傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「フリークス」

 前回のモンスターつながりでずうっと気になっていたけど、ぼんやりしてたら一生御目にかかることはないだろうと思ったけど見つけちゃった映画。

 

 ※割と刺激が強いことが書いてある気がするので神経の細い人は注意してください。
 
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 【あらすじ】

 サーカス一座の小人症のハンスは同じく小人症のフリーダと婚約していたが、美しい空中ブランコ乗りのクレオパトラに惹かれる。ハンスが親戚から莫大な財産を受け継いだことを知ったクレオパトラは愛人の怪力男ヘラクレスと共謀し、ハンスと結婚式をあげることにする。悲しみに沈むフリーダは「悪い女よ」と忠告するが恋に溺れるハンスは聞かない。やがて盛大に開かられた結婚式は、ハンスを祝う見世物小屋の奇形者たちの宴となる。

【感想】

 曰くだらけでストーリーそのものに全く興味はなかったのですが、平凡なメロドラマでした。ストーリーそのものに言及する必要は全くなさそうです。ただ、この映画は周辺情報がいかがわしすぎるのがポイントです。


  • 劇中に登場する見世物小屋の奇形者は本物の当時現役の見世物小屋で働いている人たち。
  • そのあまりの画面の様子にイギリスでは公開当時すぐ上映禁止になり、その後30年間公開が禁止された。
  • 日本でも公開されたが、そのときのタイトルは「怪物團」。ソフト化したときのタイトルは「神の子ら」。
  • 曰く、過激な映像に上映中に逃げ出した観客が多数いた。
  • 曰く、その映画を見てショックで流産したと訴えるものがいた。



 ハンスとフリーダは小人症。そのほか小頭症の兄弟、髭の生えた女、下半身のない男性、シャム双生児などなど現代の日本の都会を歩いていればギョっとするような容貌の人がわんさか登場する。今となっては見世物小屋なんて「何それ?」というような感じですが、昔はそういう人は見世物になってお金を稼いでいたのですよ。今となっては信じられないですね。そういう時代だったんですよ。身体的特徴を見世物にするって、現代では倫理観が許さないですが、社会的弱者にとって弱みを晒すことが最大の強みになっていたと思うと、そういうのを隠すのってどうかと思うのです。


 この映画は結局怪奇映画という方面でとらえられがちですが、「外見は恐ろしいけどまっすぐな心を持ったフリークス」と「外見は美しいけど中身が怪物以下の美女」という構造で見ることができます。打算のみで動くクレオパトラもハンスの結婚式で「君も我らの仲間だ」とフリークス同士で酒を飲みかわすシーンで「醜悪な化け物」とののしる。ただ、ここの映像は本当に不気味になるように仕上がっていて、その不気味さを受け入れることができるか否かという観客も試される究極のシーン。誰もが「自分なら盃を受け取ることが出来るか?」と想いを馳せるだろう。

 

 ただ残念なのが最後のシーンが本当に猟奇的なホラーでしかないということ。結局毒を飲まされて殺されることがわかったハンスはフリークスたちと共謀してヘラクレスを殺し、クレオパトラに残酷な復讐をする。「醜悪な化け物め」とクレオパトラをさして復讐の計画を相談しているときのにやりと笑ったハンスの顔が滅茶苦茶怖い。そして夜中にフリークスたちが襲ってくるシーンも怖い。ゲゲゲの鬼太郎のエンディングみたいな「言うこと聞かない悪い子は夜中迎えに来るんだよ」みたいな感じが恐ろしい。勧善懲悪なんだけど、画面が怖すぎて教訓めいた話になっていないというか、シャレになっていない。

 

 でも脇役たちは本物の役者ではないのに演技上手でした。自分たちを売り込むのを職業にしていたので本業でなくても何とかなったのですね。特に腰でつながったシャム双生児ヒルトン姉妹がそれぞれ結婚するシーンは単純なユーモアでクスリと笑えます。一方は吃音のひどい男性と結婚するけど、片割れと仲が悪い。片方がイチャイチャしている脇でもう片方が気にしないように本を読むけど、キスをしていると急に顔が綻ぶ。シャム双生児しかわからない身体感覚はちょっとドキドキです。

 

 以上のように内容から差別的要素はあまり感じませんでした。むしろ「これでいいのか人類よ」という挑発的なものを感じるくらい社会的に通用してもおかしくなかったと思います。ただ、ラストシーンでやりすぎたので日の目を見ることはないでしょう。