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傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「マタンゴ」

 きのこのこのこ げんきなこ♪

【あらすじ】

 男女7人の乗ったヨットが遭難し、無人島に流れ着いた。島には同じく漂着したと思われる船があったが、埃やカビばかりで乗組員の陰も死体も見つからなかった。何故か島には鳥や獣の姿はなく、少ない食料や慣れない生活にそれぞれの心は離れていく。やがて幻覚を見るだろうとのことで食べるのを避けていたキノコを口にするものが出て、漂流生活は熾烈を極める。

 

【感想】

 うわー。ホラー映画以前に話の内容がドロドロやー!

 

 まず話は都内と思われる隔離病棟である患者が独白するところから始まる。これから彼の口から恐ろしい体験が飛び出すのだけれど、怖いのは化け物ではない。人間だ。


 だいたい無人島に男と女の数が釣り合っていない状態で上陸して、ロクなことが起こるわけがない。この映画はお化けのマタンゴ自体も結構怖いけど、この「極限の状態で仲間割れをしてく恐怖」も存分に味わえてなかなか深い映画だった。アナタハンの女王事件もかくやと言った感じだ。


 特にこの映画のいいところは、富裕層のヨットが漂流したと言うことで普段文化的な暮らし(笑)をしているお偉いさん方が金も権力も無駄な土地にきて苦しむという様子を何か恨みでもあるんじゃないかってくらい生き生きと描いているところだ。 しかも「こんなときだから」とばかり見つけてきた食料を高い値で売りつけるたくましさを持っていたものも報われるかと言うとそうでもないし、とにかく「人間のあさましさ」をフルスロットルで展開している。この辺のじわじわ追い詰められていく感覚は是非映像でご覧いただきたい。怪物が出てきているのに、怪物そっちのけで仲間割れしている図は本当に恐ろしい。


 裏切りや仲間割れなど人間の本質のようなエグイものを観た後だと、マタンゴは救済以外の何物にも見えない。皆で同じ食料を食べて、同じ容姿になっていって、争いもなく過ごすことはとても楽しいのだろう。マタンゴを食べたかつての仲間が食べることを勧めに来るシーンは、ぞっとする反面非常に考えるものがあった。二度と人間社会に戻れなくても、幸せになるべきなのかそれとも……。尊厳死とかそういうのと少し似ている問題だと思った。マタンゴを食べずに死んでいった仲間以外、ほとんどのメンバーがマタンゴを食べてしまう。苦しんで死ぬよりもマシだと自殺するようなものかもしれない。


 最終的に主人公は無理やり船で脱出し、冒頭の隔離病棟で顔面からキノコを生やしながら「帰ってきたけれど、やっぱりあそこでキノコになっていたほうが幸せだったかもしれない」というシーンで終わる。半分キノコ人間になってしまっては、人間の世界では生きていけない。しかし、キノコの世界に戻ることもできない。最後まで抵抗した結果がどっちの世界にも戻れないと言う残酷な結末だ。


 そして何よりこの映画の恐ろしいところは、しばらくキノコが食べられなくなるというところだ。めちゃくちゃおいしそうにマタンゴを食べているんだけど、だけど、だけど……という感想がしばらく頭から離れなかった。やっぱり精神的にエグイのは辛いなぁ。