うと「全力歯ぎしりレッツゴー!」というのは「理想に近づけなくて悔しい心情」なんじゃないかなあと思うとこの歌が何度も何度も出てくるのはやっぱり意味があるよなぁと思い、ただの血まみれ映画じゃないよねと思う次第です。

 

 ラストカットの平田の全力疾走は、もう「地獄だとはわかっているけれどそこに突っ走っていくしかない」監督の心情がむき出しで清々しいとみるか、グロテスクと観るかよくわからんのですよ。その辺の演出も全部メタにしてしまったのでもうやっぱりこの映画の出来事は全部平田の夢の話なんですよ。そうでもしないと、本当に何だかよくわからない。だが、そこがいい。

 

 全力歯ぎしりレッツゴー、ギリギリ歯ぎしりレッツフライ!