感想「フルメタル・ジャケット」
母ちゃんたちには内緒だぞ。
【あらすじ】
ベトナム戦争まっただ中。アメリカの若者は訓練を受けて戦地へ行く。その訓練はクソッタレで、戦場はもっとクソッタレな空間だった。
【感想】
「話しかけられたとき以外は口を開くな。口でクソたれる前と後に“サー”と言え。分かったか、ウジ虫ども!」
「俺は厳しいが公平だ。人種差別は許さん。黒豚、ユダ豚、イタ豚を俺は見下さん。すべて平等に価値がない!」
「ふざけるな! パパの精液がシーツのシミになり、ママの割れ目に残ったカスがおまえだ!」
とにかくハートマン軍曹にしびれるための映画と言ってもいいと思う。次から出るわ出るわのキレのいいお下劣罵詈雑言は芸術の域だと思うのです。
「ホー・チー・ミンはロクデナシ」で声出して笑ってしまいました。
前半はとにかくハートマン軍曹のしごきのシーンだらけです。各人が兵士として成長していく過程も楽しいのですが、このパートで大事なのは何と言っても「ほほえみデブ」の存在。とにかくできない劣等生。面倒見てやってるジョーカーも半分同情してるんじゃないのかってくらい劣等生。リンチを食らっても仕方がないくらい空気読めないドーナツ食い。
ただリンチ後からのデブの発狂は完全に逆ギレ。殺人マシーンを通り越して別の何かに変化してしまった。「おいデブ!てめぇ偉大なハートマン軍曹になんてことしやがる!」とデブを責める間もなくデブ退場。
ここで終わってもいいくらい、この「新兵訓練編」が映像だけでもお話だけでも文句なしに面白い。「人間を改造しようとした狂気」のような陰惨なテーマのようだけど、ここまで全編にわたってあったのはほぼハートマンの怒号だけ。それだけで一本の映画にしてしまうキューブリックの演出方法がやっぱりすごい。
「逃げる奴はベトコンだ!! 逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ!!」
打って変わって後半はジョーカーとカウボーイが実際にベトナムで戦う。もうこのヘリに同乗したアメリカ兵の発言にしびれる。戦争はかくも人間をこう変えてしまうのだ。前半の画面は淡々としていながらスパイスだらけの展開と反対に、画面は大スペクタクルなのにイマイチ話が見えてこない。それだけハートマン軍曹の存在感が偉大だったということだろう。彼の退場が惜しまれる。
クライマックスの何とも言えない展開。ラストの行軍の不気味さ。冷戦の代理戦のベトナムで何をしようとしているのか。そういったことも「博士の異常な愛情」でシニカルにしすぎた部分を割と冷静に描いているような気がした。
万人にはオススメできないけど、一度見ておいて損はない作品だと思う。とにかくハートマン軍曹が素敵。日本では「戦争は悲惨だ!」みたいなことを全面に出してくるからこういう淡々とした戦争劇は見た方がいいと思うんだよね。