傍線部Aより愛を込めて ~映画の傍線部解釈~

主にひとり映画反省会。人の嫌いなものが好きらしい。

感想「ゆりかごを揺らす手」

 そうさ100%逆恨み もうやりきるしかないさ

 

ゆりかごを揺らす手 [DVD]

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【あらすじ】

 第二子が生まれてベビーシッターを雇ったクレアとマイケル。しかしやってきたベビーシッター、ペイトンはクレアに恨みを持っていた。

 

【感想】

 結論。悪いのはペイトン旦那。以上。

 

 これで終わってしまうのもなんなのでこの映画を見た動機なども書いていきます。

 

 前に地上波で放送していた「サイコハウス」って映画がありまして、それがタイトルのド直球なB級具合を裏切ってまあまあ面白かったんです。それで、同じ原作と思われるこっちの作品も見てみたくなった次第です。あと「ゆりかごを揺らす手」も見てわかったんですが、「エスター」の元ネタですね。エスターが好きな人はどちらも間違いなく好きかと思われます。ちなみにエスターのほうがよくできていてめっちゃ面白いです。

 

サイコハウス(字幕版)

サイコハウス(字幕版)

 

 

 で、「サイコハウス」と「ゆりかごを揺らす手」はあらすじはどちらも同じで恨み(と一言で言っていいのかあれな感情)を持った女性が一家を分断するためにやってくるというものです。「サイコハウス」はその辺は完全に一家知らんがなの超絶理不尽仕立てになっていてそれはそれで怖かったのですが、「ゆりかごを揺らす手」のほうは理不尽といえば理不尽ですが、ペイトンがただの理不尽お化けかと言えばそうでもないというのが辛いところ。

 

 ペイトンの夫は産婦人科医だったけれど、妊娠中のクレアに触診と言って明らかにわいせつなことをしちゃっていた。それでクレアが訴えたところ他にも被害にあったという女性が名乗り出て、それで追い詰められたペイトン夫は拳銃で自分の頭をパーン。損害賠償など全部が降りかかってきたペイトンは倒れ、妊娠していた子は残念なことに。そしてその恨みは最初に告発したクレアに向かうことになるんだけど……。

 

 クレア悪くないし、むしろ被害者だし。1000%くらいペイトン夫の責任しかない。身重の妻がいて何やってるんだよ。そんでなんで自殺してるんだよ。おまえの自殺で死ななくていい人が何人か死んでしまったぞどうしてくれるんだ。

 

 そんでとにかくペイトンの復讐がとにかく気持ち悪い。「サイコハウス」もなかなか気持ち悪いんだけど、やり方がウェッティというか、復讐の他に「母親になった欲を満たしたい」っていうのがあって、それはそれは情念というか怨念というかドロドロしたものがありまして、何回か「うひゃあ」と思いました。

 

 あと「ゆりかごを揺らす手」には知的障害を持った黒人という「俺は無垢ですよ」と全力で主張する設定の登場人物がいるのも話にウェット感をもたらしている気がする。そして都合のいい役回りに配置されている便利屋さんになっている。ラストなどは見ている人によってはスカっとするかもしれない。

 

 で、映画が全部終わってペイトンの企みも阻止できてめでたしめでたし、のはずなのにやっぱり「いや、悪いのはペイトン旦那だろう」としか思えないのでこのプロットはよくなかったのかもしれない。最高に悪い奴がさっさと退場するというのも相当なストレスだ。こういう後味の悪さはあんまりないかもしれない。

 

 できれば「サイコハウス」を見てから見た方が面白いかもしれない。あっちはプロットはほとんど一緒で、単純に狂気が先走りすぎてある意味気持ちがいい。でもB級臭がきついと感じるのは「サイコハウス」なんてくそダサい邦題のせいなんだ……誰だこんな邦題をつけた奴は。やっつけにも程があるってもんだよぅ。

 

感想「ギャラクシー街道」

 香取慎吾がかわいそうだ。

 

 

【あらすじ】

 通称ギャラクシー街道にある寂れたバーガーショップ。店主のノアは妻のノエの浮気を疑っていた。ちらちらとバーガーショップにやってくる客それぞれにドラマがあり、それぞれになんか悩んでいるらしい。

 

【感想】

 あまりにもひどい前評判のため逆に見たいなぁと思って鑑賞。前評判ヤバいと逆にワクワクするけど、途中で気分悪くなって一度離脱するくらいの何かでした……どうしてこうなった。

 

