傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「宇宙人王さんとの遭遇」

 おまえバカだな。

※この映画はどちらかというとネタバレしないで見た方が面白いので鑑賞予定のある方はお帰りください。

 

宇宙人王さんとの遭遇 [DVD]
 

 

【あらすじ】

 ローマに住む中国語通訳のガイアは高額の報酬に誘われて得体の知れない依頼を受ける。いくつかの質問の通訳をするが、相手の姿を見ることが出来ない。やっと見ることができた姿は、イカによく似た宇宙人だった。

 

【感想】

 タイトルだけやたらと頭に残っていたので鑑賞。想像した通りの話ではあったけど、予算が低そうな映画にしては結構面白かったと思う。

 

 何より基本的に密室劇で、映画の三分の二以上が宇宙人王さんのいる部屋とその周辺で登場人物も過不足があまりない。拘束された宇宙人王さんと通訳と役人。その他として役人その2と最初に宇宙人王さんが侵入した家の人くらい。そして展開されるのは宇宙人王さんと役人の全くかみ合わない話。その展望の間に挟まれた通訳のとった行動は、宇宙人の側に立つことでした。

 

 この映画の面白いところは痛快なラストや中国人批判につながるブラックな話もですが、密室で怒鳴られ続けると人間がどうなるかということも暗に描いているところだと思う。映画の途中、密室でひたすら怒鳴っているシーンは見ていて辛いものがあった。ずっと見ていると本当に宇宙人の言っていることが正しくて、恫喝を続ける役人が悪者のように見えてくる。この「怒鳴る=悪」「責められている=善」という感覚も万国共通かもしれない。

 

 そういうわけで場面のほとんどが地下の一室で、しかも登場人物はたったの数人。王さんもそこまで手の込んだ作りでもないし、映像だけ見ていれば非常に退屈な映画。ただそうすることで「王さんは本当のことを言っているのだろうか」という一点に観客の思考を向かわせるという高度なことをしているのかもしれない。

 

 ある意味スカッとするラストはそのモヤモヤが一気に解決するからかもしれない。途中で「いやでも宇宙人のこと全面に信用していいいの?」と不安に思う人もいるだろうし、「いいぞ正義の宇宙人を助けてやれ」と思う人もいるだろう。前者なら「ほーらやっぱり!」となるし、後者なら「やられた!」と思うだろう。そんな映画に振り回されてこそ、ラストの一言がしみてくると思います。おまえ、バカだな。

 

感想「ゆりかごを揺らす手」

 そうさ100%逆恨み もうやりきるしかないさ

 

ゆりかごを揺らす手 [DVD]

ゆりかごを揺らす手 [DVD]

 

 

【あらすじ】

 第二子が生まれてベビーシッターを雇ったクレアとマイケル。しかしやってきたベビーシッター、ペイトンはクレアに恨みを持っていた。

 

【感想】

 結論。悪いのはペイトン旦那。以上。

 

 これで終わってしまうのもなんなのでこの映画を見た動機なども書いていきます。

 

 前に地上波で放送していた「サイコハウス」って映画がありまして、それがタイトルのド直球なB級具合を裏切ってまあまあ面白かったんです。それで、同じ原作と思われるこっちの作品も見てみたくなった次第です。あと「ゆりかごを揺らす手」も見てわかったんですが、「エスター」の元ネタですね。エスターが好きな人はどちらも間違いなく好きかと思われます。ちなみにエスターのほうがよくできていてめっちゃ面白いです。

 

サイコハウス(字幕版)

サイコハウス(字幕版)

 

 

 で、「サイコハウス」と「ゆりかごを揺らす手」はあらすじはどちらも同じで恨み(と一言で言っていいのかあれな感情)を持った女性が一家を分断するためにやってくるというものです。「サイコハウス」はその辺は完全に一家知らんがなの超絶理不尽仕立てになっていてそれはそれで怖かったのですが、「ゆりかごを揺らす手」のほうは理不尽といえば理不尽ですが、ペイトンがただの理不尽お化けかと言えばそうでもないというのが辛いところ。

 

 ペイトンの夫は産婦人科医だったけれど、妊娠中のクレアに触診と言って明らかにわいせつなことをしちゃっていた。それでクレアが訴えたところ他にも被害にあったという女性が名乗り出て、それで追い詰められたペイトン夫は拳銃で自分の頭をパーン。損害賠償など全部が降りかかってきたペイトンは倒れ、妊娠していた子は残念なことに。そしてその恨みは最初に告発したクレアに向かうことになるんだけど……。

 

 クレア悪くないし、むしろ被害者だし。1000%くらいペイトン夫の責任しかない。身重の妻がいて何やってるんだよ。そんでなんで自殺してるんだよ。おまえの自殺で死ななくていい人が何人か死んでしまったぞどうしてくれるんだ。

 

 そんでとにかくペイトンの復讐がとにかく気持ち悪い。「サイコハウス」もなかなか気持ち悪いんだけど、やり方がウェッティというか、復讐の他に「母親になった欲を満たしたい」っていうのがあって、それはそれは情念というか怨念というかドロドロしたものがありまして、何回か「うひゃあ」と思いました。

