傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「蒲田行進曲」

 虹の都♪光の港♪キネマの天地♪

 

あの頃映画 「蒲田行進曲」 [DVD]

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【あらすじ】

 東映映画の撮影所。売出し中の俳優銀四郎は、土方歳三役を貰うも池田屋事件に欠かせない階段落ちをしてくれるスタントマンが見つからないため、見せ場がもらえない。銀四郎は身ごもった恋人の小夏を大部屋役者のヤスに押し付ける。うだつの上がらなかったヤスは結婚と出産の費用を捻出しようと危険なスタントをどんどん引き受ける。気ままな銀四郎と違い、自分の子でもないのに愛情をかけようとする真面目なヤスに小夏も次第にひかれていく。しかし銀四郎の人気は落ちる一方で、土方歳三役を成功させるためにヤスは高さ10mの大階段落ちを引き受ける。よくて半身不随、悪くて死亡と言う危険な仕事を小夏は必死で止めるが……。

 
 【感想】

 流行るだけあって、やっぱり面白いです。元々が舞台なので人間関係がシンプルで引き立つものもあり、人間ドラマとしてみても面白いです。銀ちゃんがあまりにも自由過ぎるキャラに対して、ヤスは真面目一筋の優しい人物。その間を行ったり来たりする小夏という安定した筋書きもいいですね。

 しかし銀ちゃんの自由過ぎるキャラは自由過ぎてちょっとついていけないところがありました。彼の人気がイマイチだったのは、間違いなくあの時代を先取りしすぎたファッションセンスだと思うのですが、どうでしょう? そういえば「ローズマリーの赤ちゃん」で「俳優は自己中心的だから」と言うシーンが出てきて自己中心どころじゃすまない事態になっていたのですが、やっぱり俳優ってそういうところがどこにでもあるのかな。

 好きなシーンはヤスが暴れるところですね。今まで聖人君子かってくらい優しかったからこそ、引き立つものがあるシーンだなぁと感心しました。あと小夏が階段を上ったり下りたりするのが怖くて怖くて仕方がなかったです。やたらと作中に階段(新居、廃工場等)が登場していたのもラストの大階段につなげる伏線だったのですかね。

 そうそう、新撰組と言えば「階段落ち」なのですが、この映画を見て思った最大の疑問は「誰が最初に階段から落ちたのか」ということです。「池田屋事件=階段落ち」というくらいもうポピュラーになっていてドリフでコントまでつくられる始末なのですが(これは蒲田行進曲をベースにしていると思うけど)、これは歴事上の事実なのか、それとも創作だとしたら誰が一番最初にやったのでしょうか。

 調べてみると、どうにも子母澤寛(しもざわ かん)の「新撰組始末記」で新撰組のイメージが固まってしまった模様。小説という形を取っているが史実のように語られている場面も少なくないそうだ。さて、そこで実際に階段から転げ落ちたとされる人物は土佐藩の北添佶摩(きたぞえ きつま)と吉田稔麿(よしだ としまろ)という人物らしい。「燃えよ剣」ではこの二人がすぐ斬って捨てられ、北添は不明だが吉田のほうはハッキリ階段から落ちたと記されている。しかしどのみちフィクションである。おそらく元祖階段落ちは戦前の映画か舞台にありそうなのですが、そこまで調べることはできませんでした。忠臣蔵の「エイエイオー」みたいな形で歴史上の出来事に付随するお決まりのフィクションという観点で誰か調べてください。

 つまり、そういうことまで気になっちゃう階段落ちは由緒正しいということです。映画のラストはかなりエスプリの聞いたオチでしたね。時代を感じるものがたくさんあって若い人には難しいかもしれませんが、総合的に面白かったです、ハイ。