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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「第9地区」

洋画 SF

 踊るエビ人間 in ヨハネスブルグ

 

第9地区 [DVD]

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【あらすじ】

 ヨハネスブルグの上に突如現れた宇宙船。母星に還れなくなったエイリアンたちは難民と化し、第9地区に隔離されて生活している。増えすぎたエイリアンを第10地区に移すため、エイリアンを管理するMNUは役人ヴィカスは現地に派遣される。そこである液体を浴びたことからエイリアンと人間の争いに巻き込まれていく。

 

【感想】

 この映画を見た後、しばらくエビを食べたくない。

 

 銀週間の最後はこの映画を観て過ごしました。まったりとエビや人間がぐっちょんバーンしていく中で驚異の身体変化を遂げてパニクるヴィカスの小市民っぷりがたまらんでした。思えば最初のシーンでゴムを食べてるエイリアンに近づいた傭兵が腕をちぎられるというシーンは何かの暗示だったようです。

 

 そしてこの映画で避けて通れないのが、ヨハネスブルグという街でこの映画が製作されたと言う事実だと思う。アパルトヘイト撤廃から何十年も経って、サッカーのW杯が開催されたとはいえ、やっぱりこの国はまだまだ治安が悪い。難民やスラム、貧困の問題が横たわる中、それを「エイリアン」として表現しちゃうのはやっぱり面白い。日本で言うところの『銀魂』です。でも『銀魂』のエイリアンはちょっとかわいかったり意思疎通が容易にとれたりするけれど、『第9地区』のエイリアンはエビだ。どう見ても甲殻類で仮面ライダーとかウルトラマンと戦ってそうな感じだ。

 

 更に面白いのが、そんなエイリアン相手に商売をするギャングが出てくる。そんなわけで「エイリアン排斥の役人傭兵たち」と「エイリアンを金儲けに使うギャング」と双方から追われる半エイリアン化したヴィカスというわかりやすい設定。この変身の映像がじわじわと、しかも中途半端にエグイのがちょっとキツかった。みるみるうちに変身して……というのもぞわぞわするんだけど、この映画みたいにじわじわと変身していくのも怖い。まるでマタンゴのようだ。

 

 それにしても終盤までのヴィカスの小物臭というか、クズっぷりは「これが主人公でいいのか」と思うほどでした。でもその小物っぷりが非常にリアルで、ハンバーガー屋で正体がバレたときに隣の客が頼んでいたハンバーガーをかじってから逃走とか、キャットフードで飢えをしのぐとか、そして涙する場面はわりと感情移入しやすかったです。「もう日常は戻ってこない」という悲壮感がたまらないですね。

 

 そんな涙涙の逃走劇から一転、後半のバトルはアツい。まさかのパワードスーツ無双が始まるとは冒頭のドキュメンタリー風映像からは想像していなかった。しかも急に芽生える種族の壁を越えた友情! これは熱い! そしてその台詞は死亡フラグだ!!

 

 ツッコミどころがないわけではない。例えばもっとヴィカスを丁寧に扱っていれば絶対逃げられなかったと思うし、あんなに露骨にメディアに流すよりもっと簡単に居場所を探る方法はあったと思われる。何より情報統制がかなり微妙だ。まぁ、そんなことを気にしていては映画が見られない。ここはヴィカスの小心者っぷりを存分に味わうための味付けなんだろう。

 

 ラストでせつなかったのは、やっぱりヴィカスをエイリアンが受け入れたってところでしょうか。その変容ぶりもかなり進行して、「もう人間として暮らせない」っていうのが出てきていて痛々しい。それでも「クリストファーを救ったんだ」という達成感が顔に出ていたのはよかったです。

 

 とにかくリアルなスラムのバラックとか、エイリアンの持ってる謎の兵器とか、あと人間の感情の細かな擦れ違いとか結構細部にこだわっている映画だと思いました。正直この映画、勝手な先入観でキワモノ映画だと思っていたんです。グロシーンもたくさんありますが、人種差別など中身は割と詰まっているので面白かったです。でも虫とグロが苦手な人には勧められないなぁ。