傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ホテル・ルワンダ」

 人ってね、簡単に死んじゃうんだよ。

 

 

【あらすじ】

 主人公のポール・ルセサバギナは四つ星ホテルのミル・コリン・ホテルの現地支配人として仕事をしていた。ところがルワンダ紛争フツ族ツチ族の和平合意があったかと思った矢先、大統領が暗殺され、フツ過激派がツチ族を根絶やしにする計画を発動させる。ツチ族というだけで多くの人が殺され、またツチ族を庇ったものも殺された。ポールはツチ族の妻や子供、生き延びた隣人をホテルに避難させ、コネや賄賂などを用いてを次々と逃げてきた人々をホテルにかくまい、難民を救助した。


【感想】

 「ルワンダ虐殺」のとき実際にあった出来事を映画化したものです。名前と経緯だけ簡単に知っていましたが、ここまでむごいものとは思いませんでした。同一民族をある日突然やってきた入植者が勝手に分類して、それぞれいがみ合わせた結果がこの有様です。やっぱりよくないよ、植民地政策。


 作品鑑賞後だと、冒頭の比較的平和なシーンを思い出すだけで泣けてきます。物騒な治安ではあるけれども、まだ理性が支配している国だった。大統領が暗殺されて、それから各地で虐殺が繰り広げられていく。全体的に暴力的なシーンは少なく、特別ひどいシーンがないだけに恐ろしい。ただそこにいるというだけで命を狙われなければいけない理不尽がとにかく恐ろしい。特にツチ族を「ゴキブリ」と呼ぶフツ過激派が怖い。やっぱり恐ろしいのは人間だ。


 それにしても、この映画は歴史的事実を淡々と並べただけでなく、映像や音楽、そして役者さんたちの演技どれをとってもレベルが高いと思うのです。基本アフリカカラーの鮮やかな画面、ポール役のドン・チードルさんの迫真の演技、そしてテーマソング。自分は最初孤児たちが避難してくるシーンで流れたテーマソング冒頭でもう顔面ティッシュでした。音楽のチカラはかりしれない。

 


ホテル・ルワンダ (Hotel Rwanda - Million Voices)


「アメリカが合衆国なら、アフリカ合衆国はできないのか」
「イギリスが連合王国なら、アフリカ連合王国はできないのか」


 情けなくなった。子供が理由なく命の危険に晒されているのに何にもできない自分が本当に情けなかった。


 虐殺のひどさもさることながら、各国がルワンダを見捨てた経緯もまた辛い。国連軍の撤退を命令された現地司令官の悔しそうな言葉。「彼らにとって君たちはニガーですらない、アフリカ人なんだ」っていう言葉の重さ。ポールは四つ星ホテルの支配人として誇りを持って仕事をしていたけど、結局は奴隷以下の現地使い捨てなんだという実態。ベルギー本社の社長もなんとかしてやりたかったのは山々だったろうけど、打つ手はそれほどなかった。虐殺の映像を捉えてきたカメラマンに「この映像を見れば世界の誰かが助けに来ますね」とポールは言うけれど「いや、世界中はニュースであの映像を見て怖いねと言うだけで、ディナーを続けるだろう」と返される。なんだろう、このやりきれなさは。


 家族とホテルをなんとか守ろうとするポールと、いつ殺されるかわからない状態の妻や子供たち。創作物を見てもあまり感情移入はしないほうなのですが、久しぶりにこの家族ドラマにのめりこみました。また従業員たちや軍隊との理解や裏切りなど、割と複雑な事情を抱える「ホテル」というまとまりが新鮮で面白い。


 印象に残っているシーンは、やっぱり虐殺の跡を見てしまったポールがホテルに帰ってきて、あまりの衝撃にロクにネクタイも結べずにシャツを引きちぎって慟哭するシーン。「人が死んでいてむごい」というより、「俺の大好きだった故郷はもうなくなったんだ」という絶望がひしひしと感じられた。東日本大震災で被害を受けた地域に住んでいた自分としては、このポールの気持ちが痛いくらいに伝わってきて、せつなくなった。人命だけでなく、心のよりどころが消滅するって本当につらい。


 予備知識がなくても取材記者の口から当時の情勢の説明はわかりやすく聞けるし、単純に人間ドラマとして見ても面白い。でも、やっぱりこういうことから目をそむけてはいけないんだということをしっかり考える機会になりました。本当に多くの人に見てもらいたい。見て、一緒に考えてほしい。