 

 あと「ゆりかごを揺らす手」には知的障害を持った黒人という「俺は無垢ですよ」と全力で主張する設定の登場人物がいるのも話にウェット感をもたらしている気がする。そして都合のいい役回りに配置されている便利屋さんになっている。ラストなどは見ている人によってはスカっとするかもしれない。

 

 で、映画が全部終わってペイトンの企みも阻止できてめでたしめでたし、のはずなのにやっぱり「いや、悪いのはペイトン旦那だろう」としか思えないのでこのプロットはよくなかったのかもしれない。最高に悪い奴がさっさと退場するというのも相当なストレスだ。こういう後味の悪さはあんまりないかもしれない。

 

 できれば「サイコハウス」を見てから見た方が面白いかもしれない。あっちはプロットはほとんど一緒で、単純に狂気が先走りすぎてある意味気持ちがいい。でもB級臭がきついと感じるのは「サイコハウス」なんてくそダサい邦題のせいなんだ……誰だこんな邦題をつけた奴は。やっつけにも程があるってもんだよぅ。

 

感想「ギャラクシー街道」

 香取慎吾がかわいそうだ。

 

 

【あらすじ】

 通称ギャラクシー街道にある寂れたバーガーショップ。店主のノアは妻のノエの浮気を疑っていた。ちらちらとバーガーショップにやってくる客それぞれにドラマがあり、それぞれになんか悩んでいるらしい。

 

【感想】

 あまりにもひどい前評判のため逆に見たいなぁと思って鑑賞。前評判ヤバいと逆にワクワクするけど、途中で気分悪くなって一度離脱するくらいの何かでした……どうしてこうなった。

 

 まず美術。セット自体は雰囲気あるんだけど、映画の内容とマッチしてない気がする。ダイナーのドタバタみたいな感じにしたかったんだろうけど、明らかにコメディにしては画面が暗い。そしてギャグ自体もなんか生々しい。笑うに笑えない。一言で言うとつらい。

 

 次に登場人物。人間的に魅力のあるキャラクターが本当にいない。それでいてキャラクターのクズ度を楽しむドラマでもない。何より主演の香取慎吾のキャラクターが全体的にひどい。ひどいキャラクターが更生していく話なのかと思ったけど、特に何もなく終わる。更に宇宙人の名前を覚えるのが難しい。一言で言うとつらい。

 

 最後に脚本。何をやっているのかわからない。基本動作が机に座ってボソボソ喋っているだけなので何が起こっているのかよくわからない。話の内容が面白いかというとそうでもない。群像劇だということはわかっているけど、それにしても何がしたいのかさっぱりわからない。ドラマとしての着地点が見えない。だから余計話の内容がわからない。一言で言うとつらい。

 

 そもそも宇宙のハンバーガー屋さんにする必然性がよくわからなかった。なんていうか、キャラクターの嫌らしいところを「宇宙人だから」で全部片付けてしまえばいいみたいなあざとい感じがイヤだなぁと思った。「惑星ソラリス」の念じたら物体が具現化する奴と「バーバレラ」の「手のひら合わせたセックス」がやりたかっただけなのでは……? あと西川貴教が出てくる意味もわからなかった。彼はあの出産騒動のときもずっと隅っこでハンバーガー食べてたのかな。あまりにも不憫だ。一言で言えないくらいつらい。

 

 全体的にあまりにも不憫な映画だった。あまりにもつまらなくて一度離脱してしまったくらいつまらなかった。映画館で見た人、お疲れ様でしたね。本当にお疲れ様だよ。香取慎吾小栗旬も相当不憫だ。綾瀬はるかはかわいかった。おしまい。

 

感想「ラヂオの時間」

 全ては千本ノッコのために。

 

ラヂオの時間

ラヂオの時間

 

 

【あらすじ】

 ラジオドラマの生放送が行われる。脚本は賞に応募した主婦のもので、平凡な女性のメロドラマの予定であった。しかし主役の千本ノッコが「こんな役イヤ、もっと華やかな役がいい」と言い出したことで舞台は熱海からアメリカへ、そして変更のためつじつまの合わないことをその都度なんとかしていかなければならなくなる。生放送の中、関係者が走り回る。

 

【感想】

 「カメラを止めるな!」で真っ先に思い出した作品。ずいぶん昔に見た映画だけど、こういうドタバタとしては基本的に古くなってないと思う。今見てもギャグ自体は面白い。だけど時代を感じる部分は多くあって、それが「この映画の時代もかなり昔になったんだなぁ」と思わせました。特に8センチシングル。あのシングルが売られていた時代を知らない人たちが成人しているからなぁ。そう考えると、「あの時代」っていうのは結構特殊な時代だったのかもしれない。

 