 まず美術。セット自体は雰囲気あるんだけど、映画の内容とマッチしてない気がする。ダイナーのドタバタみたいな感じにしたかったんだろうけど、明らかにコメディにしては画面が暗い。そしてギャグ自体もなんか生々しい。笑うに笑えない。一言で言うとつらい。

 

 次に登場人物。人間的に魅力のあるキャラクターが本当にいない。それでいてキャラクターのクズ度を楽しむドラマでもない。何より主演の香取慎吾のキャラクターが全体的にひどい。ひどいキャラクターが更生していく話なのかと思ったけど、特に何もなく終わる。更に宇宙人の名前を覚えるのが難しい。一言で言うとつらい。

 

 最後に脚本。何をやっているのかわからない。基本動作が机に座ってボソボソ喋っているだけなので何が起こっているのかよくわからない。話の内容が面白いかというとそうでもない。群像劇だということはわかっているけど、それにしても何がしたいのかさっぱりわからない。ドラマとしての着地点が見えない。だから余計話の内容がわからない。一言で言うとつらい。

 

 そもそも宇宙のハンバーガー屋さんにする必然性がよくわからなかった。なんていうか、キャラクターの嫌らしいところを「宇宙人だから」で全部片付けてしまえばいいみたいなあざとい感じがイヤだなぁと思った。「惑星ソラリス」の念じたら物体が具現化する奴と「バーバレラ」の「手のひら合わせたセックス」がやりたかっただけなのでは……? あと西川貴教が出てくる意味もわからなかった。彼はあの出産騒動のときもずっと隅っこでハンバーガー食べてたのかな。あまりにも不憫だ。一言で言えないくらいつらい。

 

 全体的にあまりにも不憫な映画だった。あまりにもつまらなくて一度離脱してしまったくらいつまらなかった。映画館で見た人、お疲れ様でしたね。本当にお疲れ様だよ。香取慎吾小栗旬も相当不憫だ。綾瀬はるかはかわいかった。おしまい。

 

感想「ラヂオの時間」

 全ては千本ノッコのために。

 

ラヂオの時間

ラヂオの時間

 

 

【あらすじ】

 ラジオドラマの生放送が行われる。脚本は賞に応募した主婦のもので、平凡な女性のメロドラマの予定であった。しかし主役の千本ノッコが「こんな役イヤ、もっと華やかな役がいい」と言い出したことで舞台は熱海からアメリカへ、そして変更のためつじつまの合わないことをその都度なんとかしていかなければならなくなる。生放送の中、関係者が走り回る。

 

【感想】

 「カメラを止めるな!」で真っ先に思い出した作品。ずいぶん昔に見た映画だけど、こういうドタバタとしては基本的に古くなってないと思う。今見てもギャグ自体は面白い。だけど時代を感じる部分は多くあって、それが「この映画の時代もかなり昔になったんだなぁ」と思わせました。特に8センチシングル。あのシングルが売られていた時代を知らない人たちが成人しているからなぁ。そう考えると、「あの時代」っていうのは結構特殊な時代だったのかもしれない。

 

 ドタバタコメディなので軽く笑ってアハハと見るのが面白い映画なんだけど、「本当に脚本家は不倫をしたがっていたのか」というのが結構宙ぶらりんで終わってるんだよね。そこは話の本筋としてはどうでもいいといえばどうでもいいけど、「脚本家が不倫したいから書いた脚本」として読み取るのもつまらないと思う。そういうわけで逆の読み方をしてみる。退屈な日常の妄想の結果が脚本なのではなく、脚本を書こうとした結果日常が取り込まれたのがあの脚本なのではないだろうか。お話の筋は大体できていて、細かい部分をよく知っている日常から引っ張ってくることはよくある。それに自分と近い物事のほうが細部を知っているので書きやすい。そして自分から生まれた作品は自分の子供に等しい。

 

 だからこそ、収録中立てこもっても「ホンの通りにやってください!」と訴えたかったのだろう。あの場にいる全員が彼女を「素人の作家」として軽視しているのが気になった。素人でも一本の脚本を書き上げてラジオドラマになっているんだから、十分先生として尊重する必要があると思う。それをあーだこーだと自分の子供をあることないことされてしまっては怒りたくもなる。「ドナルドは帰ってこなければいけないんです!」というのは自分の感情と照らし合わせたのではなく、作家としてのプライドからだったのではないだろうか。

 

 そんなことはこの映画にどこにもありませんが、「脚本が勝手に書き換えられる」という理不尽を三谷幸喜が経験したことで生まれた作品なので、そういう作家としての矜持を感じました。難しいことだけどね。おしまい。

 

 

感想「カメラを止めるな!」

あの交差点でみんながもしスキップをしてー。

 


映画『カメラを止めるな!』予告編

 

【あらすじ】

とあるゾンビ映画の撮影。急に本物のゾンビが現れる。それは思うようなカットが出来ない監督が呼び出したゾンビだった……かーらーのー?