 ドタバタコメディなので軽く笑ってアハハと見るのが面白い映画なんだけど、「本当に脚本家は不倫をしたがっていたのか」というのが結構宙ぶらりんで終わってるんだよね。そこは話の本筋としてはどうでもいいといえばどうでもいいけど、「脚本家が不倫したいから書いた脚本」として読み取るのもつまらないと思う。そういうわけで逆の読み方をしてみる。退屈な日常の妄想の結果が脚本なのではなく、脚本を書こうとした結果日常が取り込まれたのがあの脚本なのではないだろうか。お話の筋は大体できていて、細かい部分をよく知っている日常から引っ張ってくることはよくある。それに自分と近い物事のほうが細部を知っているので書きやすい。そして自分から生まれた作品は自分の子供に等しい。

 

 だからこそ、収録中立てこもっても「ホンの通りにやってください!」と訴えたかったのだろう。あの場にいる全員が彼女を「素人の作家」として軽視しているのが気になった。素人でも一本の脚本を書き上げてラジオドラマになっているんだから、十分先生として尊重する必要があると思う。それをあーだこーだと自分の子供をあることないことされてしまっては怒りたくもなる。「ドナルドは帰ってこなければいけないんです!」というのは自分の感情と照らし合わせたのではなく、作家としてのプライドからだったのではないだろうか。

 

 そんなことはこの映画にどこにもありませんが、「脚本が勝手に書き換えられる」という理不尽を三谷幸喜が経験したことで生まれた作品なので、そういう作家としての矜持を感じました。難しいことだけどね。おしまい。

 

 

感想「カメラを止めるな!」

あの交差点でみんながもしスキップをしてー。

 


映画『カメラを止めるな!』予告編

 

【あらすじ】

とあるゾンビ映画の撮影。急に本物のゾンビが現れる。それは思うようなカットが出来ない監督が呼び出したゾンビだった……かーらーのー?

 

【感想(ネタバレなし)】

 評判になってから見たい見たいと思っていて、ほぼ前情報なしで見に行きました。正直な感想は、めちゃくちゃ面白かったというものです。だけど万人向けに面白いかと言われると微妙で、「刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる」ものだと思うのです。「映画はジブリと日本の恋愛映画しか見ない」と言う人には難易度が高いけど、普段からゾンビものを見ている人には「あるあるー」という感じかなぁというところです。以降、何を書いてもネタバレになる気しかしないので鑑賞予定のある方はお帰りください。

 

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]

 

 

【感想(ネタバレあり)】

 本当に終始笑いっぱなしの作品でした。前半の「カメラを止めるなよ!」あたりで「あ、これワンカットもの!?」とワクワクしました。前情報をカットしすぎてて「ワンカットもの」ということすら遮断していたのでそこは非常に面白かったです。どっかで「二週目だからって最初の怖いシーンで笑ってんじゃないよ」みたいな感想を見たのですが、初見でも前半は笑いどころありまくりじゃん! めちゃくちゃ面白かったよ。監督のキレっぷりだけで「コワすぎの工藤Dっぽいなぁ」とか思ってニヤニヤしたし、後々わかる山越くんのさりげないモブ具合とかぶしゅぶしゅ飛び出る血糊とか「血の呪文」とかいう陳腐なネーミングとかカメラごろりが「ブレアウィッチかよ!」とか無意味に「アクショーン!」と割ってくる監督とかバーサークと化したメイクさんとか。笑うところじゃない? え?

 

 各所で「ネタバレ厳禁」みたいに言われているのって、斬新なラストとかそういう意味ではなく、「ギャグコメディだから」だと思う。ギャグは解説するのが難しいし、事前にギャグを知ってしまうとやはり面白さ半減だと思う。この映画の場合はわかっていても面白いけどね。

 

 あとやっぱり「ポン!」は卑怯です。序盤で護身術を披露しておいて、前半のクライマックスでの「PONPONPON」ときゃりぱみゅ状態なのは笑うしかないです。真似してみたくなった、「ポン!」。

 

 そんで後半からずっと『ラヂオの時間』が頭の中にありました。一つの作品を生放送でなんとか形にしようとしてしっちゃかめっちゃかになるっていう、アレ。こっちはスタジオ内の出来事で演劇寄りの映画。そして『カメラを止めるな!』は映画の中で映画を撮っている映画を撮っているという3重構造になっている。メタメタなわけですな、うむ。

 

ラヂオの時間

ラヂオの時間

 

 

 もう一度見れたら見たいのが「カメラワークの変化」です。ワンカットものだと気が付いてからモキュメンタリーの見すぎで「カメラマンも映画の中に存在する」とばかり思っていました。だから途中で「このカメラの人はみんなにシカトされてるのかな」と本気で思っていました。モキュメンタリーの見すぎです。多分明確なワークの変化があるはずなので、そこをしっかり見たいです。

 

 あと小ネタが基本的に最高でした。娘Tシャツは笑うところ。あと監督の初っ端のキレっぷりは2回目でさらに意味がわかって笑えるというところもよかったです。この映画の脚本は相当練られているし、ともすれば寒い感じで終わる映画をこれだけ熱く魅せることができたのは大成功だと思う。もう一周したいなぁ。おわり。