 

【感想(ネタバレなし)】

 評判になってから見たい見たいと思っていて、ほぼ前情報なしで見に行きました。正直な感想は、めちゃくちゃ面白かったというものです。だけど万人向けに面白いかと言われると微妙で、「刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる」ものだと思うのです。「映画はジブリと日本の恋愛映画しか見ない」と言う人には難易度が高いけど、普段からゾンビものを見ている人には「あるあるー」という感じかなぁというところです。以降、何を書いてもネタバレになる気しかしないので鑑賞予定のある方はお帰りください。

 

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]

Keep Rolling (映画『カメラを止めるな!』主題歌) [feat. 山本真由美]

 

 

【感想(ネタバレあり)】

 本当に終始笑いっぱなしの作品でした。前半の「カメラを止めるなよ!」あたりで「あ、これワンカットもの!?」とワクワクしました。前情報をカットしすぎてて「ワンカットもの」ということすら遮断していたのでそこは非常に面白かったです。どっかで「二週目だからって最初の怖いシーンで笑ってんじゃないよ」みたいな感想を見たのですが、初見でも前半は笑いどころありまくりじゃん! めちゃくちゃ面白かったよ。監督のキレっぷりだけで「コワすぎの工藤Dっぽいなぁ」とか思ってニヤニヤしたし、後々わかる山越くんのさりげないモブ具合とかぶしゅぶしゅ飛び出る血糊とか「血の呪文」とかいう陳腐なネーミングとかカメラごろりが「ブレアウィッチかよ!」とか無意味に「アクショーン!」と割ってくる監督とかバーサークと化したメイクさんとか。笑うところじゃない? え?

 

 各所で「ネタバレ厳禁」みたいに言われているのって、斬新なラストとかそういう意味ではなく、「ギャグコメディだから」だと思う。ギャグは解説するのが難しいし、事前にギャグを知ってしまうとやはり面白さ半減だと思う。この映画の場合はわかっていても面白いけどね。

 

 あとやっぱり「ポン!」は卑怯です。序盤で護身術を披露しておいて、前半のクライマックスでの「PONPONPON」ときゃりぱみゅ状態なのは笑うしかないです。真似してみたくなった、「ポン!」。

 

 そんで後半からずっと『ラヂオの時間』が頭の中にありました。一つの作品を生放送でなんとか形にしようとしてしっちゃかめっちゃかになるっていう、アレ。こっちはスタジオ内の出来事で演劇寄りの映画。そして『カメラを止めるな!』は映画の中で映画を撮っている映画を撮っているという3重構造になっている。メタメタなわけですな、うむ。

 

ラヂオの時間

ラヂオの時間

 

 

 もう一度見れたら見たいのが「カメラワークの変化」です。ワンカットものだと気が付いてからモキュメンタリーの見すぎで「カメラマンも映画の中に存在する」とばかり思っていました。だから途中で「このカメラの人はみんなにシカトされてるのかな」と本気で思っていました。モキュメンタリーの見すぎです。多分明確なワークの変化があるはずなので、そこをしっかり見たいです。

 

 あと小ネタが基本的に最高でした。娘Tシャツは笑うところ。あと監督の初っ端のキレっぷりは2回目でさらに意味がわかって笑えるというところもよかったです。この映画の脚本は相当練られているし、ともすれば寒い感じで終わる映画をこれだけ熱く魅せることができたのは大成功だと思う。もう一周したいなぁ。おわり。

 

感想「リメンバー・ミー」

 音楽は「呪い」。

 


映画『リメンバー・ミー』日本版予告編

 

【あらすじ】

 メキシコに住む少年ミゲルは音楽が大好きだったが、彼の祖母の祖父が「音楽で成功してくる」と言い残し蒸発したことで音楽を禁止されていた。ところがひょんなことから尊敬するミュージシャンのエルネスト・デラクルスが蒸発した高祖父であることがわかり、死者の日に行われるコンテストに出るために霊廟に飾っていあるデラクルスのギターを失敬する。するとたちまちミゲルは死者の仲間入りをしてしまう。日の出までに「家族」から許しをもらうため、ミゲルは死者の国を奔走する。

 

【感想(ネタバレなし)】

 安定のピクサーでした。というか、メキシコの死者の日を題材にした時点で映像美まっしぐらだし、家族モノということでエンディングもクオリティを約束されていたようなもので、とにかく安心して見ることができました。

 

 正直に言うと、ストーリーに特に目新しい何かがあるわけではありません。それを「退屈」と捉えてしまう大人もいるかもしれません。でも自分は映画に関しては「映像美を探求するならストーリーはわかりやすいほうがいい」と思っています。この映画はストーリーの妙を楽しむのではなく、その間や余韻を味わうものだと思うのです。特にラストは余韻がじんわり来ます。じんわりです。

 

 それから、まぁ、なんていうか、とにかく見ろ! という感じです。理屈でアレコレやるんじゃなくて音楽と映像でワハハってなってウエーンってなる感じの映画です。深く考えるのは映画を見てからのお楽しみって奴です。以下映画を見た人様に感想と言うかなんかアレコレです。ネタバレになりますので死にたくない方はお帰りください。

 

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

 

 

【感想(ネタバレあり)】

 ディズニーで骸骨と言えば「骸骨の踊り」。ホラー苦手な人にとってはかなり怖いアニメーションかもしれないので覚悟して見てください。

 


骸骨の踊りsilly symphony1 the skeleton dance 19290822

 

 骨を外して自由自在な動きが出来る骸骨と言うモチーフをコミカルに描写していて、流石ディズニーという感じです。今回の作品も「骨」というギミックをフルに生かした描写はたくさんありました。「死んでいる」という恐ろしい記号にとどまらず骸骨というキャラクターはそれだけでコミカルになるのは何ででしょう。

 

 それから「死者の国が華やかでイイネ!流石ディズニー!」とか思う人も多いかもしれませんが、この手の映画で名前を出さないわけにはいかない人が「ティム・バートン」です。「ビートルジュース」では死者の世界を面白おかしく描写し、「コープス・ブライド」ではモノクロの現世に対して鮮やかな死者の世界を描いています。死者の国の通行ゲートなどはビートルジュースの受付みたいだなぁとか思ってました。

 

 そんな外側の話は置いておいて今作なんですが、単純に泣ける話です。どうせリメンバーミーで思い出すんだろうなーっていうのは大人なら途中でわかりそうなものなんです。わかっていても、泣いてしまう。だって物語がすごく単純だから。原題は「Coco」で、それは「リメンバーミー」が歌われるべきたった一人の人の話だから。そこでもうグッときちゃうわけですよ。おばあちゃんは大事。

 

 この映画で一番好きなのは、序盤で「音楽は呪いだからやってはいけない」と散々言われていたことです。そう、音楽は呪いです。それは家族を引き裂くものにもなるけれど、逆に家族を思い出すことのできる深い結びつきのあるものでもあります。へクターは「リメンバーミー」を娘に送ることで娘の記憶の中にいつまでも生き続け、ココは再び会いたかったパパに会えました。つまり音楽最高! ということですかね。どちらかというと呪いは音楽ではなく、「夫(父親)が出て行った」という事実のような気がします。ラストではその誤解が解けたので大団円になったのだと思います。

 

  ただ全編を通して引っかかったのが、「家族は素晴らしい」というこの映画のテーマが苦しめる人もたくさんいるだろうなということです。ミゲルは「こんな家族は嫌いだ」と言いますが、やはり皆のことを大切に思っていました。「生まれだけで全てが決められる」のは現代では野蛮なことと言われるでしょう。最近では「家族みんなで集まって食事」というシーンだけでも吐き気がするなんていう感想が大腕を振るようになってきました。そんな中公開された「リメンバー・ミー」を見てやはり反吐が出ると思う意見もあると思います。というか、「これを見て感動する奴の薄っぺらい心理がうんがふんが!」みたいな感じかなぁ。

 

 多分それはそれでアリなんだろう。だけど家族を大切にしていない人にも何か大切にしているものがあると思う。それを貶されるのは、やはり気分がよくないんじゃないかな。昨今の家族の語られ方についてもう少しみんな大人になったほうがいいんじゃないかなぁと思う。

 

 物語としては特筆すべきところはあまりありません。物語の教科書通りの展開です。しかし丁寧に作られていますし、何よりキャラクターが生きている(死者が多いけど)。そして映像と音楽はやっぱり最高です。個人的には「マスコットキャラクターがかわいくない」というところが結構ツボでした。家でのんびりしたいときに何度も見たい映画です、ハイ。